第9話 裏方の戦い

ウォーーーーーン


 山に響くウルフの声を聞いたのは、ハント組だけではなかった。

 当然ながら、村にもその声は届く。


「ボスの遠吠え。どうやら戦ってるわね。」


 アリアは、メンバーが戦っているであろう山を見る。

 その声が、いまだ戦いが続いている事を伝える。


ウォーーーーーン

 

 その後に、複数のウルフの声が別の場所から聞こえる。

 その声の意味が分からないアリアではない。


「大変そうね。まぁ皆なら大丈夫でしょ。」


「そうだね。」


 作業をしていたカリネも同意する。

 あの程度で、やられる訳がないと知っているからだ。


「何が起こってるんですか?」


 二人は楽観視しているようだが、事情を知らない村人含め自分は不安になる。

 ハンター達にお願いしている身分としては、何かあると思うと心配になるのは当然だ。

 カリネが作業を止め、軽く背伸びをしながら答える。


「心配は要らないわよ。皆強いし。」


 何の躊躇いもなく答えるカリネ。

 息を吐いて一息つく。


「信頼してるんですね。」 


「当然だよ、長い付き合いだしね。彼らがこの辺の敵にやられるわけないって。」


 ハンターの裏方である以上、何度も危険な場所にメンバーを見送って来た。

 そして、一仕事終えた皆を迎えきたのだ。

 今さら、その信頼が揺らぐわけがない。


「本当に皆さんには、感謝で一杯です。」


「その気持ちだけでも彼は嬉しいはずだよ。帰ってきたらちゃんと伝えて上げて。」


「はい!」


 はっきりと返事をするセシル。

 それに満足したカリネは、片目にゴーグルを再び装着し作業に戻ろうとするも。


「おい、なにか飛んでるぞ。」


 カリネを含め多くの人が空を見る。

 それを、カリネがレンズを調整して見る。

 そこには、何かが横切るように飛んでいた。


「そんな、あり得ない。」


 正体を暴いた彼女が驚愕する。

 何故なら、こんな所には決していないはずの存在だからだ。


「ドラゴン・・・。」


 カリネが、ぽつりとそう呟く。

 それを聞いた村人達に動揺が走る。

 そんな中、アリアは冷静に指示を出す。


「急いで建物へ! 早く!」


 近くにいた村人達は急いで近くの建物に避難する。

 それを見た他の村人達もそれに続く。

 セシルは、カリネに引っ張られながらも竜車に飛び込む。


「ドラゴン。生きているのは始めてみたわ。」


「私もだよ。こっちに来ないと良いけど。」


「あんなのに襲われたら一たまりもない。」


 その存在によって、村中に緊張が走る。

 しかし、こちらの緊張をよそにドラゴンは飛び去る。

 その先は、仲間達が向かった山だ。


「山に行った、まずいよね。」


「ボスの鳴き声に反応した?」


 何かに引かれるように真っ直ぐと飛んでいったのだ。

 その理由に、悩む彼女達。

 セシルは、何事かとアリアに聞く。


「あいつの目的は、皆が戦ってるボスの可能性が高い。さっきの遠吠えに反応したんでしょう。となると、皆と接触するわ。」


「アイテムは対ボス用の分しか渡してない。」


「大変じゃないですか!」


 ドラゴンのような大物の対処なんて全くしていない。

 事の重要性に気づいたセシルは慌て出す。

 それに対し彼女達は落ち着いている。

 

「大丈夫、死なないわよ。」


 山を見上げる二人。

 山の頂上をドラゴンとらしき物体が飛んでいる。

 空を何周か周った後、山を沿うように飛ぶ。


「探してる。」


 そして、急旋回し山から離れる。

 かと思いきや、再び山へとターンし山に生えてる樹木の中へと突っ込み姿を隠す。

 そこは、ボスがいると確認された場所だ。


「作戦のポイントに降りた。」


「やっぱり、狙いはボスね。」


 ハント組とドラゴンが接触したとセシルは認識する。

 しかし、何が起きているかは分からない。

 セシルと村人達は、ドラゴンが姿を消した場所をただ見てるだけしか出来ない。

 すると、激しい音と共に爆発がおこる。


「戦闘に入ったわね。」 


 アリアが言う。

 爆発がおきた場所から煙が昇っている。あれを人間が食らえば人溜まりもないだろう。

 あの爆発にハント組の皆が巻き込まれていないよう祈るセシル。


「助けに行かなくて良いんですか?」


「私達の仕事じゃないわ。参加した所で何も出来ないけどね。」


「状況に合わせて必要なサポートをする、それも立派な助けだよ。」


 と、言い切る二人。

 それぞれに与えられた役目をしっかりこなしてこそ作戦を無事進行させる事が出来るのだ。

 そうすることによって、生まれる信頼もある。

 なので、するべき事は向かう事ではない。

 

「さて私達はあのドラゴンについて調べるわ。カリネ、見たドラゴンの情報を頂戴。」


「大きさからして中型から小型ね。鱗はゴツゴツしてたわ。」


「荒野から来たのかしら、岩に鱗をぶつける事によって鱗が固くなったんだわ。」


「この付近に荒野なんてあったかな。」 


「無いわね。それだけおかしいことが起きてるって事よ。」


 相談しあう二人は竜車に乗り込む。

 アリアは、丸められた紙を引っ張りだし村の地図の上に置く。

 村の地図よりも広い場所を写した地図だ。


「大陸の地図よ。見てちょうだい。」


 村を含め町や広い範囲の山まで写っている。 

 大雑把とは言え大陸のほとんどが記されている。

 アリアは地図に、丸を書いて線を引いていく。

 

「荒野はここね。この村から私達の町を挟んで遠く離れた反対側。結んで鋭角な三角形が出来る場所にあるわ。」


「かなり遠い場所だね。こんな所から何しに来たんだろう。」


「分からない。ただ獲物を探しに来たわけでは無いわね。巣がある地域から出ないもの。」


「つまり、その地域に住むドラゴンから正体を特定しても良いわけだね。」


 頷いたアリアが、取り出した図鑑を開く。

 ページを捲って、あるドラゴンを指差す。

 そこには、先程見たのと同じ姿の写真があった。


「こいつかな。」


「そうそう、こんな感じだった。」


「やっぱり、鱗が丈夫な奴ね。」


「じゃあ、爆発系のアイテムが必要になるね。」


 カリネがアイテム作りに取りかかる。

 素早く作業に移る二人だが、セシルを含む村人達はおいてけぼりだ。

 作業の合間を見計らってセシルは疑問を訪ねる。


「あの。この村の危険は、これからも続くんですか?」


「それは分からないわ。でも、現地で何か起こったのは確かだけどね。」


 今現在の情報では、村の安全を確定する事は無理である。

 そうなると、危険な生物が生息する地域に足を踏み入れる必要性が出てくる。

 

「助けてあげたいけどね、私の一存では決めれないよ。」


「そもそも、私達のランクでは荒野に行く事は出来ないわ。」


「一個足りないんだっけ。それだけ厳しい地方だしね。」


 グレン達の様な善意で動くハンターも、命の危険があがる以上安請けは出来ないのだ。 

 まずハンターランクとは、その地域で活動しても大丈夫な事を示す物であり、調子に乗ったハンターが無茶をして挑めない依頼を受けないようにする為の措置だ。

 その分、依頼料も跳ねあがる。


「場合によっては諦めるしか無いんでしょうか。」


「ランクが高いハンターが勝手に何かしてくれるのを待つしかないわね。」


 とは言うが、動いてくれるかも分からない。

 そんな期待も出来ないことに村を任すのは不安だ。

 どうした物かとセシルが悩んでいると。

 山の方からまた爆音が聞こえる。山から煙が立ち込めている。


「続いてるわね。」

 

「せめて何が起こっているかが分かれば。」


 情報がないのはこの戦いも同じ事。

 何が起こってるか分からない以上何もすることは出来ない。

 山から昇る煙を見ていた時だった。


 ぴーひょろろろ。


 山の方から何かが飛んでくる。

 コガラキの鳥だ。一直線にこちらに来る。

 そして、竜車の柱に止まる。鳥の足には紙がくくりつけられていた。 

 カリネがその紙を取る。


「何々、『皆は無事、しかし救援求む。人手が欲しい。』だって。」


「人手か、厄介になってるようね。」 


「人手なら、村人を何人かつれてきますよ。」


 提案するセシル。

 しかし二人頷かない。


「戦地に村人を送るわけにはいかないわね。」


「そんなっ。」


 今すぐにでもグレン達を達を助けに行きたいセシルは拒否され慌てる。

 ドラゴンが暴れている場所に一般人を送るわけにはいかないだろう。

 しかし、その考えは杞憂に終わる。

 ドラゴンが山から飛び出したのだ。


「退けたのね。よくやったわ。」


「じゃあ、俺達が行っても問題は無いんですよね。」


「そうね、何人か連れてきて。ついでにボスも解体出来れば良いんだけど。」


「ならそのまま降ろしちゃいましょう。村人の皆なら出来ると思います。」


「そうね、そうしてもらうと助かるわ。」


 セシルは村の広場で指揮をしている村長に会いに行く。

 そして、村長とその周りにいる何人かの村人に、ハンター達がドラゴンと戦った件、救援を求めている件、ボスを村まで降ろしたい件を説明する。

 

「なるほど、そんな事になってるとはのぅ。お前達、聞いてたじゃろ人を何人か連れてきてはくれないか?」


「おっし、任せろ。ついでに準備もしておくぞ。」


「頼む。」


 四方に別れた村人達は他の村人達に声をかける。

 声をかけられた村人は倉庫に集まり中から丸太を取り出していく。

 それを確認したセシルは竜車に戻り報告する。


「村長に了承を得ました。」


「動くのが早いね、みんな。」


「よくあることなので、山から物を降ろすのは得意なんですよ。」


 セシルは胸を張って言う。

 そうこうしてる間にも丸太を持った村人達は広場に集まってくる。


「どうやって降ろすつもりなの?」


「現地で台車を作って滑り降ろすんですよ。」


「さすがね。」


 納得をするアリア。

 竜車に村長と何人かの村人が竜車に集まってくる。


「救出隊をお連れしましたぞ。急いだ方が方が良いのでしょう?ボスの件は我々に任せて先に行ってくだされ。」


「感謝します。早速竜車に上がって下さい。」 


 カリネは、セシルや村人達は竜車に上がるのを確認すると階段を引き上げる。

 アリアは竜者の前座に座り小竜に指示を出す。

 走り出した竜車は、あっという間に村を出る。


「速いな。」

 

 竜車に乗った村人達はその速さに驚く。

 その様子を見たセシルは、懐かしいと村人達を見る。

 長い時間乗り続けてきたセシルにとってはこのスピードに慣れたのだ。

 竜車を走らせてすぐの事山の入り口に着いた。

 

「到着、カリネついて行って上げて。」


「分かったよ。」


 カリネは、竜車の階段を降ろし村人達と共に下りる。


「場所は分かるので、先導しますよ。」


 救助隊一同は、セシルの後ろについて山を登っていく。

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