第6話

モーターボートは動き出すとそんなに揺れなくて


これなら大丈夫だと思った。


「すみません、救命胴衣も無くて。泳げます?」


最近はまったく泳いでないけど


昔は得意だったから


「泳げます。」


と答えた。


「じゃあ、ボートがひっくり返っても


俺が突き落としても大丈夫ですね。」


チバ氏が笑いながら言った。


ジョークなのか本音なのか・・・・



彼はいったい・・・・


・・・サトシの何なんだろう。



マネージャー・・・・


息子?


まさか・・・・・恋人・・・・・?



そんなことが頭をよぎった時


「もう着きますよ。」


とチバ氏がの声がしてボートのスピードが緩んだ。



出発したところより


随分大きな桟橋に


人影が見えた。


痩せて


白髪の長い髪を一つに束ねた


髭の老人・・・・



サトシ・・・?


サトシ・・・。


サトシだ!!



俺は懐かしさで胸がいっぱいになった。



俺はもうサトシから目が離せない。


サトシも


俺をじっと見つめる。


ボートが桟橋に近づくにつれ


サトシとの距離が近くなる。



ここが陸地なら走って行くのに。



サトシを見つければ


俺はいつだって急いでサトシのところへ行きたいんだから。



ボートが着くと


サトシが手を差し出してくれた


俺は彼の手をつかむ。


サトシの手。


サトシが俺の手を強く握る。



昔 手をつないだ感触がよみがえる。



サトシと手をつなぐといつも嬉しかった自分。



「カズヤ・・・・。」



サトシが俺の名前を呼んだ。


俺は


サトシが俺を陸に引っ張り上げてくれた勢いで


そのままサトシに抱き着いた。



そして


俺も名前を呼ぶ。


俺の大好きだったひとの名前。



「サトシ・・・サトシ・・・・サトシ・・・。」



俺はサトシにしがみつくように抱きしめる。


サトシが俺の背中をポンポンと何度もたたく。



長いハグの後


俺たちは静かに離れて


見つめあった。



サトシが俺の顔をまじまじ見る。



「ニシ・・・俺が想像してたよりずっと紳士だ・・・」



俺もサトシを見る。



俺の中のサトシは制服姿で


サトシがどういう容貌になってるかなんて想像も出来なかったけど


まさか白髪で長髪だなんて。


髭があるなんて。


細くて小柄で身長も俺と同じくらいで


でも


声が昔のままで


まなざしも昔のままで・・・。



「よく・・・来てくれた・・・。」



そう言って


再び


俺の両手を取って握ってほほ笑んだ。


その笑顔も昔のままで



俺は


嬉しくて


嬉しくて


嬉しくて



涙があふれた。



サトシの目からも涙がこぼれた。



俺たちは40年ぶりに再会したんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る