第17話 決着。

 戦場に残されたハンター達は、ドラゴンの墜落を確認する。

 そして、空を飛ぶドラゴンから伸びていた先のロープの根本の場所を目指して歩いていく。

 樹木をくぐり抜けた先にあったのは、竜車と他のメンバー。


「お帰りー。」 


 ハント組を最初に迎えたのはカリネだ。

 ゴーグルを片手でずらしながら、もう片方の手を上げる。


「あぁ、今戻った。」


 グレンも手を上げ答える。


「来てたんだな。」


「うん、コガラキから現状を聞いてね。拠点を動かしても良いだろうって。」

 

 グレンは納得すると、ロープを巻き取っている機械の横を通り竜車の元に着く。

 竜車にいたもの達も各々迎え入れる。


「ハント組帰還完了だ。」


「了解。帰って早々で悪いけど早速次の作戦に行くわ。」


「長くは持たないから早くしてね。」


 カリネは再びゴーグルをつけ機械を見た。

 すつと、右回転や左回転を繰り返しドラゴンとの引っ張りあいを繰り広げている。

 まだロープはドラゴンを捕まえたままだ。

 指示を受けたハント組は、竜車に上がりこむ。


「どうだ? 上手く捕まえてるか?」


「完璧だよー。相手はどんどん暴れてる真っ最中。逃がすつもりは無いよ。」


 ここまでは順調だ。

 ならば次の作戦に挑む必要がある。

 階段に足をかけたグレンにアリアに尋ねる。

 

「首尾はどうかしら。」


「中々良いダメージを負わせれた。しかし、まだまだ動けている。」


「なるほど。もう一押しが欲しいのね。」


 今まででも充分だ。

 しかし、相手が動けるならまだまだなのだろう。

 その為の一撃が必要なのだが。


「でも、俺達でも充分やれたんだけどな。」

 

「そうね。でも、やるならとことんよ。」


「ほう。何か考えがあるのか?。」


 どうやらアリアには。考えがあるようだ。

 ドラゴンを倒すにはまだまだ足りない。

 もっと深くを斬る必要がある。


「相手はまだ動ける。でも、今までの戦いが無駄な訳じゃ無いわ。」 


「俺もそう思う。」


「と言うことでよ。カリネ、お願い。」


「あいさー。」


 竜車に上がり、階段を引き上げていたカリネが前に出る。

 そして、籠を取りだし真ん中に置く。

 籠の中には数本のナイフが入っておりその中から一本取り出す。


「準備は出来てるよ。いつでもどうぞ。」


 ナイフの刃を皆に見せつける様に持ち上げると、刃の側面を指でなぞる。

 ただのナイフのようだが。


「今更ナイフで何しようってんだ?」

 

 ナイフで斬れとでも言うのだろうか。

 さんざん戦ってきたエリクだからこそナイフでダメージは通らないと分かるのだ。

 しかしそれは鱗があったときの話。


「まぁ聞きなさい。相手の傷は浅いとはいえ間違いなくダメージが入ってるわ。そこにナイフを突き刺していく。」


「突き刺す? それでどうすれば?」 


「この先に、麻痺毒を浸して置いたのだ。これで相手は、しびびびびんだよ。」


 ナイフの毒で相手の自由を奪おうというのだ。

 それならば、流石のドラゴンも耐えられないだろう。

 しかも、体内ならば威力も期待できる。

 

「なるほど、そう言う事か。俺もその意見に賛成だ。」 


 籠の中のナイフを取りだし感触を確かめるグレン。

 他のメンバーを見ると頷き返す。

 どうやら、メンバーの賛同を得られたようだ。

 いつでも出撃出来るように各自武器を置き、代わりにナイフを一本ずつ取り出した。


「それじゃあ竜車を動かすわ。準備はいいわね。」


 そうして竜車が走り出し一同はドラゴンの元に向かう。

 通行用に作られた道をつき進んでいると、ドラゴンがついに落ちた。

 その先についてセシルに聞くアリア。

 

「セシル、ドラゴンが落ちた所は分かってるかしら。」


「はい、あっちは大きな池がある方向ですね。その付近に広場があります。」


「こっちに来るときに言ってた場所ね。」


 いつの間にか前座に座っていたセシルは、アリアとこの森の地理について話し合う。

 この森に何度も来ているだけあって的確に答えていく。

 

「人が通れる場所はある?」


「はい、もうそろそろなので止めてください。」


「分かったわ。」


 竜車は、段々と速度を落としていきそのまま停車する。

 それと同時に、竜車から飛び降りるハント組。

 

「あっしの鳥に追わせてるので目印にしてくださいっす。」


「あぁ、分かった。」


 コガラキは、森に入るハント組に情報を伝えると自身も竜車から降りるが。


「コガラキ、これ任せたっ。」


 飛び降りた際、カリネから籠を渡される。

 籠をもったコガラキは、籠に付いた紐を腕に通して背負いハント組を追う。

 急いで走るとナイフ同士がぶつかり合い音が鳴るので、ゆっくりとした足取りで進んでいくと樹木の影から様子を見ているハント組と合流する。

 

 「待て、コガラキ。」


 グレンが手でコガラキに停止を求めた瞬間、どごーーんという爆発が起こる。

 ドラゴンの火球だ。

 一同を襲う熱波が、ドラゴンがトリモチから開放された事を伝えて来る。

 

「行くぞっ!」


 グレンの合図で一同が外に飛び出す。

 ハンターを見つけたドラゴンは一気に飛びかかってきた。

 見ると、ロープは千切れており開放されているのが分かる。

 先程の火球で無理矢理吹き飛ばしたのだろうか。

 ドラゴンの首から垂れ下がるロープの端は黒く焦げている。


「これで終わりにしよう!」


 一同はドラゴンの飛び込みをかわすと、エリクとユーリアが両側から接近し傷口をナイフで指していく。


「よし上手く刺さったぞ!」


「同じく。」


 当たり前だが、ドラゴンは悲鳴を上げた。

 怒り任せに火球を飛ばそうと、口から炎を溢れさせるが。


「させん!」


 グレンはドラゴンの首から垂れた紐を掴むと背中に上がり強く引っ張る。

 その結果、ドラゴンの顔は上を向く事によって火球は空へと放たれる。


「隙だらけってねぇ!」


 懐に入り込んだシルファは胸元の傷口にナイフを刺した。

 胸を刺された事で激痛に襲われたドラゴンは、絶叫のような咆哮を上げ首を左右に振る。  

 グレンは振り飛ばされないよう踏ん張っている。


「良いとこ入ったじゃねぇか。」


「いい調子。」


「もっとだ、今のうちに攻めまくるぜぃ。」


「武器はあっしにお任せを、受けとるっすよ。」

 

 戦場のど真ん中に出てきたコガラキは、籠を手に抱えエリクとユーリアに取らせた後、なるべく離れないような位置を駆ける。

 その間にも、グレンは暴れるドラゴンの首を押さえ続けているが、とうとう振りほどかれてしまう。

 ナイフを構え攻めようとした一同は、とっさに下がる。

 

「火球に気をつけろ。」


「分かってらぁ。」


 注意している間にも構わず飛んでくる火球を何とかかわすハンター達。  

 そのまま斬りかかろうとしたが、ドラゴンは翼を羽ばたかせ退けるのだが。

 

「左からの風が弱い?」 


「なんだぁ? よく見りゃあ翼が破けてるじゃねえか。」


 ドラゴンの右の翼には複数穴があり、そのせいで風がその穴から抜けてしまっている。

 それによって上手く風を送る事が出来なかったようだ。

 ハンターから身を守るためにやった事だが、かえって自分の弱点を晒すことになってしまったのだ。


「じゃあ、話は早いじゃないの。」


「おっしゃあ、誘導なら任せろっ。」 


「協力します。」


 追加で来た火球をかわしながらエリクとユーリアはドラゴンに突っ込んだ。

 それに対して、ハンターを噛み砕こうと顔が迫ってくるが上手く避けそのまま横を抜ける。 

 そちらに気を取られるドラゴン。

 しかし、とっさにグレンが首のロープを引っ張り顔を寄せると思いきり踏みつける。


「今だっ!」


「任せなぁっ!」


 シルファはドラゴンに駆けつけると、前足を踏み台に背中に上がり翼をナイフで斬る。

 そうすることによって翼の穴は簡単に広がり完全に破けてしまう。

 これでもう翼の意味はなくなっただろう。

 シルファは、ついでに背中の傷口にナイフを刺して離脱する。


「こうなっちまったらもう飛べんよなぁ!」 


「これでようやく、決着がつけられるな。」


 グレンはドラゴンの首にナイフを刺そうとする。

 しかし、起き上がるドラゴンを押さえられず離してしまう。

 開放されたドラゴンはそのままグレンに噛みつこうとするも、そこにグレンがナイフを刺した。

 それにより、口が閉じなくなった所を横から殴られる。

 その勢いで口からナイフが飛ぶも開いた口は閉じられない。


「顎が外れたんじゃねえか?」


「だろうな。」


「うわぁ、痛々しいんよ。」


「うん、痛そう。」


 ドラゴンの口からは、よだれが垂れ地面に落ちていく。

 火球をはこうとするも、よだれと一緒に炎が垂れ落ちていく。

 もはや、火球は封じたと言っても言いだろう。


「もう楽にしてやったらどうだ?」


「あぁ、いい加減決着をつけよう。」


 グレンは、新たなナイフを取りだすとドラゴンに向かう。

 その後に他のメンバーも続く。

 ドラゴンも負けじと尻尾を振るもグレンに受け止められてしまう。

 その隙に、体にナイフが突き刺さっていく。

 グレンを振りほどこうとして暴れるドラゴンだが、その度に体から血が溢れていく。


「もう少しだ。」


 ドラゴンはもう、白目を向いて力なく首を振っている。

 もうほとんど、意識がはっきりしていないのだろう。

 グレンは手を離すと、そのまま地面に倒れてしまった。

 それでも頑張って立ち上がろうとするも、なかなか立ち上がれず何度も地面に倒れる。


「お前は強かった。少しの付き合いだったが楽しめたぞ。」

  

 グレンはそう言って、顔を持ち上げると口の中にナイフを刺す。

 それが止めとなったのか、ドラゴンはピクリとも動かない。

 その光景をメンバーは静かに見守っていた。

 グレン達は初のドラゴン討伐を果たすのだった。

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