第22話 一夜明け

「この森も守っていかなくてはな。」


「そうですね。」


 池に映る月を眺めながらこの森の未来を思う二人の村長。

 来た道を戻って行くと、広場に近づくにつれ複数の人の話し声が聞こえてくる。

 どうやら集まって待機しているようで、村長の指示待ちなのだろうか。

 広場に入ると、近くで話していた村人が村長達が帰って来た事に気付くと他の仲間に知らせる。


「お帰りなさい村長、我々の仕事は既に終わってますよ。」


「うむ、早く次の指示を知らせんとのぅ。」


 村人の説明を受けた二人の村長は、一番人が集まっている竜車に向かう。

 皆を見渡せれるのを確認すると、クレハ村の村長は注目を集めるべく手を叩く。

 すると、会話をやめ音がした場所を見る村人達。

 

「ここにいる皆のお陰で、ひとまず事件は無事終息した。まだやるべき事があるが今日はお開きじゃ。」


「もう夜も遅いですからね。今日の所はお互い村に帰り明日また来ましょう。」


 広場に集まっていた村人達が挨拶を交わしながら二つに別れ去っていく。

 二人の村長も村人に続くのだが、その前にクレハ村の村長はグレンに尋ねる。


「ハンターさん達は、どうするんじゃ?」


「この森に残るつもりだ。また何か起こるか分からんからな」


「そうか、なら先程の家で泊まっていくといい。」


「助かる。明日また頼む。」


 村長は、分かったと納得すると広場から去っていく。

 こうして広場にはハンターチームだけが残った。

 竜車を覗き、中で作業をしていたカリネに声をかける。


「どんな感じだ?」


「もうちょっとだけ待ってね。肉を冷やさないと。」


 カリネは、箱の中に糸で束ねた肉を押し込んでいる。

 竜車に取り付けられてある冷蔵機能がついている箱だ。

 肉をその中に入れないと、腐る上に臭いも竜車に充満してしまうのだ。


「思ったよりも大きな収穫になってしまったものね。」


「箱にいれるのも一苦労だよ。」


 竜車に上がったアリアが手伝いにはいる。

 しばらくは、整理整頓で動けそうにないようだ。

 この際だからと、グレンは家で話した事をメンバーにすることにした。


「勝手で申し訳ないが、今回のドラゴンが生息している場所を調査することになった。」


「ドラゴンが住んでる場所っつったら、まだ俺達じゃあ行けねぇとこじゃあないんか?」


 横になって休んでいたシルファは、上体を起こしながらグレンに質問を返す。

 そういう場所だということはハンター達も当たり前のように知っている。


「そうだ、しばらくはランクを上げる事になるな。」


「つまり、危ない場所に行くんだろ? 今回のような命のやり取りが増えるわけだ。」


「あぁ、だから無理は言うつもりはない。来たい奴だけでいい。」


 エリクの言う通り、安全な旅の保証は出来ないだろう。

 危ない場所に足を踏み入れる事を強制をするつもりはグレンにない。

 メンバーがどう決めるかはメンバーに決めてもらう。

 例え辞める人が出てもだ。


「いいじゃねぇか。おもしろそうだ。」


「まぁ、今さらビビる奴が最初からハンターやっとらんでしょ。」


「同意。」


 ハント組からの返事は以外と軽いものだった。

 しかし、決して楽観視してるから決めた事ではないのをグレンは知っている。


「私は既に行くって返事してるけど二人はどう。」


「もちろんだよ、私が開発したものがどこまで通用するか気になるもん。」


「あっしもそうっすよ。」


 裏方組はむしろやる気に満ちている。

 新しい事を知って、それをチームの貢献に活かすのは裏方冥利につきるのだろう。


「皆が良いと言うのなら決まりだな。」


「しばらく、忙しくなりそうね。」


 事務として一番忙しくなりそうなアリアは、帰ってからの事を思い肩をすくめる。

 一通り話を終えると、グレンはセシルについても聞く。

 

「それと、セシルが自分も村を守りたいからチームに入れてくれと言ってるんだが。」


「セシルもくるんか?」 


「まだ、返事は保留中だ。」


 気持ちは伝わったが、急に言い出したことをすぐに決めるわけにはいかない。

 それを聞いたシルファは、あごに手を当て悩む。


「セシルは戦えそうにないけどねぇ。」


「悪いけど、入ってもらうとしても裏方だな。」


「そうなるかねぇ。」


 戦えなくても出来る事はたくさんある。

 セシルにはセシルにしか出来ない事もあるだろう。


「セシルの走りは、あっしでも驚くほどっす。やるとしたら自分と同じ戦場のサポート役っすかね。」


「確かにな。ただ、どれぐらい動けるかを知らないとな。」


「じゃあ、採用って事でいいのよね。」


「あぁ、異論がなければな。」


 グレンはメンバーを見るも何も言わない。

 メンバー全員の同意は得たと言うことで良いだろう。

 そうこう話しているとカリネが箱を閉じる。


「完了。リーダー終わったよ。」


「よし、アリア。先程の家まで竜車を動かしてくれ。」


「分かったわ。」


 チーム一同が乗り込み階段を上げ竜車を走らせる。

 大きな竜車でも走らせられる道を見るに、開拓者の努力が窺い知れる。

 移動してすぐに家に着く。

 歩いてでもそれほどかからない位なので竜車だとあっという間なのだ。

 一同は竜車を降りる。


「今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね。」


「お休み。」


 アリアとユーリアは、小竜をいたわっている。

 メンバーもそれぞれ体を伸ばしながら家に入る。

 

「お前達もしっかり休んどけ。」


「言われなくても分かってるってよぅ。お休みーぃ。」


 シルファは、あくびをしながらソファに寝転ぶ。

 他の男性メンバーも続く。

 女性メンバーは、二階で見つけた休憩室でシーツにくるまる。

 こうして、ようやくゆっくりと眠りにつけた一同であった。




 夜が明け、朝が来た。

 真っ先に起きたのは裏方だった。


「おはよう、どうやら起きたのは私達だけのようだね。」


「仕方ないっすよ。昨日あれだけあったんすから。」


「そうね、ゆっくり休ませて上げましょう。」


 裏方組は三人は外に出る。

 そこには、夜には見えなかった森の姿があった。

 池には魚が跳ね、空からは鳥の声が聞こえ、まるで昨日までの事が無かったかの様に平穏な世界が広がっている。


「さて、鳥の世話をしないと。」


「私は小竜の世話ね。」


「それじゃあ私は朝ごはーん。」


 起きてすぐに作業に取りかかる三人。

 裏方組の朝は早いのだ。

 しばらく作業をしていると村人達がやって来る。

 小竜の世話をしていたアリアが対応する。


「おはようさん。クレハ村の者何だけど。」


「おはようございます。アリアです。作業の話なら私にお願いします。」


「村長の指示で作業をしに来たんだけど。」


 おそらく、昨日話したドラゴンの骨の事だろう。

 村長が村人達に言ってくれたのか準備が早い。

 

「そうね、早速お願いするわ。」


「おーし。昨日決めた通りにするぞぉ。」


 そう言って後ろに待機していた村人達を引き連れ来た道を戻っていく。

 それを見送ったアリアは小竜の世話に戻ろうとしたところ、家からハント組が出てくる。

 グレンを除いたハント組は、ダルそうに歩いている。


「からだいてぇ。」


「地獄だ。」


「あぁ、うん。」


 頑張って歩いてたが、限界が来たのか座ってしまう。

 ずっと、空を見上げながら唸っている。


「はい、水。」


 カリネが水を渡すと一気に飲み干してしまう。

 少し楽になったようだがそれでも回復にはほど遠そうだ。


「何でこんなに辛いんだ。」

「痛いし気持ち悪いしでもう勘弁よぉ。」


「まぁ、十中八九私のポーションのせいね。」


 えっ。と、ハント組の三人はカリネを見る。


「回復薬なんだろ?」


「そんな都合のいいものがあるわけないでしょ。秘伝の方法で脳みその一部分に局部麻酔をかけただけだもん。疲れを後回しにさせただけ。」


「ひでぇな。」


「動けただけましでしょ。あと、アルコールも配合してあるから宿酔いもあるね。」


 何やらカリネを睨んでいるが、恨み節一つ出ない。

 もう喋りたくも無いのだろう。ユーリアなんか顔を真っ青にして目を回している。


「しっかり鍛えないからそうなるんだぞ。」


「何度も言ってるけどリーダーがおかしいんだからね。まぁ、これぐらいでなさけないけどね。」


 がははと笑うグレンを、喋れない一同の代わりにつっこむカリネ。

 元凶が何言ってるのかと、カリネを見る一同だが声は出ない。

 

「全く。手伝いとかいいからパン食べて休んでなさい。」


 アリアは、カリネが作ったパンを三人に持たせると家に押し込んでしまう。

 その後、竜車からドラゴンの鱗を転がしながら運び出す。


「池もあることだし、皆には鱗に付いてる肉を取って磨いてもらうわ。」


「私の道具の出番だね。」


「力仕事なら俺に任せろ。」


「楽しそうっすね。」


 鱗を池まで運ぶと一列に並べ、カリネの道具の高水圧ホースで肉を剥がしていく。

 その後、一つ一つブラシで擦っていく。


「初めてのドラゴンの鱗。なかなかの物が手に入ったわね。」


「そうだな。」


「私達みたいな低レベルハンターが手に入れれる物じゃないもの。研究のしがいがあるわね。」


 アリアは、目を輝かせている。

 しかし、磨くべき鱗はまだある。

 人手が無い今、全て磨くのは大変だろう。


「もう少し人手が欲しいわね。村人の方に力を借りようかしら。」


「じゃあ、俺が手伝いますよ。」


 声がする方を見ると、そこにはセシルが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る