第14話 迅速な相手との戦い。
樹の後ろに隠れながらハンター達はターゲットに近づいていく。
シルファは、煙玉を取りだし投げずに使用する。
煙玉には匂いがあり、人の匂いを消すためだ。
しかし、投げつけては急な変化に警戒されてしまう。
だから、気付かれても自然に発生した様に見せるためゆっくりと煙を充満させる。
シルファの煙玉が放つ煙を見た他メンバーも同じように煙玉を使用する。
うっすらと視界にもやがかかった位でブラッドタイガーは周囲の異変に気づくがもう遅い。
完全に煙も匂いも充満しているため人工物のもやだと気付く事が出来ない。
(どうやら上手くいったらしいんよ。)
一同は、煙玉を落としターゲットに近づいていく。
樹をかわしながら進んでいく分、ターゲットとの間の障害物が減っていく。
相手はまだ気付いてない。
(さて、そろそろ始めますかね。)
シルファはもう一度煙玉を取りだすが今度は投げつける。
しかも、相手の奥の樹にだ。
シルファが放った煙玉は、樹に当たり音を出す。
もちろん大虎は、そちらを向く。
煙玉の音を合図にシルファとユーリアが駆け出す。
(まずは、一撃っ。)
煙のおかげで接近に成功する。
二人は体を回転させる事により勢いをつけて武器を叩きつける。
仰け反る大虎。
急な攻撃に対応が遅れている隙に、追撃としてもう一撃を与えると倒れる。
相手を分散させる事に成功した。その隙にエリクは倒れている個体に槍を突き刺す。
「わりぃな。」
刺された大虎は、一声鳴いた後にピクリとも動かなくなる。
鳴き声を聞いた残りの二匹はすぐさま立ち上がり目の前のハンターを捕捉する。
すぐさまハンターに飛びかかるも、かわされもう一撃を受ける。
それでも立ち上がる二匹。
「時間がないんでね、このまま責めるんよ。」
「合わせます。」
今度は、ハンターが攻める番だ。
シルファとユーリアは、襲われる前にと攻撃をしかけ顔に一撃を与えようとするもかわされる。
奴等はその隙を見逃さない。
一瞬で体制を立て直すと。ハンターに飛びかかる。
「下げろ。」
ユーリアは頭を下げると、シルファはユーリアを襲おうとした大虎に切りつける。
そのためシルファを襲おうとしたやつが攻撃をすかし、その隙をエリクが槍を突き刺して吹き飛ばす。
相手の、意表をつく見事な連携だ。
「やっぱ上手くはいかないんよ。」
「奴等の動きは早い。」
「一瞬でも隙を見せたらやられちまうな。」
相手は速さで獲物を襲い狩る生き物。
そのスピードは戦闘中にも活かされる。
そうこうしてる内に、煙が晴れお互いをしっかり認識する事が出来た。
もちろんエリクに止めを刺された個体もだ。
その瞬間、大虎から漂う気配ががらりと代わる。
ハンターに向けて唸り声を上げ吠えかかる。
「仲間をやられてご立腹ってか。」
「当然のこと。」
「こっちも死活問題なんよ。恨みっこ無しでいきたいけどねぇ。」
あまりの大きな声に三人は耳を塞ぐ。
大事な仲間を殺されたのだ、怒るのも仕方あるまい。
だが、ハンター達からすればそのお陰で負担を減らせたのは間違いない。
「くるぞ。」
大虎は、今度はお互いタイミングをずらして襲いかかる。
片方ががユーリアに襲いかかるが、かわされ横から攻撃を食らわせられそうになるも、もう一匹がそれを防ぐ。
そいつの対処にとらわれると、先程の奴が止めに入る。
防戦一方になるハンター達。
段々その速さが上がり、対処が困難になるとハンター達は逃れる様に三手に別れる。
「息がぴったりじゃない。」
「俺の槍じゃあ攻撃が間に合わねぇな。」
エリクの攻撃は重く遅い、下手に攻撃しよう物なら攻撃後の隙を狙われる為うかつに攻撃するわけにはいけない。
もちろんそれは大虎側も理解していた。
二匹でエリクに襲いかかる。
「やべぇ。」
とっさに片方を槍で突くも、もう片方の対処が遅れ噛みつきを槍の持つところで防ぐ。
とばされた方が体制を立て直し噛みつこうとするも、間に合ったシルファに切られる。
槍に噛みついた方は、ユーリアに切られ吹っ飛ぶ。
「助かった。」
そう言って、エリクは武器を構え直す。
吹き呼ばされた大虎側も体制を立て直す。
「埒があかねぇ。」
「でも攻撃は当たっている。」
ユーリアの指摘道り大虎の体のあちこちから血がにじんでいる。
こちらがおしている証拠だ。
「このまま攻めますかね。」
「えぇ。」
シルファとユーリアは斬りかかるが、大虎はそれをかわしそのまま樹木の中に入っていく。
「逃げるつもりか。」
「いや、そうじゃねぇな。」
エリクの言う通り逃げた訳じゃない。
ハンター達の周りを樹に身を隠しながらぐるぐると周っている。
いつ襲いかかって来るか分からない状態で動く事が出来ない。
隙を作らない様に、三人はお互いに背を預け大虎を警戒する。
「こっちを錯乱するつもりだな。」
「しっかり見て対処。」
「あぁ、目ぇ離すんじゃねぇぞ。」
ハンター達の隙をうかがいながら周っていた大虎だが、急に一匹が襲いかかって来る。
「よけろっ。」
一人の合図で攻撃をかわすとそのまま密林に戻っていく。
すぐさま三人は、背を合わせた陣形に戻る。
その直後、また一匹が飛び出してくる。
さっきと同じ工程が繰り返される。
「しつこいんよなっ!」
「また来る。」
「させねぇ!迎え撃つぞ!」
大虎がもう一度襲ってきたタイミングで、攻撃をかわしたシルファが後ろ足を払う。
それにより体制を崩しそのまま地面に突っこんでしまう。
そこにエリクが槍斧を叩きつける。
攻撃を受けた大虎のお腹がさけ血が吹き出した。
「よし。決まったぜ!」
ガッツポーズをするエリク。
だが、そんなエリクをもう片方が襲いかかる。
片割れがやられ焦ったのだろう。
「危ない。」
淡々と危険を知らせたユーリアが、横から一撃を与え攻撃を反らす。
それにより、相手が吹き飛んだ。
急な反撃に対処が出来なかったようだ。
「油断大敵。」
「わりぃ!」
エリクはユーリアに感謝を述べ、残りの一匹対処に移る。
しかし、後ろからの音に武器を構える。
先程、攻撃した奴が起き上がろうとしていた。
「無事なのかよ。結構な一撃を食らわせたはずだぞ。」
「やっぱり、急所を狙わないと駄目なんよ。」
「でも、傷は大きい。」
「だからと言って、このままちんたら攻撃をしている場合じゃねぇぞ。」
こうしている間にも、時間は止まってくれない。
ダメージを受けた方の元にもう片方が駆けつける。
そして、庇うようにハンター達の前に立ち塞がる。
「来るよ。」
「おっし。んじゃ、ちょいと体を張りますかな。」
相手に向かって走り出すシルファ。
前の個体に飛び込んだ事により、向こうもこちらに飛びかかる。
しかし、剣で攻撃を反らし横を抜ける。
「おっと。狙いはこっちなんよ!」
そう言って、奥の方に方に突っ込みぶった斬る。
咄嗟の事で、相手は反応出来ない。
それでも避けようとしていたが、足がもつれ避ける事が出来ずに攻撃を受ける。
「ついでっ!」
体勢を崩した所に足を剣で払いこけさせる。
もう片方が助けに入るが。
「後ろ、駄目だよ。」
後ろからのユーリアの一撃に対処できずに吹き飛んだ。
それにより、立ち塞がっていた方がいなくなり道が出来る。
「今のうちっ!」
叫びながら瀕死の個体に近づくと槍斧を叩きつけるエリク。
ついでとばかりに槍で首を刺す。
すると、首から血を流しながら息を引き取った。
まずは一匹目だ。
「やっと仕留めたか。」
「たぶん。」
「これ以上は勘弁して欲しいんよ。」
小さい鳴き声を上げ、そのまま動かなくなったのを確認するともう一匹の対処に移る。
もう片方はすでに立ち上がって唸っている。
しかし、心が折れかけているのだろうかもう迫力は感じられない。
仲間が殺された怒りより目の前にある恐怖が勝ってしまっただろう。
「ここまで怯えられると申し訳なくなるな。」
「だからと言ってこのまま放置すれば近くの村を襲う。」
「とっとと倒してリーダーの所に行くんよ。」
気力を完全に失ってしまっている大虎に攻撃をしかける。
左右からシルファとユーリアが順番に攻撃し、最後にエリクが頭に槍斧を叩きつける。
そして、止めとばかりに首に槍を突き刺す。
「終わったか?」
「確かめるんよ。」
「手伝う。」
シルファとユーリアは、他の二匹が死んでるのかを確認する。
先程の事もあるため入念に調べている。
倒れた大虎は、血を流しながら動かない。
どうやら、無事仕留めたようだ。
「死んでるな。」
「同じく。」
三匹が無事死んでいることを確認すると休む暇なく次の作戦に移る。
やってきた道を戻りランプを置いた場所に戻ってくる。
「こっちの作戦は無事完了っと。」
「はぁ、もう動けねぇよ。休みてぇ。」
「そんな暇はない。」
「まぁ、討伐まで体力がもったのが奇跡のようなもんなんよな。」
実際、三人の体力は限界に来ている。
このまま、倒れてしまいたいという所まで追い込まれているのだ。
三人は、アイテムポーチから瓶を取り出す。
「さて、飲ませて頂くんよ。」
「カリネによると回復薬のバージョンアップって話だけど。大丈夫か?」
「飲まないとこれ以上は戦えない。」
三人は、回復薬を飲む。
口の中に甘ったるい味が広がる。
とても強烈な甘味だ。
「うえっ、味どうにかならなかったのか。」
「でも、疲れが引いていくような。」
体の調子を確かめる一同。
先程までの体の疲れを全く感じない。
どうやら、上手く効いているようだ。
「なかなかいい感じなんよ。」
「ここまで来ると逆に不安だけどな。」
「わがまま。」
「だな、カリネに感謝なんよ。」
そういうと三人はポーチに空き瓶をしまう。
その瞬間だった。
どごーーーん。
森の一部から激しい爆発音が聞こえる。
「やってるんよ。」
「早く行こう。」
「おっし、リーダーを助けにいくぜ。」
シルファはランプをもって音のする方に走り出す。
他の二人もその後に続く。
爆音はなおも、森に響き渡り続けるのであった。
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