町編

第24話 帰還

 町に向かい竜車は道を駆ける。

 昨日とは違い焦る必要はない為、竜車を引く小竜の足はゆっくりだ。

 とはいえ、それでも人間の足とは比べられない程の速さだ。

 竜者の後ろから外を眺めているセシルは、これからの事を考えていた。

 

「セシル、眠たくないか?」


「大丈夫ですよ。昨日ぐっすりと眠れたので。」

 グレンが、セシルの体調を心配してくれている。

 一連の事件で動きっぱなし事もあって、疲れが溜まっているのだろうと聞いたのだろう。

 しかし、ハンター達が平穏を取り戻してくれたおかげでゆったりと出来たのだ。


「今は、緊張で一杯ですよ。」


「そうだな、慣れ親しんだ場所を離れるのだ心配なのも仕方ない。」


 セシルが気になるのは、疲れよりも新しい生活への不安だ。

 なにぶん、村を離れるのは行商の補佐で付いていく時ぐらい。

 しかも、そこに移り住むと言うのだから不安になるのも仕方ない。


「まぁ、町に住むやつらは良い奴ばかりだから気にするな。」


「分かりました。」


 まだ、町までは時間があるのだ。

 不安は消えないが、いつまでも考えていても仕方ない。


「分からないことがあったら聞けば良いさ。喜んで教えてくれるだろうよ。」


 くつろいでいたエリクは、そう付け加える。

 竜車の前座で小竜に指示しているアリアも同意する。


「お店の店員とか、聞いてないことまで教えてくれるわ。」


「仕事の道具を買うとき、余計な商品を押し付けてくるのはねぇ、いい人なんだけど。」


「そう言ってやるなよ。商売ってのも大変なんだろ。」


 何か、嫌な思いでもあったのだろううか。

 裏方の仕事と言うのも一筋縄ではいかないようだ。


「そういえば、道具屋のおっさんがカリネは、いっぱい金を落としてくれるって喜んでたなぁ。」


「よし、今度、買い物をするときは値切ってやろう。覚えとけよ。」


 何だか、楽しそうに笑っているが目は笑っていない。

 それを聞いたセシルは苦笑いする。

 何せ、不安を取り除くはずが逆に煽ってるからだ。


「おい、そこはセシルの不安を取り除くことを言う所だろ。」


「いやいや、町は愉快な場所だって伝えたくてな。」


「そうそう、町は楽しいところだよ。ほんとだよ?」


 グレンが指摘すると、慌てて言い訳するカリネとエリク。

 そんな、二人の態度にやれやれと溜め息をつくグレン。


(大変そうだなぁ。) 


 二人は、そっぽを向いて誤魔化し出した。

 セシルは、そんなメンバーををそっとして、ゆっくりと流れる景色を楽しむことにする。

 周りには木や森しかないが、セシルには対した問題ではない。


(あの森にはどんな生き物がいるのだろうか。)


 行商で町に向かうときは、つまらないと思っていた景色。

 それでも、ここしばらく見ず知らずの生き物を見たことによって興味がわいてくる。

 これでも、食料を取るため生き物に触れてきたつもりであったが、その生き物がどのような存在なのかは考えたことが無かった。

 先日の一連の事件は、セシルの考え方を変えるには充分だった。


(ハンターチームに入れてもらったのもあるし、調べるのもいいかも。)


 ただ単に興味があるからもあるのだが、チームに入れてもらった以上足を引っ張るようなの事をするのは嫌なのだ。

 せっかくだし、活躍して皆の役に立ちたいとセシルは思う。


(まぁ、まずはハンターになることからだけど。)


 なにはともあれ、まずはそこから始まるのだ。

 したいことはいっぱいあるのだけど急ぐ必要はない。

 一つ一つ進んでいけば良いだけだ。


「皆、見えてきたよ。」


 アリアが竜車に前座から呼びかけてくる。

 考え事をしている内に町についたようだ。

 セシルが竜車の前を見ると町を覆う壁が見えてくる。


「それじゃあ、町に入る為の準備をするわ。気をつけてね。」


 竜車は町から遠ざかるように道を外れ、速度を落とし大きく曲がると、竜車の前に門がくるよう走らせる。

 後を走るドラゴンの骨を運ぶ台車も、あとに続くよう馬で引っ張る。

 門の入り口には馬車がいくらか並んでいたが、竜車が通るのは朝と同じくギルド専用口。

 ドラゴンの骨を乗せた台車が馬車の横を通る度に驚きの声が上がる。


「なんか騒がしいと思ったら、とんでもないもん持ってきたなぁ。」


 門に入り受付を済ませるため立ち止まると、以前と同じ門番が声をかけてくる。

 門番は、馬車の人達と同じく驚きの声をあげる。


「ウルフを狩りにいったんじゃなかったか?」


「そのはずなんだが。色々あってな。」


 急にそんなものが現れては、そんな反応になるのも当たり前だろう。

 ドラゴンの骨をじっと見ている門番の質問に、グレンが答える。


「それで、村は救えたのかい?」


「もちろん、助けれた。」


「帰ってくるのに時間がかかっているから心配だったが。納得いったよ。」


 ウルフを討伐するには日数がたっている。

 なので、やられたんじゃないかと思われるのも仕方ない。

 

「もしかしたら、ギルドマスターのも心配をかけてしまったかな。」


「あぁ、ギルマスからよく電話がかかって来てたな。早く顔を出してやんな。」


「これから研究所にこいつを届けてからギルドハウスに向かうつもりだ。」


「そうか、ならこっちで連絡しておくよ。」


 頼むと言いながら、グレンはギルドカードを見せる。

 すると、セシルを手招きする。


「ついでになんだが、このクレハ村の青年がチームに入った。俺の保護下で町にいれて欲しい。」 


「ということは、町で暮らすのか。よろしくな。」


「よろしくお願いします。」


 緊張から体を固くしているセシルに笑顔を向ける。

 受付を済ましグレンにカードを返すと竜車が走り出す。

 門番は竜車に手を振りながら見送ってくれる。


「じゃあ、早速研究所に行きましょ。」


 町の中を進むと、ギルドハウスとはまた違う大きな建物に着く。

 アリアは竜車を止めると、前座から降りると建物にある大きな入り口を空けるとその中に台座を誘導する。


「お疲れさま。もう良いわよ。」


 それを確認し終えたアリアは、馬に乗っていた三人に声をかける。

 三人は、ゆっくりと馬から降りると、馬に繋がっているロープをしっかりと掴む。


「やっとついたんよ。」


「久しぶりに乗ると大変っすね。」


「疲れた。」


 いかに鍛えられたハンター達とはいえ、長距離の馬での移動は苦労するようだ。

 馬の方も、重い荷物を引っ張りながら走っていたためあまり綺麗に走れなかったと言う事もあるので、余計に疲れたのであろう。


「これなら、馬車を作ってもらった方が良かったんじゃないん?」


「そこまでの世話を受けるつもりは無かったわ。」


 馬車で引っ張るとなると馬に乗らなくて済むが、作るのにひと工夫必要になる。

 村人達に言えば、作ってもらえただろうが、そこまでしてもらうのは申し訳ない。

 ということもあり、今回台車を引っ張る事になったのだ。


「ここで解散した方がいいか。」


 竜車から鱗を運びだしていたグレンは、一息つきながら行った。

 これ以上、全員でいる必要はないし邪魔になるので集まっているのは無駄なのだろう。

 シルファは、馬を撫でながら解散を受け入れる。


「そう? じゃあお先に上がらしてもらうんよ。」


「馬もちゃんとそこに繋いでおいてね。」


 グレン、アリア、セシルを除いたメンバーは竜車に乗り込む。

 小竜も、今回さんざん走らされて休みたいだろう。

 その気持ちは皆も同じようで一緒に連れて帰る事になった。


「じゃあ、小竜は連れて帰るっすね。」


 アリアに代わり、コガラキの指示で竜車は走り出す。

 研究所に残る事になったメンバーで去っていく竜車を見送った。

 

「それじゃあ、私は教授を呼んでくるわ。」


「なら、俺とセシルはギルドハウスに向かおうか。」


 門番がギルドに連絡をしているだろうが、心配させているらしいので早く会いに行った方が良いだろう。

 なので、グレンとセシルはギルドハウスに向かおうとしたのだが。


「その必要はないぞ。」


 そんな二人は声がかけられたので足を止める。

 声のする方を見るとギルドマスターがいた。


「よう、とりあえずはお疲れさまだ。」


「なんだ、わざわざ来たのか。」


「そりゃあ、ウルフを狩りに行った奴らがドラゴンの骨を持って帰って来たと聞いたらな。確認しに来るのは当たり前だろう。」


 ドラゴンの存在に、現地にいた人達ですら驚いたのだ。

 町にいたギルドマスターも、相当混乱しただろう。


「理由は、しっかりと話してもらうぞ。」


「もちろん、そのつもりだ。」


 村を守るためにギルドの力が必要になる。

 伝えないといけないことはたくさんあるのだ。


「では、その話は研究所でいかがですか?」


 新たに現れた人物が、研究所の前で話していた一同に声をかける。

 そこにいたのは、少し年を取った女性の方と、アリアがいた。


「じゃあ、場所を借りるぜ。教授。ドラゴンの骨も見たいしな。」


 教授と呼ばれた女性は、にっこりと笑って頷き一同を歓迎した。

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