第12話 目的地へ向けて
夜に染まっていく道を竜車が進んでいく。
辺りに小竜達の足音と竜車の車輪の音、そして車輪をサポートする機械の音が辺りに響く。
カリネが竜車の機械の燃料を確認する。
「燃料はまだあるけど長くは持たないよ。」
「事実上、次が決戦か。」
「また逃げたらどうすんよ?」
今度は逃げないという保証はない。
追えなくなったら終わりだ。
リベンジどころではない。
「そうなってしまえば、被害は村だけではすまないぜ。」
「確実に仕留めるしかない。」
周囲にはクレハ村と交流する村はいくつかある。
もちろん村にはドラゴンと戦うすべはないのだ。
逃がしてしまうという事は、辺りの村を巻き込むことになるのだ。
「今回はあっしもサポートにまわるっすよ。もう見てるだけはごめんっす。」
「もちろん、頼りにしてるさ。」
竜車の上から中を覗きこむコガラキも意気込みを見せる。
先程の戦いでは、見ているだけだったのでそうとう堪えたのだろう。
裏方組は基本戦闘には参加できない。
だからこそ、出来る事を全力でするのだ。
「そもそも、ドラゴンを倒せたらって話なんよ。」
「そうね。今回みたいな事が増えないとも限らないわ。」
「そうなんですか?」
「普通は無いわ、普通はね。そう思いたい所だけど。」
セシルの疑問にアリアは悩む。
今回の件はとても異質だ。
アリアでさえ答えを導き出せない。
「セシルにはもう言ったけど、今回の現象が偶然起きたものか、それとも何か原因があって起こったものか知らないことにはね。」
「勝手な判断をするにはあまりにも無茶苦茶な事が起きまくっているしな。」
「取り合えず、ギルドに協力して欲しい。帰ったら早速報告だな。」
ただごとではない今回の事件。
決めつけるには早計な事が起きている。
村の安全確保にはやはり、原因の調査が必要となる。
もし何かしらの現象が起きているのであればグレン達の様な弱小なチームには手に負えない。
「まぁ、ここで言っても何も始まらないっしょ。」
「まずは目の前の問題を解決しないとな。」
コガラキとエリクの意見に一同は賛成する。
グレンは地図を見て書き込まれた物を確認する。丸を見て目的地を確認し案内役のセシルにたずねる。
「セシル、今がどの辺か理解できるか?」
「はい、この辺ですよ間違いないです。」
「うむ、なかなかのペースで進んでいるな。」
先程まで竜車の外を見ていたセシルは、周辺の自然物と自分の記憶を地図に書かれたものと照らし合わせ場所を特定し指を指す。
納得したように頷いたグレンは竜車の外を見る。
「そろそろ暗くなるな。このペースだと向こうにつくまでには完全に日は落ちる。」
「ドラゴンのやつ寝てくれてれば良いんだけどな。」
「そりゃ良いねぇ。俺達の狩りが楽になるってもんよ。」
「希望的観測で動けば痛い目に合う。」
「分かってるって。」
ハンターにとって油断は命取り。
とはいえ、あまり気を張りすぎるのも良くはない。バランスが大事なのだ。
「そもそも、寝ているドラゴンを一撃で仕留められたらの話だけどな。」
「そりゃあ、そうなるよねぇ。」
エリクの突っ込みにシルファは納得してしまう。
そんな会話をしている内にも旅路は順調に進んでいく。
襲いかかってくる獣はいないので、足を止められる事もないし何らかの事故だって起こることはない。
「このまま、順調に行ければいいんだが。」
「縁起でもないことを。この辺は安全だってセシルも言ってたっしょ。」
「はい、よく使う道なので分かりますよ。」
「そうだと良いのだが。」
そう言ってグレンは、竜車の進む先をじっと見ている。
もちろんセシルが嘘を言っている訳では無いことはグレンも知っている。
「何かあるんですか?」
「いや、気になっただけだ。」
グレンは首を横に振って座り直す。
「まぁ、色々あったからな。心配する気持ちも分かるよ。」
「いろいろ、確かにいろいろありましたね。」
エリクの言葉に、セシルが反応する。
ウルフの襲撃からもう一日がたっている。昨日の今頃は走り続けている頃だろうか。
ただ、がむしゃらに走っていた時を思い出す。
セシルの頭には鮮明に残っている。
「皆さんと出会えて良かったです。」
「お、何々? 愛の告白って奴かい。」
「ちっ、違いますよ。」
シルファのからかいを大慌てで否定するセシル。
しかし、セシルの思いが本物なのは本当なのだ。
「皆さんがいなければどうなっていたのかなって。」
「なっ、言っただろ? 俺達は強いって。」
「はい。そのとうりでした。」
素直に頷くセシルに一同は笑顔を見せる。
「まぁ、ドラゴンもちょちょいのちょいだ。安心しなって。」
「そそ、信じてくれてもいいんよ。」
自信満々に言うエリクとシルファにセシルは安心する。
絶対に村を助けると言って実際に助けてくれた。
だから、二人の言う通りドラゴンも倒してくれるだろうと言う信頼がセシルにはあった。
「やる気があるのは良いことだけど、ちゃんと体を休めなさいよ。結構無理してるんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫。甘く見ちゃあダメなんよ。」
肩をぐるぐる回すシルファ。
多少ぎこちないものの、力強い。
その動きに合わせ他のハント組も座ったまま体を伸ばしストレッチをする。
皆問題なく体を動かせているようだ。
「充分休んだからな、これぐらいなら問題ない。」
「異常なし。」
少し前まで体を動かす事すら出来なかったのに、しっかりと動かせる所まで回復している。そんなことが出来るのは、ハンターとして体を鍛えている賜物か。
そんな皆の様子を確認したグレンは、がははと笑いながら腕を組む。
「さすがだな、この調子ならもうドラゴンと戦えそうだ。」
「何時でもいけるんよ。」
「当然っ、もうやられてなんねぇ。」
「今度こそ。」
意気込みを語り盛り上がるハント組。
覚悟はすでに決まっている。
今更逃げたがるものは誰もいない。
「皆さんそろそろつく頃ですよ。」
外を見ていたセシルが皆を呼ぶ。
実際、竜車は山と山の間に入っていく。
そこには森のような物がある。
「あっ、森が見えるっす。」
「私も確認したわ。」
そうこうしてる間にも竜車はドラゴンが逃げ込んだと言う森にたどり着く。
森の真ん中、沢山ある樹と樹の間が切り開かれて道が出来上がっている。
「本当に、森の中に道があるのね。」
しっかりと整地されてある森の道に感心するアリア。
これなら、大きな竜車でも潜入出来るだろう。
「よし、竜車の速度を落として森に入る。コガラキ調査を頼む。」
「分かったっす。・・・いや、ちょっと待つっす。」
「どうした?」
「ちょっと小竜を止めてほしいっす。」
コガラキの指示で竜車は停止する。
止まった竜車の天上から飛び降りると、一目散に駆け出す。
その背中を見送る一同。
「ちょっと待って。」
どうやら、アリアも気付いたようだ。
アリアがランプを持ってコガラキの後を追う。
グレンも後に続く。
「いったいどうした?」
コガラキに追い付きランプで照らす。
何やら転がっている獣の死骸を見ているようだ。
その死骸は、お腹から血を流して倒れている。
グレンとアリアは、コガラキの横に並び一緒に見る。
「ドラゴンの仕業か?」
「ドラゴンの仕業にしては傷口が小さいわね。」
ドラゴンは大きな牙と爪で勢いよく攻撃する。
なので、ドラゴンが仕留めた獲物には必ず大きな傷跡がついている筈だ。
しかし、目の前の死骸には大きい傷は付いていない。
「つまり、ドラゴンじゃない獲物がいるってことか?」
「でも、セシルは肉食の獣はいないって。」
「あっしはセシルが嘘をついてるようには見えないっすけど。」
「あぁ、俺もセシルを信じる。」
何か他に情報がないかと死骸を照らすと、身体中に血がついていることを発見する。
複数の攻撃を受けたという事だろう。
「小さい牙だから、何度も攻撃した。そして、引き倒した。予想だけど。」
「やっぱり何かいるのか。」
「間違いなくね。そもそもドラゴン事態がイレギュラーだし、他に異常な事が起きても不思議じゃないわ。」
ドラゴンでは無い危険な存在がこの森にいると言うのだろうか。
新たなる脅威を知ったグレンは辺りを警戒する。
しかし、近くに反応はない。
「敵は無し。いつやられたか分かるか?」
アリアはためらいなく死骸を触る。
体に着いた血に触れたり、脂肪がたっぷりと蓄えられてあるお腹を何度も押す。
しかし、どれだけ押しても血は出ない。
少なくとも、死骸になってしばらく経っている事になる。
獣を殺した犯人も近くにはもういないだろう。
「大雑把に少し前。夕方辺りかしらね。これ以上は検分しないと。」
「いや、いい。そうか、夕方と言えば俺達が仮眠を取っていた時だな。」
それと同時に、ドラゴンが飛び去ってからしばらくという事になる。
恐らく、その時に何かが起きたのだろうか。
「やはり、ドラゴンか?」
「絶対にあり得ないわ。」
グレンの疑問を即座に否定するアリア。
立ち上がると、死骸をいろんな角度から見るために歩き周る。
すると、何かを見つけたかの様に地面を触り出す。
「コガラキ、この辺りを照らして頂戴。」
「分かったっすよ。」
カリネは地面を触るアリアの手元を照らす。
そこには、うっすらと赤黒いのがあった。
「リーダー、獣をひっくり返して頂戴。」
「あぁ、分かった。」
先程から見ていただけのグレンが動く。
アリアの指示により、死骸をひっくり返す。
すると、コガラキがすかさず死骸を照らす。
「そういうことね。」
「大体俺も予想はつくが一応説明してくれるか?」
アリアが死骸を払う。
そして、死骸についてある大量の土を払い出す。
死骸の裏側についていた土がボロボロと体から落ちていく。
「こいつは何かと戦っていた。そして、首を噛まれそのまま振り回されて投げ飛ばされた。なるほど、引き倒した訳では無かったのね。」
「犯人の特定は出来るか?」
「一番近い場所だと大虎ね。それでも、住んでいるエリアと離れているけど。それにあいつらは肉を残さず食べる。こんな中途半端に残すかしら。」
折角の獲物を残すのだろうか。
傷跡を触れるアリア。
謎は一層深まるばかりだ。
「とりあえず、鳥を飛ばして確かめて見るっすね。」
コガラキは笛を吹いて鳥に指示を出す。
すると、竜車から飛び出し暗闇へと消えていく。
それを見送った一同は、ひとまず竜車に戻る。
「作戦の立て直しだな。」
他にいるとなると、対ドラゴンの作戦は意味がない。
新たな脅威に立ち向かうために行動に移すのだった。
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