第21話 村長会談

「この森はよく村同士で交流する時に使われるのじゃ。」


「丁度、両方の村の真ん中にあるからね。」


「俺も物資を運ぶ時に来ますよ。」


 池の周りにある道を一同は歩いていく。

 整地された道を見るに、よく使われている場所なのだろうか。

 池は月の光を映し先が見えるほど明るく輝いていた。

 

「広場が多かったり道があるのはその為に開拓したからなんだな。」


「うむ、元々山を迂回してお互いの村に行ってたんじゃが、森を突っ切った方が早いってなってのう。だったら開拓して休める場所も作った方が良いという話しになってな。」


 この森に関する疑問の答えに納得するグレン。

 地図にこの森の事が書かれていなかったのも、調査の後に開拓されたからなのだろう。

 そういう事なら、地図に書かれていなかったのも当たり前だ。


「おっ、見えましたぞ。」


 池の周りの道を進むと、開けた場所に出る。

 その場所の真ん中に一軒の大きな木造の家が建ってある。

 森にある家にしては立派な家だ。


「この家はわしの村の者達が作ったのじゃが、共有して使うのだからあれが良いこれが良いと言っている内にわしの家より大きくなってしまってのう。」


「おかげさまで私の村の村人達もありがたく使わせてもらっていますよ。」


「うん、よくお互いの村の皆でくつろいでるよ。」


 家の話を自慢気に話した村長は、さぁ入ってくれと扉を開ける。

 鍵はかけられてないのか普通に開く。

 中も外見通りの広さを持ち、セシルの言う通り大勢の人が入れそうだ。

 一同は、家の真ん中に位置するソファに座る。


「早速じゃがお互いに何があったのかを話し合おうか。」


「そうですね。」


 お互いの村長が向かって座り、グレンとアリアは二人を横から見える位置に座る。

 全員が座るのを確認すると、クレハ村の村長が話しを始める。

 

「話は大体聞いておると思うが、事の始まりは時期外れのウルフの襲撃。」


「えぇセシル君から聞きましたよ。」


「はい、全部伝えれたと思います。」


 獣の暴走の時にした説明に抜けた話はなかったはずだ。

 あの説明で疑うことなく受け入れてくれた上に協力してくれたのは、お互いの村による信頼のたまものだろう。 


「うむ、だがそれぐらいなら別に気温だの何だのと原因で納得は出来無くはない。じゃが問題は本来いるはずもない大型の獣が現れた事じゃ。」


「ウルフのボスにブラッドタイガー、それにドラゴンですか。無茶苦茶な話すぎて開いた口が塞がりませんでしたよ。」


「全くじゃ、わしも直接見た時は腰が抜けそうになったわい。」


 ドラゴンに襲われれば大抵の村は全滅するような存在だ。

 自分が住んでいる場所に、急にそんなものが現れたならば誰だってそうなるだろう。

 もしウルフのボスに気を取られていなければ、クレハ村が襲われていた可能性もあった。


「そういうのは本来、もっと人里離れた場所にいるものだわ。」


「うむ、だからおかしいという話じゃったな。」


 というより、そういうのがいない場所に人が住み始めたのだろう。

 このアリアの追加説明にクレハ村の村長はうなずく。


「私達ハンターチームは、これらが生息している場所に何か原因があると推測してるわ。」


「結果、それが分かるまで安全は保証できないという結論に至った。」


「村人達にどう説明すれば良いか。」


 ハンター側の説明にうつむく村長達。

 村の安全を守るのが役目な二人からすれば悩むのは当たり前だ。

 

「一応ハンターギルドには説明するけど、派遣してくれるかどうかは分からないわね。」


「田舎じゃしのう。相手してくれるかどうか。」


「うん、そうですね。」


 ギルドに報告しても、必ず動いてくれるとはかぎらない。

 この辺りの調査をするにはかなりの労力が必要になるのだが、わざわざ小さい村のために動いてくれるのだろうかという問題がある。


「私達が調査をしようにも、ハンターランクが足らないので立ち入りすら出来ないといった所よ。」


「うむ、小さい町のいちハンターだしな。ランクなんていちいち気にした事がない。」


 グレン達のチームは、基本食いっぱぐれなければ良い位の依頼しか受けない。

 それでも、町の中ではトップクラスのチームだ。

 そんな町のハンターでどうこう出来る事ではない。


「しかし、このまま放っておくわけにはいかない。」


「いや、ここまでしてもらっただけでも充分じゃ。」


「俺もそう思います。」


 何とかしたいというグレンの悩みを否定する村長とセシル。

 当事者であるクレハ村の二人がそう断るならグレンにはこれ以上口を出す必要はない。

 しかし、それで納得出来ないのがグレンという人物だ。


「アリア、ランクを上げるにはどれぐらい必要だ?」


「必要なポイントはもう持ってるわ。後は昇格試験を受けるだけね。」


 ハンターの昇格は、依頼を受ける度に貰えるポイントをため、目標値に達成した上でギルドに申告すると昇格試験を用意されて、それをこなせばランクが上がる。


「よし、俺達で受けよう。」


「ハンターさん!?」


「私達の村の為だからって無茶はしないでください。」


 グレンの決断を二人の村長が止めにはいる。

 二人としてはこれ以上迷惑はかけたくないのだ。

 しかし、それを気にするグレンではない。


「無茶をしてこそのハンターだ。アリアもいいか?」


「そうね、本で見た世界を直接見てみたいもの。ドラゴンだってもっと動く姿を見たかったと思っていたのよ。」


 ハンター側は引くつもりはない。

 後は、他のメンバーの話を聞くだけだ。


「これ以上、世話をしてもらう訳にはいかないんじゃのう。」


「それなら俺もついていく。」


「セシル?」


 セシルの急な提案に一同は困惑する。

 ついてくるということはハンターチームに入るということだ。


「俺もグレンさんたちと一緒に行くよ。」


「なっ、何をいってるんじゃ。遊びで行くような場所じゃないんじゃぞ。」


「村の問題だから関係のないグレンさん達を巻き込みたくはないんでしょ?だったらせめて俺が行って一部でも負担を背負うべきでしょ。」


 セシルが行けば問題の丸投げでなくなるのは確か。

 しかし、軽々しい気持ちで決めて良い事じゃない。


「セシル。」


「はい。」


「死ぬぞ。」


 一人で話しを進めようとするセシルをグレンが咎める。

 これからグレン達程のハンターチームですら危険だという場所に行こうという話をしたばかりなのに素人のセシルを連れて行く訳にはいかない。


「グレンさんの言いたいことは分かってます。でも俺は村を守りたいんです。」


「守りたい、か。」


「このままグレンさん達に丸投げするのは嫌です。お願いします俺を連れてって下さい。」


 うぅむと黙り混んでしまうグレン。

 他一同もセシルの気迫に何も言えずにいる。

 グレンは守りたいという言葉に弱いのだ。


「今は答えを出せん。町に戻る前に改めて聞くからその時まで待ってくれ。」


「はい。」


 セシルを仲間に入れる事は、ハンターチームのリーダーとして命を預かるという事だ。

 セシルだけでなくグレンにも負担ができる。


「どっちにしろ、ワシに出来ることはない。若いもんに任せるしかないのは辛い物だな。」


「私もですよ。私はクレハ村の村長よりも若いですが何も出来ません。」


 二人の村長は、自分の無力にうなだれる。

 事が事だけに仕方がないのだが納得が出来ないのだろう。


「そんなことはない。この森での協力には大変感謝している。」


「そうかい? ハンターさんの役に立てたのならそれで本望じゃよ。」


「私も同じくです。」


 二人の村長にようやく笑顔が戻る。

 ずいぶん思い詰めているようだ。

 今は、張ってた肩を落とし安堵している。


「協力と言えば、ドラゴンの骨を運びたいのだけど。」


「そういうことなら、わしの村の村人に台車を作らせようかのう。」


「では、私の村の馬で台車を引きましょう。」


 二つの村の協力でドラゴンの骨が運ばれる事になった。

 これが今対処すべき最大の問題だったがどうやら片付きそうだ。


「もう覚悟したわい。この村の事はハンターさんに任せる事にした。」


「そうですね、今出来る事を全力でこなしましょう。今こそお互いの村が力を合わせる時ですね。」


「うむ、わしの村も全力で答えよう。ハンターさん、この辺りの安全は頼みましたぞ」


「任せてくれ。」


 何が出来るか出来ないかは関係ない。

 大事なのは何をするのか。

 未来を守るためにそれぞれが抱いた覚悟を確かめ合う。


「さぁ戻りましょうか。やることは一杯ですぞ。」


「えぇ、村人達は私達の指示を待ってるでしょう。」


「我々も早く戻ろう。」


 そう言って、皆が待っている場所に戻るべく家を出る。

 そんな一同を月の光が迎え入れる。

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