第1章 花屋敷の呪い児9
(まるで、花の加護だな)
それは怪異の類いや呪いの類いを寄せ付けないためだろうか。
昔、層長が言っていた。桃の花には、破邪の効果があるのだとか……でも、下層である地獄層に桃の花なんてものは流通しない。まがい物、造花がせいぜいといったところだ。
だが此処には一見しただけでも、桃以外の花もあるらしかった。
調度品の数々も下層では見たことのないものばかり。
赤を基調とした華やかな物ばかりで、如何にもマオが好みそうだなと思った。
「マオ……」
俺は改めてマオに向き直ると小さく息を吐いた。
背負っていた時にも感じたが、発熱しているとはいえ異常な苦しみ方だ。
「まさか……ただの発熱じゃないのか?」
「その通りよ」
何気ない俺の呟き、応える声があった。
声がしたほうを振り向くと、〝銀の使い〟の腕に抱かれる形で一人の少女がそこにいた。
長く続く血の川のような深紅の髪。白磁器を思わせる白い肌。そして異端の紅い瞳を宿した少女は、極々自然のことのようにそう言ってのけた。
「その娘は、呪いに侵されているわ」
「な……っ」
その言葉に、驚愕する。
マオが誰かから呪いを貰うようなことをするとは、到底思えなかったからだ。
素直が取り柄の、俺の幼馴染み。
誰かを怨むようなことも、怨みをかうようなこともしない筈だ。
「頼む! マオを、マオを呪いから助けてやってくれ! コイツは俺の幼馴染みなんだ! 金なら、なんとかして……払う。だから――!」
「〝紅の君〟は、金品など欲しない」
俺の嘆願を遮るかたちで、〝銀の使い〟は言葉を続ける。
「我が主が望むのは、数多の呪いを蒐集することだ」
「呪いを、蒐集……?」
意味も理由も分からない。けれど今こうしてマオを助ける手立てがあるのなら、何にだって――そう、鬼にも怪異にすらも縋ろうと思った。
「この世に解けない呪いなんて、ありません」
〝銀の使い〟の腕から降り立った少女――〝紅の君〟は宣言した。
大なり小なり、この世界には呪いが蔓延している。
だが、この少女は断言した。
解けない呪いはない、と。
それはつまりマオに掛けられた呪いから助かることを意味している。
「俺に何かできることはないか?」
「ない。貴様にできることは何もない」
それは拒絶に近い言葉だった。
ぴしゃりと撥ね除けるようなその言葉に、グッと尻込みしそうになるのを堪え、俺は更に言葉を続ける。
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