第11話 裏方の覚悟

 診療所で休むハント組。

 横になると本格的に寝てしまうので座ったまま仮眠をとる。

 その間に、裏方組はドラゴン対策を始める。


「用意するのは、皆のフル装備でいいよね。」


「えぇ、でもリーダーの大剣壊れちゃってるわ。」


「代わりに盾でも用意しておこうか。」


 それに頷くアリア。

 カリネは、竜車にある武器を一つ一つ研いでいく。

 ファイルを見ているアリアは、ドラゴンに関する情報を調べている。


「ただいま、戻ったっす。」


「待ってたわ。」


 竜車に入ってくるコガラキ。

 彼に事これまでの話を伝える。

 しかし、それを聞いても驚かない。


「なるほど、じゃあ集めた情報が役に立ちそうっすね。」


「見つけたのね? 何処に飛んで行ったか。」


「方向だけっすけどね。」


 メンバーの決断を迷い無く受け入れるコガラキ。

 竜車に置かれた地図を覗きこむと、集めた情報を書き記していく。

 飛んでいった方向から場所をおおよそ特定し、鳥に見てきてもらっていたのだ。

 戦いがあった山から線を伸ばし遠くの森に丸をつける。


「思ったより近くだね。」


「戦いによる疲労で遠くまで飛んでいくことが出来無かったのね。ドラゴンは、少しの動きでもかなりのスタミナを使うから。」


「確かに、そうとう暴れたっすからね。」


「まだこの辺は外敵の少ない場所。とりあえず体を休めて次の行動に移るつもりだね。」


「休むか責めるか分かんないっすから、動く前に攻め込みたいっすね。」


「じゃあ、準備を急いだ方が良いね。」


 準備を再開する一同。

 ドラゴンが逃げ込んだ地域の生態系を調べだすアリア。

 過去に集めた資料を捲っていく。


「あれ、日が落ちて来てるっす。」


 ふと空を見ると、太陽が沈みかけているのが分かる。

 こっちに来てから、それだけの時間が経ったようだ。

 今動くのなら、日中には間に合わないだろう。


「今動けば夜になるっす。」


「そうね。暗い場所で戦う事になるわ。」


「大丈夫っすかね。」


 暗闇での戦いは、決して楽ではない。

 一同に不安が募る。

 すると、段々辺りが薄暗くなる。

 当然、地図も読めなくなる。


「カリネ、ライトをつけて。」


「あいさー。」


 竜車の中にあるライトをつけるカリネ。

 中の上部に付けられた物だ。

 光に照らされ、再び地図が見えるようになる。 

 

「うーん、まずいわね。」 


「どうしたの?」


 地図を見ながら考えるアリア。

 何か問題が起きたようだ。

 武器を並べ終えたカリネが質問する。

 

「この辺りの情報が少ないのよ。」


「肉食の獣がいないんじゃ、ハンターが行く必要が無いっすからね。」


「これじゃ、竜車が通れるかも分からないわ。」


 アリアは地図を恨めしく睨んでいる。

 すると、急に現れた人物が彼女に声をかける。

 

「通る道ならありますよ。」


「セシル?」


「すみません、つい皆の事が気になりまして。」


 声をかけたのは、診療所から出てきたセシルだ。

 入りますねと竜車に上がる。

 そして、地図に近づき丸で囲われた目的地に指を指す。


「山に挟まれた所に森があるんですが、近くの村に向かう時に通るんですよ。」


「なるほど、道が書かれてないだけなのね。」


「はい、我々以外に使う人はいないので。道も知ってるからわざわざ書く必要もありませんからね。」


 地図には、道が書かれてない。

 皆が知っているので、書く必要が無いからだ。  

 しかし、間違いなくそこにあるらしい。 


「セシル、道を描ける?」


「厳しいですね、道は分かるんですが結構複雑なので。崖とかで高低差が一杯あるんですよ。」


「そう、どうしたものかしら。」 


 道があるのは分かった。

 しかし、その道が分からない。

 アリアは地図とにらめっこし黙ってしまう。

 地図を見つめても分からないものは分からない。


「もう一度聞くけど、セシルは道の事は分かるんだよね?」


「はい。」


「じゃあ、セシルを連れていけば良いんじゃない?」


 アイテムを整理していたカリネが、作業の手を止めてセシルの肩を掴む。

 セシルを連れていくと言うことはドラゴンの近くに連れていくということだ。

 当然の事ながら、賛成の声はあがらない。


「素人を戦場に連れていくってこと? 危険だわ。」


 もちろん、アリアは批判する。

 納得する事が出来ないのは当たり前だ。

 とは言え、ハンター達を導くと覚悟した身だ。

 妥協をするつもりもないが。


「情報は欲しいけど、連れていくのはね。」


「でも、調べる時間はないんでしょ? 決断を遅らせれたらドラゴンに遅れを取るかもよ?」


 ドラゴンの状況が分からない今、行動を急ぐ必要がある。

 次の一手が何なのかいつ動くのか。

 場所を移動されれば特定は困難になるし、先手を取られれば対処が間に合わない。

 だから、ドラゴンよりも速く動くことが必要になる。


「セシルはどう?」 


「もちろん行きます。皆さんの役に立ちたいです。」


 頷くセシル。

 今のグレン達に心を痛めているのだ。

 だからこそ、自分も協力したいと思っている。

 それに、セシルはこの村の一員だ。


「村を守るためですからね。何でもしますよ。」


「そうね、一緒に村を守りましょう。」


「また一緒に旅に行けるんだね。」


「でも、無茶なことはしないでね。これだけは守って。」


「はい、分かりました。」


 こうしてセシルが参加する事が決まった。

 しかし、道が分からないという問題が解決しただけにすぎない。

 まだまだ知りたい事はある。


「池とかそういうのはあるかしら。洞窟とかは?」 


「そうですね、池はありますよ。洞窟は分かんないです。でも、どうしてですか?」


「ドラゴンだって野晒しで寝るのは嫌なのよ。だから、環境が整った場所にいるはずよ。」


 ドラゴンだって、何も無いところに降りるわけがない。

 休む場所を選ぶのは、当たり前の事だ。

 つまり、そこを中心にドラゴンの探索をする方がいい。

 

「拠点はどこに置く?」


「ドラゴンがいそうな場所から少しだけ離れた場所が良いんだけど。」


 すぐに挑めるようにするためだ。

 しかし、相手の場所は分からない。

 そうなると、拠点を置くのも悩んでしまう。


「こちらを狙ってくる小物がいないのが幸いっすね。」


「はい。草食の大人しいのしかいませんよ。」


 村人達がよく使うということは、人を襲う獣はいないという事だ。 

 いつもは、肉食が近寄らない場所を特定してそこに拠点を置いてる。

 それを省略出来るのはとても効率の良い事だが。


「現地で場所を決めてるしかないわね。」


「協力しますよ。」


 拠点を建てれるかはセシル次第だ。

 現地を見て貰いながら、情報を教えて貰うしかない。

 それから作戦を立てていると、診療所の中から話し声が聞こえてくる。

 グレン達だ。

 休憩を終えて診療所から出るところだ。


「よし、少しは体が動けるようになったかな。」


「元気だなぁ。こっちはまだ全身がだるいっつうのに。」 


「何、鍛えてればこれぐらい何ともないさ。」


「それは、リーダーだけなんよ。少しぐらい分けて欲しいんよな。」


「同意。」


 診療所の扉が開きグレン達が現れる。

 他のハント組はだるそうだ。

 それでも、しっかりと歩いていく。

 あまり体を休めれてないはずだが大丈夫なのだろうか。


「行けそう?」


「もちろんだ。」


「俺たちは全然厳しいんだけどな。時間がないんだろ?」


「えぇ、今すぐ出発した方がいいわね。」


 遅れれば遅れるほど、対処が困難になる。

 先手を打つには、今すぐにでも遅くない位だ。


「準備は出来てるのか、すまないな。」 


「私達は私達の仕事をこなしただけよ。」


 そう言いながら、アリアは竜車の運転席へと移動した。

 ハント組も竜車の上に飛び乗る。

 そして、階段が引き上げられる。

 出発の準備は整った。

 

「セシルも来るのか?」


「えぇ、情報が無さすぎだからね。案内を頼んだの。」


「そうか、改めてよろしくな。」


「ちゃんと守ってやるから安心しな。」


「よろしくお願いします。」


 セシルは、皆に頭を下げる。

 もう一度皆と一緒にいられる事を嬉しく思う。

 しかし、それと同時に緊張もする。

 皆の無事はセシルの案内によって変わってくるからだ。


「お陰で十分休めた。もう待ったは無しだ。今すぐ行こう。アリア出発してくれ。」


「了解。」


 グレンの指示で竜車は動き出す。

 空はもう日が落ちかけており、村はだんだん暗くなっている。

 その道を竜車はゆっくりと進んでいく。


「カリネ、前のライトをつけて頂戴。」


「ほいさー。」


 前座を覆うようにある屋根に備え付けられた三つのライトの事だ。

 左右のライトで小竜の前の道を照らし、真ん中のライトで先の道を照らす。

 そのライトに、村人達が気づく。


「何処かに行くのかい?」


「あぁ、ドラゴンにけじめをつけに行く。」


「そうか、村を頼んだぞ。」


 村人達が手を振ると、グレンがそれに手を上げ答える。

 竜車は、そのまま村を出ると同時に加速する。

 小竜達が順調に速度を上げると、暗くなりかけの空間を突き進んでいく。

 村はあっという間に見えなくなった。

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