第13話 決戦の準備

「以上が我々が確認したことだ。」


 竜車に戻ると、仕入れた情報を待機していたメンバーに報告する。

 見えない脅威がいる以上、うかつに森の中に入ることは難しい。

 森の入り口の前で足踏みする結果にもどかしさを抱える一同。


「あーらら。急に飛び出したらと思ったら厄介な事になってんよ。」


「時間がないって時に余計な事をしてくれたもんだぜ。」


「面倒ですね。」


 ハント組は、今すぐドラゴンと戦えると思っていたのだ。

 しかし、その結果によって肩透かしをくらった事になる。

 

「もしドラゴンがいるとしたら、見つかる前に仕留めておきたいが。」


「じゃあ、連戦になるってことか。」


「間違いなくな。」


 エリクの疑問にグレンはしっかりと返答する。

 しかし、ただの連戦ではない。

 相手が必ず一体で襲ってくると言うわけではないからだ。

 

「片方と戦ってる時に、もう片方と接触してしまえば対処は不可能になる。」


「ウルフの時見たいに、咆哮に引かれて来る可能性もあるわね。」


 ハンター達でも隙を狙われてはおしまいだ。

 何も出来ないまま襲われてやられてしまう。

 挟まれる事は絶対に避けたい。

 

「じゃあ、大虎どもに奇襲を仕掛けるってことか。」 


「一撃で仕留められるならそれでもいいんだろう。」


 手っ取り早く済ませれば、それに越したことはない。

 しかし、相手はウルフのボスと同じ大型だ。

 現実はそう上手くいかない。

 

「大虎は素早い。重たい武器で戦うドラゴン用の装備では時間がかかる。」


「でも、大虎レベルだとナイフは通じないんじゃないん?」


「その通りだ、今回の戦いでは、各自の武器で挑むのは確定だ。」


 大型の獲物と戦う為には、どうしても重量を伴う武器を扱うのは避けられない。

 軽い武器の攻撃ではダメージが通らないのだ。

 極力まで重量を落とした武器も扱う事もある。

 その場合、重さの有る武器を持ったメンバーとの協力が必要となる。


「だが、今回俺は攻撃に参加出来ない。」


「リーダーが戦えないんじゃ戦闘は長引くぞ。」


 グレンの主力武器は、先程の戦いで失っている。

 グレンはチームでの最高の戦闘力。 

 エリクの言う通り、決定打の無い状態では迅速な討伐は不可能だ。

 難航する作戦会議に悩むグレン。


「全員で当たればドラゴンへの参戦を許す。逆もまたしかり。」


「じゃあ、二手に別れるしかねぇのか。」


「でもチームを分けるのは危険。」


 結局のところ、同時に対処をするしか方法がない。

 しかし、その分戦力が分散されてしまうという事になる。

 大型と戦うなら、それは避けたい所だが。


「仕方ない、ドラゴンは俺一人で対処しよう。」


「なっ、まじかよ。」


 グレンの発言に一同は驚愕する。

 それもそうだろう、全員でかかって返り討ちにあった相手だ。

 それに一人で挑むというのは無謀に等しい。

 

「リーダーだけで挑むってことか? 絶対に無理だろ。武器がない状態でどうやって倒すって言うんだ。」


「そうじゃないさ。俺がドラゴンを足止めしておくから、その間に大虎の対処をお前達に頼みたい。」


「無茶を言い出すねぇ。」


「どうせ俺は、大虎の戦いでは足手まといにしかならない。ならば、ドラゴンの阻止に向かうのが効率的だろう。」


 大虎戦でのグレンは足手まといにしかならない。

 そんなグレンがドラゴンの足止めに回れば、全ての問題が一気に解決するだろう。

 しかし、一つ問題点がある。


「リーダー、戦えるまで回復したからと言って。全快した訳じゃ無いんだろ?」


「かもな。だが、お前達が早く来てくれれば問題ないだろ?」


「言ってくれるんよ。」


「まったく、安い挑発だぜ。」


「同意。」


 期待がこもった挑発だ。

 ハント組の結束が強まる。

 しかし、裏方組も黙っていない。


「大丈夫っすよ。リーダー一人に負担を負わせるつもりはないっす。」


 任せろとばかりにコガラキが名乗り出る。

 ボウガンを持ち上げ見せびらかす。


「あっしがリーダーと一緒に行くっす。」


「アイテムは任せなさい。補充は完璧だよ。」


「拠点は私が守るわ。」


 裏方組だって気合いは負けていない。

 ハンターチームの気持ちが一つになる。

 だてにずっと一緒にいるわけではないのだ。


(格好良いな。)


 その瞬間を見届けたセシルは皆の絆に憧れを持つ。

 邪魔をしたくないから言わないが、その結束に見惚れている。


「よし、なら早速動くぞ。作戦準備。」


「「「「「「了解。」」」」」」 


 ハント組はポーチを腰につけ、体の各所に鉄の防具を取り付ける。

 そして、各自の自前の武器を腰に装着していく。

 シルファのは、刃渡りが太く先に返しがついた剣。

 ユーリアのは、腕に装着する構造になってる双剣。

 エリクが、先に斧がついた槍。

 そしてグレンは、上半身がすっぽり収まる位の大きさの盾。


「あっしの分の、アイテムポーチをよろしくっす。」


「あいよー。」


 そう言って、手渡された小さめのポーチを腰に。

 それと、大きなポーチを肩に掛ける。

 その直後だった。


 ぴーひょろろ。


 丁度なタイミングで鳥の合図が聞こえる。

 獲物の特定が完了したようだ。

 コガラキが見上げる。


「見つけたらしいっすよ。」


「よし、まずは大虎の所まで案内してもらう。準備を。」 


 コガラキは笛で帰還の合図を送る。

 そうして、竜車に戻ってきた鳥の足に光る棒を紐で取り付ける。

 これがあれば、暗い夜でも鳥の位置が分かるだろう。

 

「準備完了。」


 各自の準備を確認したグレン。

 そのグレンを先頭に一同は竜車から降りる。


「襲われないように竜車の明かりは消しておくからね。帰ってきた時は、ランプが見えたらライトで照らすからそれで判断して。後リーダーとシルファはランプを持ってってね。」


 カリネは、グレンとシルファにランプを手渡す。

 すると、階段をあげて竜車の明かりを消していく。

 

「作戦開始だ。コガラキ鳥に合図を。」


 コガラキが竜車で待機している鳥に合図を送る。

 竜車から飛び出た鳥は一直線に空を飛び出る。

 暗闇に、一つの光が浮かび上がる。


「見失う前に、追いかけよう。」


 鳥を追いかけ、森へと侵入する一同。

 途中まで整地された道を進んで行く。

 グレンは、ランプを掲げ遠くの方を見る。

 

「この森はかなり広かったはずだが、あまり奥地にいてほしくないものだな。」


「迷ったら大変。」


「帰れなくなってリタイアは勘弁してほしいねぇ。」


 問題を指摘するユーリアに同調するシルファ。

 実際、迷ってしまえばドラゴン退治どころではないだろう。

 なので、しっかりとした道の確認が必要だ。


「あっしは、皆さんの方にはいけないので頑張って下さいっす。」


「こっちはこっちで何とかするんよ。」


 ランプを軽く揺らしたシルファは、自信満々に言う。

 ランプが一つしかないため離れてしまうとはぐれてしまうのだ。

 一同は、空を飛ぶ鳥の足元につけられた光を見る。


「まだ先か。」


「らしいっすね。」


 まだ距離は離れている。

 鳥は少し進み、その場で旋回してはメンバーを確認するとまた進むのを繰り返している。

 光を横目に進んでいくと、道が目的地から離れて行くのを確認する。


「これ以上は行けそうにない。道から逸れた方が良さそうだな。」 


「ここから先は、道を無視して一直線に行くのが良いだろうねぇ。」


 一同は目的地から離れるポイントで道を外れ、樹木の中に侵入する。

 コガラキは笛を吹くと、鳥は目的地に向かう。

 目的地上空で旋回する鳥をコガラキが指を指す。

 

「後はあそこを目指せばいいっす。」


「思ったより近い。」


「あそこを寝床にしてんのか。獣って言うのは樹が大好きなんかねぇ。」


「さぁな、俺は獣じゃ無いから分からんが。面倒な事には変わらんさ。」 


 シルファの疑問にグレンが答える。

 獣の事は獣しか分からない。

 そのせいでグレン達が獣を見つけるのに苦労しているは確かだ。


「あれ見て下さいっす。」


 急にコガラキが立ち止まり、指を指し確認を求める。

 一同も立ち止まりその指の先を見ると、地面に血溜りが出来ている。

 その奥の方へと引きずられる様に伸びている。

 

「獲物でも取ったんすかね。」


「いや、肉食の獣ならば狩った獲物を持ち帰る事はしないはずだが。」


 コガラキの疑問はグレンによって否定される。

 だが何かを引きずったのは明らかなのだ。

 

「何はともあれ、あの先に居るのは明らかだ。」


「んじゃ、ここでお別れなんよ。」


「だな。」


 つまり案内はもう要らないと言うことだ。

 二手に分かれて別の道に向かう。

 ハント組の三人は、血の向かう方へ。

 

「コガラキ、任せた。」


「了解っす。」


 そしてグレン達は、鳥が飛ぶ方へ。

 コガラキが鳥に笛で合図を送る。

 あの光の先にドラゴンがいるのだろう。


「死ぬなよ。リーダー。」


「健闘を。」 


「先に倒しちまうんじゃねぇぞ。」 


 別れる際、リーダーに声を掛ける他のメンバー。

 それに答えるように、こぶしを挙げてがははと笑う。

 心配などかけさせるつもりはない。


「お前達もな。」


 そう言って暗闇に消えていくグレンを見送る。

 すると、残されたメンバーも歩きだす。

 場所は、地面に付いた血が教えてくれる。


「この先で間違いないよな?」


「目印通りなら、なんよ。」


「分かりやすい。」


 血は点々と続いている。

 そうとう引きずったようだ。

 敵を誘ってしまうとも知らずに。

 それからしばらく歩く。

 すると、シルファがランプを床に置く。


「ここに仮拠点を立てるんよ。」


「何かあったらここに集合だ」

 

「では、私は先を見てきます。」


 本来はコガラキの出番なのだが、グレンについていったので代わりにユーリアが行く。

 一つ一つ樹に隠れながらじっくりと進んでいくユーリア。

 しばらくそのまま進んでいくと、獣の鳴き声が聞こえたので身を隠す。

 しかし、反応はない。


(ばれた?)


 肉食の獣は匂いに敏感だ。

 近づきすぎたのかと思ったがどうやら気付いてはいないようだ。

 

(違った。でも、もっと慎重に。)


 安全を確認したユーリアは、樹に隠れたまま奥を見る。

 すると、二匹の大虎が倒れてる一匹を匿うように座っている。

 そして、座っている個体が倒れている個体を舐めている。

 倒れている個体の床が変色しているように見えるが暗くてこれ以上は分からない。


(見つけた。知らせよう。)


 これ以上の探索は、見つかるリスクが跳ね上がるだろう。

 その場をそっと後にするユーリア。

 そのまま、明かりの場所へと戻る。


「戻ってきたぜ。」


「報告よろしくなんよ。」


 そこにいた二人は、辺りを警戒していた。

 仮拠点に戻ってきたユーリアを見て、ランプに集まる。

 そして、確認した事を報告する。


「大虎が三匹。うち一匹は重症。」


「やっぱり、アリアの予想はあってたって訳なんよ。」


「じゃあ、予定道理にいくって事だな。」


「一匹が重症ってのが気になる所だけどねぇ。」


「構わねぇよ、楽になったって事だろ?」 


 ランプを置いた場所から移動する一同。

 ユーリアを先頭に奥へと進む。

 そして、先程隠れた場所で二人を静止させる。


(止まって。)


(了解。)


 目で指示を出すユーリア。

 お互い頷くと、それぞれ離れた場所に隠れる。

 戦闘の準備は完了した。


 (任務開始なんよ。)


 向こうはこちらに気づいていない。

 仕掛けるなら今だ。

 樹に体を隠しながら、各自武器を構える。

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