第1章 花屋敷の呪い児3
(やっぱり何かあったな……)
それは幼馴染みだから気づけることだ。
マオは不安なこと、悲しいことがあると真っ先に俺を朝ご飯に誘う。
たまに杞憂なこともあるが、大体は当たっていてその度に相談事に耳を貸していた。
「マオはどうだ? 最近なにかあったか?」
「あー……、あのね。別に大したことじゃないんだけど」
「なんだ? 勿体ぶって」
「怒らない?」
「怒らねぇよ、別に」
マオはたっぷりと豆乳の入った器の底から具を掻き混ぜながらポツリと呟いた。
「……最近ね、少し困ったお客さんがいるの。ワタシは客引きだけで、店に招いたらあとはお姉様方にお願いするんだけど……やたらワタシに相手をして欲しいって迫ってくるの」
「な……っ!」
思わず匙を握る手に力が籠もる。
いつかはマオも成長して、客を取る日が来る。
そのことは頭の中で理解はしていた。していたけども、こうも早く訪れるとは想わなかった。
「勿論、お姉様方は反対してる。まだワタシには早いって……。ワタシも正直怖いもの。でも、ここ最近毎日通い詰めてきてね、お姉様方や奥様にまで迷惑をかけてるんだ」
それがとても申し訳ないの、そう言ってマオは吹き冷ました甜豆漿を一口頬張った。
美味しいと呟きながら咀嚼をしていても、その表情は晴れることはない。
「…………」
「…………」
互いに降りる沈黙。
それは解決策を模索する時間としては、長くも、短くも感じられた。
ただマオに言えることがあるとするなら、一つだけだった。
「マオには、客を取って欲しくない」
「え……」
「もしそうなら、どうしてもその時が来るのなら俺がマオのことを大切にしたい」
「ゴウ……」
俺の本心だった。
たとえ独占欲からくる感情なのだとしても、マオを他の男に捕られたくはなかった。
そしてマオのことを大切にしたいと心底そう思った。
その俺の想いが通じたのだろうか。マオは微かに涙ぐみながら、ウンウンと何度も頷いては俺の手を密かに握った。
「ワタシも、ゴウがいい。初めてなら、ゴウじゃなきゃ嫌だよう」
そう感情を吐露させながら、真珠のような涙をポロポロとこぼし泣き出す姿に苦笑すると、優しくその頭を撫でてやった。
「ゴウ! 色々話を訊いてくれてありがとう!」
「別に。また何か困ったことがあったら溜め込む前に言うんだぞ」
「うん! それじゃあ館に戻るね。ゴウもお仕事、行ってらっしゃい!」
ブンブンと元気に手を振るマオの姿に、内心ホッと安堵する。
(よし……、いつものマオに戻ったな)
その元気の良い『マオらしさ』は、この暗鬱とした地獄層の中に住む俺にとっては小さな幸せそのものだ。
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