第1話 『追放の勇者』の終わりと新たな始まり
宿屋に戻って俺は嘔吐を繰り返していた。 勇者としての責務、それと大切な幼馴染を醜い言葉で罵り追放したその行為。それが俺の心を蝕み腐食させていた。気持ち悪さが残る中で俺は「ステータスオープン」と唱える。
グレン・ミツルギ
職業 平民(元勇者)
スキル 天啓の書(過去)
やっぱりだ。真の勇者であるヒカルを追放した為に俺の勇者としての役割は終わった。もう天啓の書も新しく刻まれることはない。
「おい、坊主」意識が飛んでいたのか親方のそんな図太い声で俺はふと目を開ける。するとそこには今まで見たことのないような顔をした親方が座っていた。
「坊主、お前の職業とスキルは理解してるつもりだ。だからこそ、俺は坊主、いやお前を尊敬してるしついていきたいと思ってる。だからよ、お前がそんな顔してるのは気色悪いって俺は言っているんだ!」親方、その
呼び名はもう辞めよう。シュバルツの言葉に俺は震える唇を動かし言葉を発した。
「ご、ごめんシュバルツ。俺の問題に巻き込んで……少しだけ、少し甘えさせてくれ……」俺はシュバルツの母とは違う暖かさを持つ手に自分の弱いところをぶつけていた……
☆☆☆
「ごめん、シュバルツ。情けないとこ見せた。」シュバルツの肩に甘えて気付いたら寝てしまっていた俺はシュバルツに対してそう言葉を漏らした。甘えた御陰か、俺の中で
気持ちを整理することができた。魔王を倒すのは真の勇者であるヒカルだ。俺はそれを
邪魔しようとは思わないし助けようとも思わない。俺は『追放の勇者』という肩書なしで今度こそ魔王を倒すとかではない、別の形で英雄を目指したい……
「なぁ、シュバルツ。俺、グレンという
名前を捨て、肩書ゼロで冒険者になろうと思うんだが、付いてきてくれるか?」これは
一種の賭けだ。一人でも冒険者になるつもりではあるが一人ではやはり心細い。俺のそんな心情を見抜いたのか、シュバルツは笑いながら言った。
「あたりめぇだ。 リーダー」その声と同時に俺とシュバルツは握手を交わした。
なぁ、ヒカル。お前も頑張れよ。魔王を倒せるのはお前だけなんだから……
☆☆☆
ヒカルSIDE
僕が弱かったからかな……
10歳になって行われる天啓の儀式で『平民』になってしまった僕は今、幼馴染で一緒に英雄になろうと言ってくれたグレンに追放されてしまっていた。僕が平民で弱いのは重々承知だ。
だからこそ皆がこぞってやろうとしない 雑用を中心にやって自分としてもグレン達に貢献できたと思っていた。けど、グレンが僕に放った
「お荷物は要らない」という言葉。それが僕の脳内を巡り僕の心を蝕んでいく。その時だった。「貴方はお荷物なんかじゃない!」
僕に対してそう言ってくれたのは同じパーティーメンバーで魔道士のレナちゃんだった……
「れ、レナちゃん。なんで此処に? 勇者
パーティーは?」僕は弱いけどレナちゃんは基本5属性をすべて使える魔道士だ。僕なんかとは違う。僕のそんな考えを見抜いたのかレナちゃんは僕に言った。
「私も抜けてきたの! ヒカルくんは肯定感が低すぎるよ……ヒカルくんは弱くない。辛くなったら私がいるからさ、一緒に頑張ろう! 追放した奴らを見返すためにさ!」
レナちゃんのその言葉は5年前の今日、
ヒカルに言われた言葉と同じような気がした。僕は一つ一つその言葉をかみしめながらレナちゃんに尋ねた。
「ねぇ、レナちゃん。僕がレナちゃんと一緒でいいのかな。迷惑をかけちゃったりしないかな……」
「勿論だよ! ヒカルくん! これから一緒に頑張ろう!」レナちゃんのその言葉で僕は一つの決意をする。ごめん。グレン。今まで迷っていたけど僕は決めた。弱くても そんな僕を認めてくれたレナちゃんの力になりたい。その瞬間、僕の身体を、明るい光が包んだ。それは既視感のある光……その光が収まった時、僕は確かに力が湧いたことを確認した。
直感的にステータスをオープンさせる。
ヒカル
職業 勇者(光)
スキル
全魔法適正―解放済み
聖技
勇者ノ心_未開放
勇者ノ一太刀_解放済み
これが勇者となった僕のステータスだった。
これからどうなるのかは僕にもわからない……
ヒカルが勇者となったことでグレンの『追放の勇者』は消え、ヒカル達、勇者パーティーを軸に物語が起こるのだがそれはこの物語とは違った話……
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