第15話

俺の知らないサトシの40年が


とてもかいつまんで話された。



サトシが


俺の前からいなくなった理由は


ほんの些細な事で


でも


昔のサトシには


十分すぎるほどの理由だったんだろう。


若い恋人たちが


些細なことで別れていくのは


世の常じゃないか・・・。




サトシは今


最高に幸せで最高に嬉しいと言った。



それは


きっと


俺も


同じ気持ちだ。




俺たちは2人で向き合って見つめあった。


サトシが俺の髪に触れた。



「髪、染めてるの?」



俺は染めてないと答える。



「生え際とか白いよ。」



俺がそう言うとサトシは俺の髪をやさしくかきあげて



「サラサラしてる。」



と言った。



「カズヤは、昔と何も変わらない・・・。」



「そんなことない・・・すっかり歳をとったよ。


シワも深いし。腹も出てる。」



「・・・ふふっ・・・。」



サトシは微笑んで


俺の頬を撫でる。



「シワ・・・人生の勲章だな・・・。」



そしてサトシが一歩近づき


スエットの上から俺の腹をさわった。


俺はドキッとして


さっき風呂場で感じたような気持ちになった。



「・・・見せて・・・。」



サトシは俺の上着をたくし上げ


少しだけスウエットのパンツを下げた。


俺の腹がむき出しになる。


サトシが俺の腹を少し力を込めて撫でた。


恥ずかしさと


熱い感情が


こみ上げる。



「・・・子供みたいな腹だな・・・。


昔に戻ったようだ・・・。」


とほほ笑んだ。



「外見は歳をとったよ・・・お互い・・。


だけどカズヤから


放出される空気・・・匂い・・・すべてが、昔のままだ。


俺たちは、波長が合うんだ。


今も、俺とお前は同じ波長だ・・・・・。


そう感じるだろう?」


俺のスエットを元に戻しサトシが言う。



ああ・・・


確かに


サトシの言っていることが腑に落ちる。



俺たちを取り巻く環境は変わっていったけど


俺たちは取り残されたように変わらない。



俺たちは変わらなかったのか、


それとも


同じ速度で同じ方向に変わったから


それを感じないだけなのか、


わからないけど



波長が合うんだ。



昔も今も。



相手のどこが好きとか


そんなことはどうでもいいし明確に答えられない。


ただただサトシが好き。


俺はサトシが好き。


彼のすべてが


愛しくて。




サトシが


俺に口づけした。


昔のような触れるようなキス。




「こっちへ来て。」



アトリエの入って左側のドア・・・


ここは寝室につながっている・・・・はず・・・。



サトシがドアを開いた。



俺は吸い込まれるように


アトリエを後にした。

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