第4話
「久しぶり過ぎて
何から話していいのかわかりません。
私の方から会いに行けばいいのですが
世間から遠ざかって生活しているうちに
いろいろな事が億劫になってしまいました。
出来たら、
カズヤの方から会いに来てくれませんか?
こんなわがままな私を許してください。
ぜひ
カズヤに会いたいのです。」
チバと名乗るマネージャーが近々連絡すると言って
その連絡が
サトシからの手紙だった。
俺は手紙を受け取り
そこに添えられていた
チバ氏のアドレスにまた連絡を入れて
予定を確認し
今日
サトシと会う。
あまりの急展開に
何か詐欺にあっているかのような錯覚に陥る・・・。
俺は
oto sasigataに会ってサトシの事を尋ねたいと思ったのに
サトシ本人と連絡が取れてしまった・・・・。
今まで
もちろん本格的に探したことは無かったけれど
会いたくて
でも会えなくて
もうずっと死ぬまで会うことは無いとも思っていた
記憶の中の人。
それが
今
サトシに
会える・・・俺は
サトシに
会おうとしている・・・。
列車がガタガタ揺れる・・・。
俺は
結婚もしたし
娘もいる。
約40年
サトシの知らない俺の生活が
流れていた。
それと同様
俺の知らない
サトシの生活があったであろう事実。
サトシは変わっただろうか?
俺は変わっただろうか?
想いは変わらない・・・。
だけど
確実に年月は過ぎた。
喜びと不安
会っていいんだろうか?
会わないほうがいいんだろうか?
それでも
会わずに後悔するより
会って後悔したほうが・・・・
・・・・後悔・・・・
何に?
昔には戻れないという現実に掛けた保険だ・・・。
こうやって
今ですら
嬉しいのか不安なのかよくわからない感情に
惑わされ
このまま列車が止まらずにどこまでも進み続ければいいとも思った。
そして
列車は
小さな無人駅に到着した。
レトロな駅に似合わない自動改札を抜けると
チバ氏が待っていた。
「こんにちは・・・お世話になります・・・。」と言うと
相変わらずぶっきらぼうに、だけど妙になれなれしく
「乗って。」
と黒い軽自動車の方を向いた。
彼はさっさと運転席に乗ってしまったので
俺は助手席に乗ろうか後部座席に乗ろうか
考える間もなく
持ってきたバッグを膝に置き
助手席に座った。
山あいのその駅前は
家も少なく閑散としていた。
車で走っても
ずっと同じ景色が続く
空、雲、木、草、空き地・・・・
すっかり田舎道だ。
また更に進むと
海が見えてきた。
春の海のブルーは
優しい・・・。
こんな
のどかな
美しいところに
サトシは住んでいるのか・・・。
サトシと会う前に
近況を聞いておきたい。
その方が覚悟が出来るだろう・・・。
俺は知念氏に聞く。
「oto sasigataさんはサトシとどういうご関係なのでしょうか?
あの・・・奥さんですか?」
不愛想な知念氏が
わざとらしく噴き出して笑う。
「あなた、見かけによらず鈍いですね。」
そしてひとしきり笑った後
「oto sasigataが緒方さん本人ですよ。」
笑うのをやめたチバ氏が鋭い声で言った。
え・・・
oto sasigataがサトシ本人・・・・?
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