第20話 ドラゴンの解体

 ドラゴンの解体は鱗を剥がす所から始まる。

 砕けていない、広い面積の場所を中心に取っていく。


「固いな。ハンマーだけでは丁寧な作業は無理だ。」


「釘を刺していきましょう。私が鱗に線を引くからそれに合わせて刺して。」


 アリアは、グレンにポーチから出した釘を渡した後、さらに線が書けるものをポーチから取りだし鱗の上に引いていく。

 取り出したい部分に線を引き、一定の間隔ににばつを書く。

 グレンは、ばつ印を目掛けて釘を打つ。


「随分と分厚い、よく砕けたものね。」


「確かにな、自分達でやったとは思えん。」


「同じことはもう無理。」


 釘が入る度に鱗の深さを思い知らされる。

 印に釘を打ち終わると、さらに間に釘を入れひび割れを繋いでいく。

 ひびが入った所はユーリアでも出来るため二人がかりで行う。

 それも終わると、解体ナイフを差し込み剥ぐように鱗を取り出す。

 

「重たいな。」


「重い。」


 鱗の両サイドをグレンとユーリアが持つとそっと地面に置く。

 大人の人間がすっぽり入る位の大きさなので相当重いのだ。

 このような作業を、取れる所全てに行うと取り出した鱗を並べていく。


「重労働だ、もっと手っ取り早く出来たらな。」


「この方法が確実よ。」


 固い物の剥ぎ取りは道具が限られるのでどうしても出来る事がしぼられる。

 鱗を剥がし終えると、次は爪や牙を取る。

 丸々取る必要はないため切り取る必要があるのだが刃が通らない。


「鱗と同じく釘で刺して割った方が良いわね。」


「あぁ、分かった。」


 グレンは、言われた通りに釘を刺し割れた所を解体ナイフで削り取る。


「私は?」


「ユーリアは、残った鱗を解体ナイフで剥がしていってね。」


 分かったと頷くユーリア。

 グレンとユーリアに指示を出すと改めて鱗を見る。

 とりあえず今回実行した解体方法をメモし、取り出した鱗の状態を書き加えていく。

 いろいろ調べたい事があるのだがこの場では無理そうだ。

 

「よし、全部取れたぞ。」

 

「並べてちょうだい。」

 

 早速、鱗のように爪と牙も並べる。

 牙は前にある大きいものだけ取ったのでそれほど時間はかからなかったが、その為一本が大きく苦労をしながら運ぶ。

 今回も同じく剥ぎ取り方法のメモを取る。


「さて、後は肉を取るだけね。各部位は研究用にまわしてもらうけど。」


「じゃあ、体とそれ以外に分けた方がいいな。」


「お願いするわ。」


 アリアが切り分ける部位に印を入れ始める。

 しばらく体のあちこちに書き込んでいたのだが、広場に複数人の話し声が近づいてきたため作業を中断する。

「おーい。」


 広場に入ってきたのは、複数人の人だ。

 一体、彼らは誰なのだろうか。

 謎の人達は手を振りながらアリア達の下に集まる。


「あなた達は?」


「村長に頼まれてな、どうやら村を救ってくれた奴が助けを求めてるってな。」


 広場に来た人達はさっき会った村人らしい。

 森の外の対処を手伝ってもらうはずだったが森にも助っ人を連れてきてくれたらしい。

 村人達はドラゴンに恐る恐る近づく。


「大丈夫なんだよな?」


「えぇ、もう息絶えてるわ。」


「そ、そうか。良かったら俺達も手伝わせてくれ。」


 アリアは、お願いするわと了承する。

 そうすると、村人達は小さなナイフを取り出していく。

 見たことがあるナイフのカバーからするにハンターチームで使っているもののようだ。


「竜車にいたあんたの仲間に持たされたんだ。」


 カリネの事だろう、準備が良い。

 そんな村人達に作業を止めたグレンが挨拶をする。


「俺はグレン。このチームのリーダーだ。助っ人に来てくれて助かる。」


「あぁ、出来る限りの事はするつもりだ。何分こんなデカブツの解体なんてしたことないからな。」


「こんなのがいたら大変だからな。」


 そりゃそうだと納得をしたグレンはがははと笑う。

 村人が参加する事が決定した事で再び解体作業に戻る。

 まずは、グレンが大きく切り落とした物を村人達が細かく分けまとめていく。


「じゃあナイフをもらっていない俺達はそこで寝ている奴の世話をするよ。」


「確かに、ほったらかしにすると危ないしな。」


 そう言って一部の村人達は、ハント組を襲った獣に向かう。

 起きたら落ち着いているだろうが、万が一にも暴れて襲われたら大変だ。


「私もついていく。」


 鱗を削ぎ終えたユーリアも獣の世話に向かう。

 もし何かあってもハンターのユーリアがいれば大丈夫だろう。


「確か近くに池があったな。入れ物持ってきてる奴いるか?」


「近くの草も持ってきて食わせてやろう。」


「念のためロープをつけとくか。」


 手慣れているのだろうか、村人達は効率よく獣を起こす準備に入る。

 体を揺すりながら顔に水をかけると、獣は目を覚ますがそのまま動かない。

 起きたばかりでぼーっとしてるのだろう。

 意識が覚醒する前に、頭を撫でたり水を飲ませたりする。


「よし、良い子だ。」


 獣はゆっくりと起き上がると顔を振り顔にかかっていた水を払う。

 それでもまだ寝ぼけるのだろうかまだ動かない。

 そこに、水や餌を与え手なずける。


「もう大丈夫だ。」


 

 そして、ゆっくりと刺激しないように広場の外に連れ出す。

 これでもう広場は安全だろう。

 そうしてる間にもドラゴンの解体も終わる。

 ドラゴンは見事に解体され所々肉がこびりついただけの骨だけになっている。


「こうしてみると、寂しいものだな。」


「仕方ないわ、死んだ以上肉体はいつか腐るもの。」


 勇ましいドラゴンだからといって何時までもその姿を保ち続けるのは不可能だ。

 グレンは、自分達を苦しめたドラゴンの姿を思い出しその場を離れる。

 

「骨はどうする。」


「馬を借りて運ぶしかないわ。骨も研究対象出しね。」


「それなら、村長に言うといい協力してくれるはずだ。」 

 

 アリアは、お願いしますと頭を下げる。

 話は早く進むに越したことはないので、村人達の提案を受ける事にした。

 骨の問題は解決した、次はドラゴンの素材を運ばないといけない。


「村人の皆さん、素材を運ぶのを手伝ってください。」


「おぅ、任せとけ。竜車の所でいいんだろ。」


 村人達で何か話し合った後、ユーリアの誘導に従い素材を二人一組で持ち運び出す。

 獣の世話をしていた者達も加わりスムーズに運ばれていく。

 最後に、鱗を持ったグレンとユーリアが続いた。


「他の皆は解体が終わったのだろうか。」


「終わってると思う。」


 素材を運ぶ列は無事に竜車に戻る。

 運ばれた素材はシルファとエリクによって竜車に入れられていく。

 すると、その場所にクレハ村の村長がいるのが分かる。

 よく見たら、見たことがある村人達もいるではないか。


「村長、こられたのですね。」


「あぁ、村に帰ったらいないと聞いての。森に行ったと言うものがいたのでこうして来たのじゃ。」


 どうやら心配して駆けつけてくれたようだ。


「俺達がブラッドタイガーを解体してたら、クレハ村の村人が手伝ってくれたんだぜ。」 

 

 竜車から素材を運んでいたシルファが説明をする。

 向こうは向こうで助っ人が来たようだ。


「村の安全維持、後倒れていた獣の駆除。村人を動員して行ってるんじゃ。」


「世話になります。」


「これぐらい構わんよ。」


 忙しくグレン達では手がまわらなかった事の面倒を見てくれたのだ。

 ありがたい助っ人にグレンは素直に頭を下げる。

 

「ひとまず、何があったのかを聞きたいのじゃが。」


「分かりました。では、落ち着いた所に行きましょう。」


 グレンは竜車に上がってもらおうとしたが、今思えば竜車にはいろいろな素材が詰められている。竜車で喋るのはきついだろう。


「場所が無いな、どこで話しましょうか。」


「それなら、いつも休憩で使っている小屋があるのでそこで話しましょう。」


「私も行きます。」


 小屋へと歩き出す村長にグレンとアリアはついていく。

 すると、その道中コガラキとセシルと向こうの村の人達と出会う。


「リーダー、戻ったっすよ。」


「話は聞いてる。とりあえず竜車に戻ってくれ。」


 分かったっすとコガラキが歩き出した瞬間だった。 


「クレハ村の村長か?」


「おぉ、元気にしてたか?」


 コガラキの後ろにいた人の中からクレハ村の村長に話しかけた人物が前に出る。

 向こうの村の村長だ。


「今回は大変な目にあったらしいな。」


「全く、ハンターさんが来なければどうなっていたか。」


「その事なんだがこの辺りで一体何が起こってるんだ。」


「それについてちょうど今、休憩小屋で話すつもりじゃ。お主にも来てほしい。」


 分かったと言って向こうの村の村長はグレンと共に来る。

 こうして、二人の村長による対談が始まることになった。


「俺も行きます。」


「セシルか、そうじゃな貢献者のお前も話しを聞くべきじゃな。」


 こうして、メンバーを増やし再び休憩小屋に向かうのだった。

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