第25話 説明回
一同はドラゴンの骨が見える席へと案内される。
その前に、ギルドマスターはドラゴンの骨をじっくりと観察する。
「うーむ、これは間違いなくドラゴンの骨だな。」
一通り観察し終わるとそう決断する。
声に少しばかりの驚きが混ざっているようだ。
何しろ、こんな田舎の町にこんな物騒な物が運ばれて来ることが無いから仕方がない。
「まさかこんな場所で見るはめになるとわな。」
「そうね、私もこっちに来て以来見ていないわね。」
そういいながら、案内された席につく。
そのタイミングで研究所から何人かの白衣を着た人達が現れドラゴンの骨を囲む。
おそらく、研究所で働く研究員なのだろう。
アリアも白衣を着るとその中に混ざった。
「まずは、骨を調べる前に綺麗にしましょう。」
教授と呼ばれる人の指示で、骨を拭き始める。
調べる前に綺麗にするつもりだろう。
その作業を見ながら一同は話を始める。
「確か、クレハ村のセシルだったな。どうしてここに?」
ギルドマスターは、セシルについて聴く。
門番は詳しく説明はしていないようだ。
「向こうで色々あってな。俺のチームに入ることになった。」
「じゃあ、ハンターになるってことだな。色々っていうのはあれに関係する事で間違いないな?」
ギルドマスターは、ドラゴンの骨に指を指す。
関係あるとすればそれぐらいなので、予想をするのは簡単なことだろう。
「あぁ、そうだ。先ずは最初から説明した方が早いか。」
グレンはクレハ村で起こった事を説明する。
ウルフを狩りに行ったらボスがいたけど、話を聞いていた時には予想していたので最初から狩るつもりだったこと。
「それは俺も何となく予想していたが。まさか、本当にそうだったとはな。」
「俺達も驚いたよ。何でこんな所にって。」
「嫌な予想が当たってしまったな。お前達を送っておいて正解だった。」
そんじょそこらのハンターでは対処できない案件。
ギルドマスターは、嫌な予想を考えグレン達にクエストを受けさせたのだ。
グレン達なら、ボスも倒してくれるだろうと信頼しての事だ。
「で、ウルフのボスを倒した時にあいつが現れた。」
「やけに、急だな。」
「あぁ、おかげで何の準備も出来ずあいつと戦うはめになった。」
大型の戦闘装備は必要ないと油断しての出来事だ。
だが、あれは想定外だったので仕方ないがそう言うわけにはいかない。
あれによって、想定外と言うのは通用しないと思い知らされたのだ。
「それでよく勝てたな。」
「いいや、鱗を砕いたら逃げられた。倒したのは潜伏先での事だな。ブラッドタイガーもいたからかなり苦労したがな。」
「ちょっと待て、何でそんなにCランク以上に住んでる奴らが出てくる。」
「Cランク? 何ですかそれ。」
プロの話に入らずに聞くだけに専念しようとしたセシルだが、聞きなれない言葉につい反応してしまう。
素人のセシルにとってランクとはハンターランクしか知らないのだ。
「ハンターの間で使われる、危険度を現すランクだ。ハンターを目指すなら覚えておく必要がある。」
「例えば、外敵の少ないクレハ村は、危険度の少ないEランク。Dランクからは、季節問わず肉食の獣がいる地域。そっから上は、ボスやモンスターと呼ばれる怪物がいる地域を指す。」
「Aランクにもなると、モンスターに加え天変地異が起こる。ただの人間では到底生き残れないような危険な場所だ。」
人間に与える脅威を表したランクを決めることにより、人間が立ち入れる場所を制限している。
その場所でも生きていけると証明された人物ではないと立ち入ることが出来ない。
グレン達が、調査に生けないのもそのランクの影響だ。
「本来、奴らがランクをまたぐことは有り得ないのだが。」
「そうだ、だから奴らの棲む場所で何かが起こっている。と、我々はそう導き出した。」
「そうです、それでこれからも村に危険が押し寄せるかもしれないって。」
何もないに越したことはないが、そうじゃない時が来るかもしれない。
もし、そうなっても村で出来る事には限度がある。
実際、セシルも一度失敗しかけたのだ。
「となると、クレハ村への危険が続くと言うことか。」
「はい、それで村長と決めた結果クレハ村の周辺を他の村含めギルドに守って貰うと言う話になったんです。」
それを聞いたギルドマスターは悩み出す。
別に不可能という訳ではないのだ。
ただ、それには一つの問題がある。
「ギルド本部にお願いすればそれも出来るだろう。しかし、ギルドが守ったところでモンスター級の奴が出たらどうしようも出来ないぞ。」
クレハ村の危険度のランクを上げるわけでもないため、強いハンターをこちらに送る事は出来ない。
この町のハンターもそこまで強い者はいないので、結果的に何も出来る事がないのだ。
しかし、それはグレン達や村人達も承知のうえだ。
「有事の際に連絡できる手段が近くにあればというだけです。」
「あぁ、それにそうならないよう現地に行って原因を突き止めるつもりだ。」
そうセシルと、そして村の皆と約束したのだ。
村の安全を託されたのも有るが、グレン自身助けたいと思っている。
「じゃあ、ハンターランクを上げるって事でいいんだな?」
「あぁ、俺達のランクは星三つ。Dランクの地域しか行けないからな。」
「分かった。手続きはしておこう。時間がかかるが内容が決まったら知らせる。」
「丁度良い。その間に、セシルにハンターの講習も受けさせよう。」
ハンターを受けるには講習を受ける必要がある。
命をかけさせる以上、その辺をきちんとするのがギルドの義務だ。
「ついでに、ランクを上げるクエストを試験にするつもりだな。」
「さすが、ギルドマスター。すぐに分かったか。」
本来、ハンターになるにはギルドの講習を受けた後、チームに振り分けられ用意されたクエストを挑む事で初めてハンターになれる。
しかし、試験は活動しているチームの一員としてクリアしても良いため丁度良いのだ。
「では、セシルの講習の件も申請しておこうか。」
「そうだな、日程が決まったら俺に知らせてくれ。」
こうして話をしている間にドラゴンの骨を洗い終わったらしく骨の観察をしている。
アリアが骨のサイズを計り、他の研究員がメモを取っている。
「あれは何をしているんだ?」
「勉強ですよ。この地域でドラゴンの骨何てものを見る機会はないので、研究員の教材に丁度いいかなって。」
ギルドマスターの疑問に、いつの間にか近づいていていた教授が答える。
確かに、ドラゴンの骨なんて手に入らない代物は勉強するのにはもってこいだ。
アリアの先導で、勉強は進んでいく。
「さすがアリアだ。手際がいいな。」
「確か、研究員としても優秀らしいな。」
「ふふ、当然よ。自慢の助手だもの。」
その自慢の助手を誉められて胸を張る教授。
ハンターの裏方であり、教授の助手として補佐も勤めるエリート研究員。
セシルは、そんなアリアについて疑問を持つ。
「アリアさんってハンターじゃないんですか?」
「ハンターだぞ。でも元々は王都で教授の生徒をやってたはずだ。」
「あの子はとても優秀だったわ。だからこそかしら、自然のありのままの姿を直接見たいってよく言っていたわね。」
研究所では紙にかかれた情報しか得るものはなかったのだ。
優秀がゆえに、それをさらに深く知りたいと思ったのだろう。
「それでどうしてこの町に?」
「私がこの町に派遣されると分かったらついてきたのよ。」」
研究所では生きたままの生物を見ることは出来ない。
自分で見に行くのにも限度がある。
ならばいっそのことハンターになってしまえと思ったのだろう。
「さて、俺は仕事があるからギルドハウスに帰るよ。」
「それでは俺達も行こうか。セシルにチームの拠点を案内しないといけないしな。」
「そうですか。では、アリアには私が伝えておきますね。」
そう言って、各々解散するとグレンとセシルは研究所から離れる。
先程、竜車が駆け出して行った道を二人は歩いていく。
「セシルには説明がまだだったな。俺達のようなハンターチームにはギルドから拠点を与えられる。セシルには、そこで生活してもらうつもりだ。」
「分かりました。」
「それで今から拠点に行った後は、町に行ってセシルの装備を作ってもらう。」
「えっ、俺お金を持ってませんよ。」
正確には、少し親に持たされたけど装備を買うほどはない。
クエストをこなし、少しづつ揃えていくものと思っていたのだ。
だから、しばらくの食事の分しかお金を貰っていなかったのだ。
「心配するな、講習を終えるとギルドから装備の引換券を貰える。」
「講習を受けないと引換券が貰えないんですよね。どうするんですか?」
「今日、装備を予約して受け取る時に渡せばいい。大抵のハンターは最初にそうするのが普通だ。」
お金が無くてもハンターになれるようにとギルド側の配慮だ。
装備も持たせず送り出す訳にはいかないのだろう。
それだけ、ハンターと言う職業は危ない仕事なのだ。
「ちなみに、ギルドハウスにある食堂は新人ハンターだと割引してくれる。お金がない時は活用するといい。」
セシルは、お金の心配がなくなった事にほっとする。
町に来るまでは考えなかった事だけど、お金のやり取りが当たり前の場所で生活していく以上、しっかりとお金の管理が必要になるだろう。
「セシルの装備もだが、俺の砕けた武器も買わないとな。カリネにもついてきてもらうか。」
そうこうしている内に、他の建物よりも一回り大きな敷地の中にある建物が見えた。
建物の中に見覚えのある竜車があるので、ここが拠点だろうとセシルでも推測できる。
しかし、小竜の姿は見当たらない。
「ついたぞ。さぁ、中に。」
グレンは、建物の扉を開いてセシルを招く。
グレンのチームが活動する建物。
そして、今日からセシルもその一員になる場所。
「ようこそ、我らの拠点へ。」
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