第23話 旅立ち
「あれ、村人達の手伝いは良いの?」
「はい、向こうの人手は充分だって。むしろ自分は宴会の準備の為に来たので時間はまだあります。」
「宴会? そういえば昨日言ってたよね。」
「確かにそんな話で盛り上がってたっすね。」
話が出たのは昨日の村長対談の時だ。
お互いの村人でこれからの為に親睦を深めるため宴会をしようという話が出ていたことを、現場にいたカリネとコガラキは思い出す。
どうやらハンター達のいないところで話は進んでいたらしい。
「この森でやるのか?」
「はい、元々交流に使っていた場所でもありますし、ハンターの皆さんをいたわりたいと言う話にもなりまして。」
森で作業がある今やるのが都合がいいのだろう。
アリアからブラシを受けとったセシルは汚れている鱗を磨き始める。
「せっかくだし世話になろう。あいつらもその頃には起きてくるだろ。」
「そうね、今日一日はゆっくりしましょう。」
どうせドラゴンの骨を運べる様になるまで森から動けないのだ。
それまで疲れた体を労るのも良いだろう。
一同は、森の自然の音に耳を預ける。
「自然に浸るのも良いものだな。」
「町には無いんですか?」
「無いことはないが、こんな風に人がいられる様に開拓された場所はほとんど無いな。」
町の周りには肉食の獣がいるのが当たり前なので開拓が難しいのだ。
ハンターは平和な場所に行く事がほとんど無いため、こういう経験は貴重なのだ。
そうこうしている間にも鱗を磨き終わったので、一同は鱗を天日干しして家に戻る。
「何か騒がしくないか?」
「どうやら、人が集まっているようだけど。」
いつまにか、池の入り口にあたる道の奥に人が集まっていた。
その人達の声が家の前まで聞こえてくる。
良く見ると、全員が釣竿やバケツのようなものを持っている。
「そういえば、宴会の準備を交流会をしながら行うらしいですよ。行ったら混ぜてもらえますよ。」
「何やるんだ?」
「釣りとか料理とか。いろいろやるようです。」
集まった村人達は楽しそうに談笑しながら準備をしている。
もう行かなくちゃ、とセシルは村人達のいる所へ向かう。
「じゃあ、俺達も行こうか。」
「そうね、今日はこれで解散って事で。」
自由行動になったハンター達も、セシルの後を追って歩き出す。
昨日拠点として使っていた道につくと、ドラゴンの骨がある広場へと村人達が木材を運んでいた。
その間は樹木で塞がれていたが、村人達によって切り開かれたらしく繋がっていた。
ドラゴンの骨が元拠点の道からも見えるようになっている。
「おぉ、ハンターさん。こっちですじゃ。」
声がする方を見ると、二人の村長が椅子に座りお茶を飲んでいた。
広場にはたくさん人が作業をしており、その様子を眺めるように座っている。
「ハンターさん達も来られんじゃな。」
「主役には、休んでてもらいたいんだけど。」
「いや、することもないからな。何か出来ないかなと。」
「そうか、それならぜひ楽しんでいってくれ。」
ハンター達は散らばって、各々好きに行動する。
コガラキは釣竿を貰って釣りに行き。
カリネは余った材木を加工して何か作っている村人に混ぜてもらい。
アリアは、広場に連れてきた小竜を村人達に触れさせている。
「俺も体を動かすか。」
グレンは広場に木を集めている集団に合流する。
森にいる全ての人達は、昨日の事が無かったかのごとく幸せそうに笑い合っている。
これが本来の姿なのだろう。
「面白そうな事やってんねぇ。」
目が覚めた宿酔い組も混ざりさらに盛り上がる。
その交流会は日が沈むまで続く。
辺りが暗くなると、広場に森にいる全ての人が集まっていた。
「火を着けよ。」
村長の合図で広場の真ん中に積まれた木に火がつけられる。
その上に長めの木を重ねていき火を大きくしていく。
「さて、今回の一件、皆のおかげそしてハンター達の皆さんのおかげで一段落した。」
「まだ安全とはいかないらしいけど、ひとまず取り戻した平穏を祝いましょう。」
「それじゃあ、ハンターの皆さんへの感謝と未来の平穏を守る決意を胸に。」
「乾杯じゃ。」「乾杯。」
広場に、その場にいる全員の乾杯の声が響き渡る。
そして、広場のあちこちにある食べ物を食べたり飲んだりと、談笑する者達の声で広場が埋め尽くされていく。
その中にはハンターチームの皆が交流会で仲良くなった村人達に混ざって騒いでいた。
広場の端には、小竜と鳥が仲良く果物を食べている。
「あいつら、ずっと倒れてたくせにな。」
グレンは、騒いでいるハント組を見て苦笑いをしている。
そんなグレンにクレハ村の村長が近づく。
「楽しんでるかの?」
「とても楽しませてもらっている。」
グレンは、自分が守ったこの光景を噛み締めている。
広場を見渡していると、幼馴染み達と楽しそうに話しているセシルを見つける。
「セシルはこの村にいたほうが幸せなんじゃないか。いや、だからこそか。」
「昨日の事はワシもいきなりで驚いたが、セシルが本気だと知って賛成する事にした。」
「周りから批判はされなかったか?」
「されておったわ。でも、何とか言い聞かせたようじゃ。」
危険な場所に行くと言うのだ反対されても無理もないだろう。
しかし、それでも行きたいというその気持ちからセシルの本気が伺える。
「本当は嫌なんじゃがな。でも、どうしても行きたいというのなら止められはせん。ワシからも昨日の事、よろしく頼む。」
村長は残りも楽しんでいけと言い残し去っていく。
グレンは、コップに残った物を飲み干すと木を火に追加している村人に合流する。
まだまだ騒ぎは収まらない。
宴会は日が変わるまで続いた。
翌日、もう一泊森の家に泊まったグレン達は出立の準備にかかる。
鱗は既に回収済みだ。
昨日預けられた三匹の馬を、ドラゴンの骨を固定した台座につなぐ。
その馬にシルファとユーリアとコガラキが乗った所で竜車が合流した。
「準備できたか?」
「おうさ。と言いたいところだけどもっとゆっくりしていきたかったんよ。」
「仕方あるまい、早くギルドに伝えないといけないからな。」
シルファは、名残惜しそうにこの森を見る。
思い入れが出来ただけに離れるのがおっくうになったのだ。
「行こうか。出発。」
グレンの合図で竜車が動き出すと同時に、乗馬組も馬に指示を出し走り出す。
広場を抜け道を通りそのまま森を抜ける。
入り口にあった獣の死骸は綺麗に片付けられていた。
「まずは村を目指す。セシルに会わなくてはな。」
「結局受け入れる事にしたのか?」
「その時に話すさ。」
竜車は馬車に合わせゆっくりと走っている。
一本道を走り続けて行くと村が見えた。
速度を落としながら村に入ると村長や村人達に迎え入れられる。
「ハンターさん、今回は本当に世話になった。それで、お金は本当に村を襲っていたウルフの分だけで良いのですかな?」
「それでいい。他の事はこちらが勝手にやったこと。昨日も言いましたが、余分なお金は受け取るつもりはありませんよ。」
「それでは我々が納得いかないのじゃがな。」
「我々が受け取った依頼は、村にはびこる獣どもの駆除。依頼を受けその分の報酬を得る、それがハンターだ。」
断固として断るグレン。それがハンターとしての矜持なのだろう。
その時、セシルが前に出る。
「グレンさん、昨日の話の事なんですが。」
「あぁ、そうだな。」
村を守りたいという気持ちは確かにグレンに伝わった。
チームの皆も受け入れる事を了承したが、まだセシルに確かめたいことがある。
「昨日も言いましたが俺は村を守りたい。雑用でもいいです。改めて俺を連れていってください。」
グレンは、セシルの目をしっかりと見る。
「遊びじゃない事は分かってるはずだ。」
「今回の事で、嫌というほど分かりました。」
「これから、危険な所に行く。死ぬ覚悟は出来ているか?」
「怖くないです。だけど、死ぬ事がよく分かっていないから言ってるだけかもしれない。だからその時は全力で逃げます。それで皆を助ける手段を持って戻ります。よろしくお願いします。」
セシルは頭を下げる。
グレンは決断したのか、仕方ないと言わんばかりに表情をくずし後ろを向く。
「馬車の点検をしてもらう。早く準備をしてこい。」
はい、とセシルは大喜びで走り出す。
「賑やかになりそうだねぇ。」
「そっすねぇ。」
「これもまた運命。」
馬車組は、そう言って馬を制御しながらセシルを見送る。
「彼の分の装備も作ってあげないとね。」
「作戦の幅も広がるわ。」
「あんまり無理はさせるなよ。」
竜車組も期待の新人に喜ぶ。
「全く。一番大変なのは俺なんだぞ?」
グレンは呑気に会話するメンバー達にあきれてしまう。
「準備できました。」
「馬車の点検も終わったぞ。」
最後の準備は整った。
セシルは竜車に乗り込もうとしたが、村長や親に声をかけられる。
「いいか、絶対に死ぬんじゃないぞ。セシルはこの村の大事な仲間、村長として無事を祈っておるからな。」
「セシル、本当はあなたを止めたいけど、真剣なあなたの目を見て見送る事にしたわ。でも無茶はしないでね。」
「お前は大事な息子だ、それだけは忘れなるな。セシルの為にお守りを作ったから受け取ってくれ。ハンターの皆にも渡してくれ。」
「うん、分かったよ。立派なハンターの一員になる。お守りありがとう。」
受け取った御守りを首にかける。そして、親と包容した後名残惜しそうに離れた。
竜車に乗る前に小竜達の前に行きよろしくと頭を下げると、小竜はぶもーーと返事を返す。
「こちらこそだそうよ。」
前座に座ったアリアがそう答える。
「グレンさんよろしくお願いします。」
「これからはリーダーと呼べ。」
「はい、リーダー。」
グレンの手に引き上げられセシルは竜車に乗り込んだ。
そして、竜車前に移動するとアリアに指示を出す。
「前進。」
その合図でアリアが小竜に合図を出すと竜車が進み村の出口へ向かう。
その際、旅たつセシルに村人達が声をかけていく。
「セシル頑張れよ!」
「おにーちゃーん。がんばれー。」
「立派になって戻ってこいよ。」
セシルは、涙を堪えながら手を振り答える。
涙を流している所は見られたく無いのだ。
竜車は村人達に見送られながら村を出る。
「見送ってくれる人がいるってのも良いもんだな。悲しませるなよ。」
「はい!」
エリクの言葉にセシルは決意を固める。
死なないことも村のためなのだ。
セシルが用意された椅子に座るのを確認したグレンは手を叩き注目を集める。
「注目。今回新たにチームに一員が加わった。そして、我々は次のステージに上がる。目的は今回の異常事態の調査。そうして初めて村の安全を確認することが出来る。」
グレンの言葉に頷くセシル。その気持ちは誰よりも大きい。
「危険な旅が増えるだろう。各自、出来るだけの事を行い挑め。そして死ぬな。」
メンバー全員も頷く。
竜車と馬車は町に向けて走っていく。
この物語は、いずれ英雄になる八人の小さなハンターチームの活躍を描く物語。
遥か遠く、腹を満たすための殺し合いが毎日行われている荒れた地で山が動く
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