第12話

銭湯のように壁一面が棚になってる脱衣所で


服を脱ぎ


風呂場に入る。


タイル張りのレトロな浴室で


大きくて少し深めのバスタブも


昔ながらだった。



身体を洗い


湯につかってくつろいでると


窓の外からサトシの声がして


俺はひどく驚いた。


「湯加減はどう?」


薪風呂だから


外でサトシが火の調節をしてくれているんだ


「ありがとう・・いい湯加減だ。」



俺は、無防備に湯につかっている。


そして


この窓の向こうにサトシがいる。


恥ずかしさと気持ちの高ぶりとが


入り混じって、


まるで何も知らないうぶな子供のように


ドキドキした。


こんな感覚は


本当に久しぶりだった。



「カズヤ・・・。」


サトシが問いかける。


「何?」


と答えると



「来てくれてありがとう・・・。」




サトシが昔と変わらない声と口調で言うから


俺はなんだか涙があふれそうになった。


湯につかり


身体がリラックスして緩むと同時に


涙腺まで緩んだみたいだ。


ありがとう・・・と言われ


サトシに会えたことで


俺の人生の悲しみのすべてが浄化したような気がした。




「カズヤ・・・。」



「カズヤ・・・?」



声を出すと大声で泣いてしまいそうで


黙っていたら


サトシが心配になったらしく


ガラッと窓が開いた。



サトシと目が合う。


「すまん・・・眠ったのかと思って・・・


溺れたら大変と思って・・・・。」



俺が起きているのを確認したのに


サトシはずっと俺の目を見つめている。


俺・・・目が赤くなってるか?




「カズヤ・・・おまえ、昔と変わらないな。


綺麗な瞳だ・・・肌も・・・。」


サトシはそう言って


そっと窓を閉めた。



「サトシありがとう・・・・。俺、そろそろ出るね。」



そう言って俺は浴槽からでて脱衣所に行った。



借りたタオルで身体を拭きながら


自分の肩と腕を見る。


きっとサトシが見たのはここらへん・・・。





でも明らかに昔と変わった腹を撫でて


きっとこれをみたらサトシは幻滅するだろうと


現実に失望する。



それでも


サトシのスウエットに袖を通せば


サトシが今の俺をやさしく包んでくれているような気持ちになり


スウェットの上から


また自分の腹を撫でた。

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