第18話 荒れる森を静めよ

 ドラゴンが息を引き取ったのを確認したグレンは、そっとナイフを引き抜く。

 そして、掴んでいた顔を降ろし手を離すと振り返りその場から離れる。


「ようやく終わったな。」


「思ったより最後はあっけなかったんよな。」


 先程まであんなに暴れてたのが嘘かのようだ。

 静かに倒れているドラゴンを見た一同は、嬉しさよりも脱力感を感じる。


「お互い残りわずかの体力通しだったからな。抵抗する気力もなかったんだろう。」


「私達の粘り勝ち。」


 ドラゴンがしんどそうに戦っていたように、ハンター達も同じく体力が限界まで追い込まれていたのだ。

 あとすこしでも戦いが長引けば、こちらの膝がついていただろう。


「とは言えだ、初めて戦ったにしては上出来だろう。」


「勉強になった。」


「まったく、固すぎて腕の痺れが引きやがんねぇのよ。」


 シルファは手を開いたり閉じたりする。

 微妙に手が震えている。

 限界が近いのだろう。


「同じく。これ以上は武器も持てねぇ。」


 もう立っているのもしんどいのだろう。

 一同は床に座り疲労がたまった体を休める。 


「じゃあ、あっしは竜車の皆に伝えて来るっす。」 


「あぁ、頼んだ。ついでに解体もするから準備に入ってくれ。」


 了解っすと言い残し、休みを取っているハント組を置いてコガラキは一人竜車に戻っていく。

 死骸を放置すると、腐って疫病を振り回すため放置していく訳にはいかない。

 コガラキの後ろ姿を見送ったハント組は、改めてドラゴンを見る。


「ドラゴンの解体か、どうすればいいか分からない。」


「大虎もどうにかしないといけねぇからな、まぁそっちは何とかなるだろうけど。」


「アリア大先生にお任せするしかないっしょ。」


 当たり前だが、ドラゴン初討伐ということは解体の経験があるわけがない。

 アリアが知識を持っているのを祈るしかない。


「初めてのドラゴンの素材か、どうするつもりなん?」 


「素材で武器を新調出来たらいいんだが。」


 次の依頼までに壊れたグレンの武器を新調しないといけない。

 しかし、それには一つ問題がある。 


「でも、ぼろぼろ。」


「確かに、鱗結構砕けてるもんなぁ。」


 ユーリアの指摘通り、ドラゴンの体にある鱗はほとんど砕け散ってある。

 使える物はほとんどないだろうとの認識をもつ一同。


「その時はその時だろう。」


 知らないことを話しても進まない。

 まずは体を休めて解体する体力を復活させる事が先決だ。

 だが、そんな一同は新たなハプニングに巻き込まれる。


「騒がしいな。」


 耳を済ますと森のあちこちがうるさい。

 もう夜も深い。大抵の草食の獣は寝る時間で、普通なら騒がしくなる事はないが。


「そういえば、獣どうしが争っていたな。」


 先程あった、獣が寝ていたドラゴンを起こした事件の事だ。

 荒れてる獣がぶつかり合い喧嘩になっていた。 

 森中の獣が荒れているのだ。あの場所だけでしか起こっていないとは考えられない。

 

「なんか近づいてくるな。疲れている所悪いが各自警戒をとれ。」 


「ようやく休めるって思ったんに。」


 グレンの指示を受けた一同は、だるい体を素早く動かし背中を会わせて待機する。

 その直後、大型の草食の獣が広場に現れる。陣形を取るハンター達。

 突然現れたそいつは、ハンター達を見つけると前足を上げ軽くばたつかせた後、突っ込んでくる。

 

 「いきなりだなっ。」


 避けようとしたグレンだが疲労で足が動かず、そのまま突進をくらい樹木に叩きつけられてしまう。


「リーダー!」


「おいおい、もろに食らったんじゃねぇの?」


 突進をくらった衝撃で一瞬力が抜ける。

 グレンは、軽く息を吐き獣の角を掴むと改めて力を入れ直す。

 そのまま足を踏ん張り獣を押し返す。


「とっとと離れなぁっ。」

 

 他のメンバーが蹴りを入れると獣は横に倒れる。


「攻撃は出来ん、どうしたものか。」


 ハンターの仕事は討伐するだけではない。

 自然界のバランスを整えるという使命もあるため、草食の獣をむやみに狩るのは禁止されている。

 しかしこのままではいけないだろう。


「皆、下がるっす。」


 何処からかコガラキの声が聞こえる。

 その声の通りに獣から離れると樹木の間から一個の玉が飛びだしてくる。

 起き上がったばかりの獣の体に玉が直撃すると煙をだし獣を包む。

 すると、獣は煙を払おうと体を振るがそのままその場で倒れてしまう。


「もういいっすよ。」


 樹木の奥からコガラキが現れる。

 手にはボウガンを持っており新たに玉を設置している。


「間に合ったっすね。急いで良かったっす。」


「助かった。随分と準備が早いな。」


「あいつらが森に入るのが見えたんす。それで急いで麻酔玉を用意してもらったんすよ。」


 つまり、偶然その姿を見つけたため迅速に動けた。

 もし違う方から来てたらこうは行かなかっただろう。

 

「こんな事が森中で起こってるのか。」 


「らしいっすね。恐らくドラゴンとの戦いによる影響でストレスをあたえたんじゃないかって。」 


 もしそれが本当なら、この騒がしさは獣が暴れている声なのか。

 この森の沢山の獣が滅ぶまで止まらない可能性もある。


「急いで止めた方が良いんでない?」


「あぁそうだな。各自竜車に戻り準備を済ませよ。」


「「「了解。」」」


 一同は、広場から離れ竜車に戻って来る。

 竜車の前の机には、人数分のボウガンと玉が並べられていた。


「話は聞いたね。急いで準備して。」


「麻酔をうって寝て起きれば落ち着くでしょう。とりあえず争ってるのを中心に止めていってね。」


「分かった。」

 

 ハンター組は、ボウガンを手に取り玉をポーチにいれていく。 

 

「準備出来たぞ。」


「よし、各自別れて獣を止める。」


「じゃあ、後で合おうぜ。」


 シルファの言葉を最後にそれぞれ別れて走り出す。

 目的地は明白だ。騒がしい所を目指すといい。

 騒がしいおかげで、暗くて前が見辛くとも迷い無く進んでいける。


「大人しくしろっての。仲間で争っても仕方ないだろ。」


 沢山の樹木をかわしながら進むエリクは、喧嘩中の獣に遭遇すると麻酔玉をうつ。 

 

「落ち着いて。」


 ユーリアは壁に何度も頭を打ち付け自傷する獣を見つけると麻酔玉をうつ。


「危ねぇ事すんじゃねぇよ。ハラハラするんよ。」


 シルファは崖の上を走る獣と並走しながら追いかけていると、獣が樹木にぶつかり止まった隙をついて麻酔玉をうつ。

 

「こいつは俺にしか止めれないだろうな。」


 そしてグレンは、一際大きい獣と戦闘を繰り広げていた。

 樹木を背後に立つと突進してきた獣と接触する瞬間に避ける。

 そして、そのまま樹木と衝突し怯んだ隙に麻酔玉をうつ。

 だが倒れない、麻酔の効きが悪いのだ。


「させん!」


 さらに突進をする獣を真正面から受け止める。

 しばらく押し合いが続くが、とうとう獣は倒れる。

 獣が倒れるのを確認したグレンは、ボウガンに玉を設置し直しなおす。


「よし、順調だな。」


 そう思った瞬間だった、何匹かの群れがすれ違う。

 止まらず一直線に突っ走りそのまま森を抜ける。

 グレンはその群れに麻酔玉をうつも届かない。

 高い所から暴れる獣を狙っていたコガラキはそれを見つけると竜車に戻ってくる。


「大変っす!何匹か森の外に向かったっす。」


「そんな、この先には村があるんですよ。」


 クレハ村と交流していたという村の事だろう。

 村が巻き込まれると知ったセシルはあわてて指摘する。


「コガラキ上がって竜車を動かすわ。」


「皆を待つっすか?」


「時間がないわ。ここにいる裏方組だけで止める。」


 そう言うと、アリアは小竜に指示を出し竜車を走らせる。

 真っ直ぐ続く広い道をただ進んでいく。


「セシル、村までの距離は?」


「そこまで距離は無いです。でも間に合うと思います。」


「それが分かれば充分よ。」


 竜車はそのまま進んで行くと森を出る。

 それと同時にコガラキが笛を吹いて鳥を飛ばし、カリネが竜車のライトをつける。

 

「森から出た群れはいるっすか。」


「暗くて見にくいわね。」


 道の遥か先は真っ暗で何も見えない。 

 月の光で見えなくもないがそれでも限界はある。

 コガラキは竜車の上にあがり遠くを見る。


「見つけたっす。」


「良かった、村まで行ってないです。」


 ぴーひょろろと鳥の声がする方を見ると、鳥が獣の前を飛び足止めをしている。


「よくやったっす。」


「さすがコガラキの鳥ね優秀だわ。」


「じゃあ、経費であの子に良いご飯用意してくださいっす。」


「・・・考えとくわ。」


 そんな雑談をしてる間にも竜車は獣の達に追い付く。

 すると、竜車は外に膨れる用に進路をずらし続け円を書くように進むと、獣の周りを周る様に走る。


「出番よ。」


「分かったっす。」


 竜車の上からコガラキは麻酔玉をうつと一匹に直撃し眠らせる事が出来た。

 すぐさま、玉を設置し直すともう一発。

 それを何度か繰り返し眠らせていくが、内一匹が竜車に突進を仕掛ける。

 

「敵が来てるっす。」


「えぇ、見えてるわ。妨害して。」


 コガラキは麻酔玉の代わりに爆発する玉を設置すると獣の前にうつ。 

 獣が爆発を避ける事によって竜車への突進をずらすことが出来た。

 アリアは、すかさず竜車を真っ直ぐに走らせる。


「追ってきたっす。」


「まぁ、そうなるわよね。」


 獣は竜車を逃すまいと迫ってくる。

 それに対して麻酔玉をうっていくが煙が広がる前に走り抜けるため意味がない。

 

「ダメっす。聞かないっす。」


「ぐぬぬ、私の麻酔玉が。」


 獣が、麻酔玉の煙を抜けてかわす光景を恨めしく見るカリネ。

 すると、カリネは竜車の奥から大きく長い筒を取り出す。

 

「ようは止まれば良いんでしょ。」


「なんかやけになってるっすね。」


「なってない。」


 頬を膨らませたカリネは、獣に向かって筒から網を発射させる。

 網にかかった獣は、しばらく走っていたものの足が網に引っ掛かり転倒する。 


「いよっし、どうだ。」


「さすがっす。」


 転けた瞬間を見逃さず、麻酔玉をうつコガラキ。

 獣はそのまま動かなくなった。

 こうして無事、森から出た獣を全匹止めることが出来た。

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