第3話

個展が終了し


作品の運び出しが行われる日


俺は画廊へ行ってみた。


裏口から中へ案内される。



作業する人が数人と


それを見守る小柄な男性。


「あの人がマネージャーですよ。」


画廊の主人が視線を向けた。


すると


マネージャーがすたすたとこちらへやって来た。


一瞬緊張したが


すぐに画廊の主人に用があることが分かった。



「今回はありがとうございます。


会場使用の代金は振込させていただきました・・・。」


俺には一瞥もくれず


淡々と話を進める。



話がひと段落したところで


「・・・あの・・・」と声をかけた。


「私、こういうものなのですが・・・。」


まずは名刺を渡した。


絵画の関係者と思われたのか


無表情のまま名刺を受け取った。



けれど



名刺を見て


彼の表情が変わった。



ひどく驚いた様子で


俺を見てまた名刺を見て再び俺を見た。


そして俺の顔から足元までくまなく観察するように


眼を動かした。




俺はゲームアドバイザーだ。


ゲームクリエーターとして


会社を立ち上げ


いくつかのヒットゲームを世に出した。


おかげで


充分な地位も名誉もあり金にも困らない。


今は


もう一線からは退いて


新しいゲーム開発は


若い者の感性と技術に任せている。


会長・・・・と言えば聞こえはいいが


事実上のリタイヤだ。


それで意見やアドバイスを求められれば


それに答える位は出来るから


だから「アドバイザー」


名刺にもそう書いている。


そこにこだわりがあるわけでは無いが


やはり世間では


「肩書」が必要な場面が多いから


重宝させてもらっている。



名刺を見て


怪しげな者と判断したんだろうか。


彼の様子を見て不安になる。


だけど


せっかく巡り合ったサトシの痕跡を逃してはいけない。


俺はどうしても


oto sasigataに会いたい。


・・・いやサトシに会いたい・・・。



「あなた、いくつ?」


鋭い目で俺を見ながら急に彼が聞いてきた。


初対面なのに


少しなれなれしい。



「55歳です。」



「・・・・ふうん・・・もっと若く見える。40歳くらいに・・・。」



「きっと小柄だからじゃないですか。声も高いし・・・。


童顔ってよく言われますけど、ふつうに皺とか深いですよ。」



「髪・・・黒いね。染めてる?」



「いいえ、白髪あまりないので。でも生え際は白いです。」


俺は前髪をかき上げて見せた。


いったい何を確かめているんだろうと思いながら


俺の本題を言いかける。



「・・・あの、oto sasigataさんって・・・・」



「会いたいですか?」


と彼が言った。



あまりのストレートな言葉に驚いて


俺はまるで子供のように


「はい!」と返事をしてしまった。



「あいにく私は名刺を持っていないのですが


チバユウリといいます。近々このアドレスに連絡します。では。」



俺の名刺を観ながら彼はそう言って深く頭を下げると


向こうへ行ったしまった。



画廊の主人がおどろいて俺を見る。


「あなた・・・・誰ですか・・・?彼が興味を示すなんて・・・


いままで、そんなことは・・・・いったいあなたは・・・。」



俺も


おどろいている。


こんなにあっさり彼女に会えるかもしれないなんて・・・!


でもいったいなぜ・・・。


「どういう事なんでしょう?oto sasigataには誰もあったことが無いんですよね・・・。」


俺は画廊の主人に


こういう展開になった理由を


聞きたかった。


もちろん


主人もわからない。



そして



数日後に


届いたのがサトシからの手紙だった。

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