『追放の勇者』の後日譚〜役目を果たした元勇者が英雄に至るまで〜

黒鉛

第0話 すべての始まり 

俺が10歳を迎えた翌日、この街にいる10歳を超えたばかりの子供たちが天啓を授かりに教会へと向かっていた。誰もが絵本などで見る『勇者』という職業ジョブに憧れて……無論、俺も例外なくそうだった。

 「なぁ、どんな職業につくんだろうな」

俺は隣で景色に見惚れているヒカルに声をかけた。

 「さぁ…けど、剣士とかになれたら良いな……」ヒカルののその言葉は馬車の中に響きそれと同時に俺も頷いた。これからの運命が決まるともいえる天啓の儀式。

 いまでも思う……もし、この儀式の結果が少しでも変わっていればこの先の未来も変わっていたんじゃないかと……  


☆☆☆

ヒカルとの会話に時間をかけていると周りの景色が神聖な雰囲気に変化した。

あと数メートルで教会に到着する。俺は

ずっと気が気でなかった。教会の前に着くと前に座っている街の子達から順番に馬車を降りていく。俺らが降りると乗っていた馬車は出発した街へと戻っていった……


 職業は数え切れ無い程この世界には存在している。それらは全て危険を脅かす魔王、そして魔物から人々が生き抜くための、女神様から賜った力らしい。その中でも魔王を倒すことのできる……英雄になれる職業というのが『勇者』なのだ。

 周りの子どもたちが職業を授かる中、遂に俺の番がやってきた。司祭さんの助言を聞きながらプレートに自身の手を乗せる。すると神々しい光を放ち俺の目の前にステータスが現れた。


 グレン・ミツルギ

 職業『追放の』勇者

 スキル

 天啓の書


 追放の勇者? どういうことだ……俺が思考を巡らせるよりも先に司祭さんが叫びだした。

「ゆ、勇者様! 貴方様は勇者としての天啓を受けました! 後程迎えに行きますので王国へと来てください!」 司祭さんのその言葉のあとヒカルが天啓を授かる為前に出た。その時だ。俺は気づいてしまった。いや理解してしまったと言ったほうが正しい。

ヒカルが真の勇者だと……『追放の勇者』の役目は追放することにより真の勇者を覚醒させるため。そうスキル『天啓の書』には書いてあった。

 ふと意識をヒカルの方へ向けるとヒカルは『平民』と呼ばれるカーストでいうと底辺の職業だった。

 やっぱりヒカルは俺の『追放の勇者』とは違う本物の勇者なのだろう。平民として蹲っているヒカルの前に俺は行き手を取った。


「一緒に行こうぜ、ヒカル。平民なんて関係ねぇよ。俺達は英雄になるんだろ、な?」

「うん!」ヒカルのその言葉と同時に俺は願った。どうかヒカルを助ける人が現れてほしい。俺はこいつを追放することしか出来ない。俺とヒカルが街を旅立った黄昏の日に俺の運命は決まったのだった……



☆☆☆


あぁ、また昔の夢を見たか……

俺はスキル『天啓の書』を開きこれからの

予定を確認する。ヒカルは今、魔道士であるレナと情報探索として近況の村のゴブリン

討伐に向かってもらっている。

今、パーティーホームに居るのは俺と武道家の親方の二人だ。ヒカルがこのホームに戻ってくるのは

今日の夕方。俺はヒカルを追放する……

 天啓の書の通り、俺のパーティーメンバーはヒカルを除いて強くなった。それも魔王軍四天王なら問題なく戦えるほどに。

 「本当に追放するのかい? 坊主」親方のその言葉に俺は答えた。

 「あぁ、それとすまない。俺のせいで親方には迷惑をかける。きっとレナはヒカルと出ていくだろう。そうなると必然的に戦力が落ちるのは当たり前だ。きっと俺も親方も見る目がないと罵られるだろう。」

 さぁ、もう時間だ。俺は一度顔を叩き

ヒカルとレナが帰ってくるのを待った。


 『ヒカル。お前をこのパーティーから追放する!』ヒカルとレナが戻ってきて直ぐ、俺は公衆の面前でそう叫んだ。その言葉に勿論すぐさま批判が上がる。

 「ちょっと! グレン! なんで追放なんて言うの?」

「グレン、僕は弱いけどその分、皆のために雑用は頑張ったよ! それなのに……」

ヒカルが頑張っていたのは知っている。

ヒカルの存在がこのパーティーの中で大部分を占めているのも分かっているさ。けど俺は『追放の勇者』だ。真の勇者であるお前を

追放する。

 「お前は雑用したっていったがそんなの他の奴らにだって出来る。それに加えてお前は弱いんだよ。正直お荷物だ。お荷物は俺の勇者パーティーにはいらない。いくぞ、親方」

俺はそう言ってパーティーホームを出ていった……

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