第8話

「いま、ゲームの会社の社長なんだって?」


サトシが俺のスケッチをしながら話しかける。


サトシが俺に話しかける声が昔のままで


サトシの声が心地いい・・・。



俺は今の自分を説明する。



チバ氏が脇で


「驚いたな。俺がやってるゲームの会社だ。」


と言葉を挟む。



「ユーリはゲーム好きだからね。


・・・ここ、こんな田舎だけどWi-Fiのおかげで、


近代的な生活はおくれる。」


サトシが言うと



「あなたはアナログ人間だから興味ないくせに」と


チバ氏がサトシに言った。



俺は仕事柄


PCの扱いは得意だし


デジタルはすべてにおいて効率が良くて


俺の生活はそれで成り立っている。



サトシはそれとは真逆の生活を送っている。


というのをまたここで知らされる。



「あなたがもっとデジタルに興味があったら


もっと早く西野和也にたどり着いたかもね。


有名ゲーム会社の会長だからね。俺もゲームには興味あるけど


会社には興味なかったし。」



サトシとチバ氏の会話は


画家とマネージャーという感じではない。


とても親しい間柄・・・・というのが


感じ取れる。






仕事の話の後


家族の話・・・・


俺は・・・・


妻が他界そていることは


何故か・・・


言いそびれた。


というか・・・


今、ここで、チバ氏の前で


言ってはいけない気がして・・・・。





「マサユキや・・・ジュンとは今もあってる?」



絵を描きながらサトシが聞く。


俺はお茶をいただきながら


言葉を探す。



「マサユキとは・・・今も時々会ってる・・・。


彼も結婚して、子供がいるよ。」



「そう・・・。」



「ジュンとはもうずっと会ってない・・・・


ショウ・・・・・覚えてる?彼とは同じ大学で・・・学部違ったけど


サークルで一緒で、今もその時の仲間と一緒に時々


集まるよ。」



「ショウ君か・・・懐かしいな・・・。


彼はカズヤの事好きだったよね・・・。」



「え・・・そうだっけ?」



俺はとぼけてみせる。


サトシ・・・


サトシの中でそんな記憶があるんだ・・・。



「ショウ君は今何してるの?」



「ショウは弁護士・・・マサユキは家を継いで中華屋やってる。


ジュンはバーを経営してる。」



「なら、ジュンの店に飲みに行くことある?」



「ごくたまに・・・・・・。高級だから頻繁には・・・。」



俺は笑って答えたけど



・・・・俺は


高校の時


サトシが俺の前からいなくなって


寂しくて切なくて



ジュンの前で泣いた。



マサユキの前で泣いた。



2人のやさしさを利用して


俺はサトシへの想いを忘れ立ち直ろうとしたんだ。



そしてショウとも・・・・



サトシがいなくなったことで空いた


俺の隙間を


彼らが埋めてくれた。


彼らで埋めた。



だけど


俺の空間に愛が注がれれば注がれるほど


俺の隙間が広がって、


自分が空っぽになるのが怖くて



俺は


結婚した。


逃避の結婚。



そんな俺を誰が許す。



今更サトシに愛して欲しいなんて



そんなこと願えるはずもなくただ会えればいいなんて



きれいごと並べてこんなところにまで来てしまった俺は相変わらず最低。





「・・・疲れた?」



サトシが俺を見て声をかける。



「あ・・・いや・・・そうだね。少し。」



「長旅だったのに・・・すまん・・・。こんなスケッチなんかして。」


サトシが申し訳なさそにスケッチブックを閉じた。



「だいたい、あなたは絵の事になると夢中になりすぎる」


チバ氏が2杯目のお茶を入れながらっそう言った。


今度は


俺はサトシの事をたずねる番だろう。



「サトシは


俺たちの前からいなくなってから、ずっと画家を目指していたの?」



俺の知らないサトシの今までが知りたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る