第10話 敗戦処理
ドラゴンの去った山を登っていく。
急ぐ気持ちを押さえられずセシルの足は速くなる。
この山に来るのはよくあるセシルにとって、迷わず進んでいく事は容易だ。
「カリネさん大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、こう見えてハンターの一員だからね。裏方だって鍛えてるんだよ。」
問題ないとばかりに片腕を上げるカリネ。
ここまで結構登ってきたのだが、全く息切れせずにいる。
心配は必要ないようだ。
「それよりも、まだウルフが残ってるかもしれないから警戒してね。まぁ、ないだろうけど。」
「そういう場合は、どうすれば良いんですか?」
「カリネ特製のアイテムがあるから大丈夫だよ。」
カリネは肩にかけた鞄を軽く叩く。
山に昇る際に竜車から持ってきたものだ。
かなりの大きさがある。
そんなものを持って山を昇っているのだから、山登りに慣れているセシルですらすごいと思う。
「もう少しでつくぞ。」
村人の一人が上を指差して言う。
坂を登り広場に出るとカリネが先頭に立つ。
周囲の敵を確認する為だ。
「ちょっと待ってね。」
そう言って、周りを警戒しながら一人広場を駆け抜ける。
しかし、敵はおらず安全なようだ。
岩影に隠れると、救助隊を呼ぶ。
「ウルフの残党を警戒しながら行くよ。」
そのまま、広場を出ると目的地に到着する。
樹が集まってて出来た密集地、しかしその一部が大きく開けている。
ドラゴンの火球によって作られた道だ。
「これは一体。」
「ドラゴンの火球だね。凄い臭い。」
辛うじて残っている樹の残骸は、引きちぎられたかのように上が無い。
火球のせいで焼け飛んだのだ。
その焼け焦げた匂いが辺りに充満している。
「この奥だね。行くよ。」
「はい。。」
あまりの臭いに救助隊は、顔の下を布で覆う。
そうしながらも、カリネを先頭に進んでいく。
あちこち地面が吹き飛んでおり、まともに歩けないほど荒れ果ててしまっている。
その先に、開けた場所が見えて来た。
「あっ、あの広場ですよ。」
「みたいだね。行くよ。」
その広場には、沢山のウルフと巨体な一匹のウルフの死体が倒れている。
村人達はこの場所を知っている。
何度も来ている場所からだ。
「これはひどいな。」
「あぁ。相当暴れたようだな。」
広場を見渡す救護班達。
記憶にある光景との違いに、戦いの激しさを認識するのであった。
「おーい、こっちっす。」
声のする方を見ると、コガラキが手を振っている。
影になってる場所に腰を降ろしている。
その傍らには、ハント組が休んでいるようだ。
コガラキに駆け寄ったカリネが訪ねる。
「派手にやられたねぇ。どんな感じ?」
「火傷がひどいっすね。後は、全身打撲であちこちに痣ができてるっす。」
「じゃあ、火傷をしずめる薬を持ってきて正解か。見せて。」
肩にかけた鞄から薬品が入った瓶を取りだしたカリネ。
早速、ハント組の治療を始める。
コガラキや村人達も瓶を受け取り治療を始める。
「ひどい怪我だねぇ。大丈夫?」
「大丈夫。とは、言えないな。」
強がる元気もないようだ。
息を吸っては咳き込んでいる。
ダメージは大きいだろう。
「こんな事しか出来ないのは歯がゆいっす。」
「そんな事はないさ。実際、こうやって助けを呼んできてくれた。」
自分を責めるコガラキを否定するグレン。
大丈夫だと言わんばかりに、大きく腕を上げてがははと笑う。
心配かけたくないようだが辛そうなのは隠せていない。
「ドラゴンにやられたのは俺達が弱いからだ。その責任をお前達が背負う必要は無い。」
そう励ましてくれるが、ハント組は動くのだけでもつらそうだ。
気丈に振る舞うグレンに胸を痛くしたセシルはグレンに近寄る。
「グレンさん。」
「おっ、セシルか助けに来てくれたんだな。」
「俺達の為にこんな目に遭って、申し訳ないです。」
そう言って、グレンに向かい頭を下げる。
その姿を見たグレンは、痛む腕を上げてセシルの肩を掴む。
「気にするな、俺達が勝手にやったことだ。そんなことより、あれだけ見栄をはってこの様とは。情けないにも程があるな。」
「そんなことないです。皆さんは立派ですよ。」
その言葉を受けたグレンは頷いた。
セシルのお礼を素直に受け入れる。
「そう言ってくれるなら、頑張ったかいがあったってものだ。」
腕を降ろすグレン。
グレンの言葉に、セシルは安心を覚えるのだった。
そんな話をしていると、カリネとコガラキが立ち上がる。
火傷に薬を塗り包帯を巻き終えた所のようだ。
「応急処置完了。ハンターの皆さんの下山を手伝ってください。」
「すまないな。今は素直に受け入れよう。」
「よし、後は任せろ。おい、手伝え!」
村人達がハント組を肩で担いでいく。
山を降りる準備を済ました者から、先ほど通って来た道を歩きだす。
その姿を、コガラキが見送る。
「んじゃ。先に戻るねー。」
「はいっす。ドラゴンが飛んでいった方向を調べておくっすよ。二次被害を計測するのも大事な事っすからね。これが今あっしが出来る必要な事っす。」
「うん、任せたよ。残党に気をつけて。」
「はいっす。」
またドラゴンが来ないとは限らない。
それを見張るのも、必要な仕事なのだ。
そんなコガラキに見送られながら一同が山を降りる。
「あれ? おーい。」
「お、合流出来たか。」
広場に下りた時、丸太を担いだ村人達と遭遇する。
死体を降ろす装置を作る用の板だ。
近くに寄ると、お互いが止まる。
「あんれまぁ、派手にやられたなぁ。」
「全く、恥ずかしいばかりだ。それで、あなたたちは?」
「あんたの仲間の提案でウルフどもを下ろしに来たんだ。」
「そうか、じゃあ後は任せる。」
「おうっ、任せな。」
山を登る村人達をかわしながら山を降りていく。
そのまま山の入り口に降りると、目の前に竜車があるのが見えた。
グレン達の竜車だ。
竜車の側にいる村長が近づいて来る。
「なんとひどい怪我を。村の診察所に話は通してあります。セシル、案内をして上げなさい。」
「はい、分かりました。」
「おーい、こっち。みんなを竜車に。」
アリアの指示でハント組を竜車に乗せる。
そして、地面に引いた布に寝かせていく。
その後に、セシルが乗り込む。
「んじゃあ。上の奴ら、手伝ってくっからよ。」
「あぁ、助かった。」
「気にすんな。助けてくれた礼だかんな。」
ここまで送ってくれた村人達とは別れるようだ。
運ぶのを終えた村人達が降りていく。
すると、アリアが運転席へと座る。
「じゃあ、行くわ。」
竜車を走らせるアリア。
手を振る村人達に見送くられながら村へと戻る。
村に着いた竜車は、そのままセシルの指示で診察所の前へ。
「先生を読んできます。」
竜者を飛び出したセシルが診察所の中へ駆け出す。
その後ろ姿を見送るグレン。
それを確認すると、倒れている他のハント組に呼び掛ける。
「起きてるんだろ。」
「まあね、意識はあるんよ。」
「起きてる。」
「このまま寝てしまいたい所なんだがな。」
ハント組の三人が返事をする。
とはいえ、体を起こす気力もない。
出来るのは竜車の天井を見ているだけだ。
脳を動かすのもしんどいらしく、ただ横に寝転んでいる。
「惨敗だな。」
下を見てぼそりと言うグレン。
一同の反応はない。
「俺達は負けた。」
しかし、そのたった一言で目に生気が戻る。
「どうしたい?」
他のメンバーを見るグレン。
返事はないが、気持ちは通じている。
諦めるつもりは無いようだ。
しかし、カリネが止めにはいる。
「やるの? 酷い怪我だよ?」
「言っても無駄よ。」
アリアは頬杖をつきながら呆れている。
小竜達も、心配そうにぶもーと低く鳴く。
そんな二人の心配をよそに、がははと笑うグレン。
「狩る相手がいる限り止まりはせんさ。それに、ドラゴンがもう来ないとは限らない。復讐にでもこられたらそれこそ村は終わる。」
明日また同じことが起こるかもしれない中、今までと同じ生活に戻れるのだろうか。
今回は無事、誰も犠牲者を出さなかった。
でもその次も同じように犠牲者を出さずにいられる事が出来るのであろうか。
この戦いは、村の未来を守る戦いだ。
グレンの言葉にハント組が続く。
「でも、ここで引いたら村が終わるんよ。」
「俺達しかいねぇんだろ? 俺はリーダーの意見に乗るぜ。」
「やるしかない。」
意見を一致させるハント組。
そんなハント組を呆れた目で見る裏方組。
しかし、その目は失望ではない。
「元気だねぇ、ボコられた後とは思えないよ。」
「全く、心が折れるって事を知らないのかしら。」
「生きてる内は負けてることにはなんねぇよ。それとも、怖いのか?」
そんな裏方組をエリクが煽る。
だけど二人もハンターチームの一員だ。
すでに答えはもう決まっている。
「誰が怖がってるって?」
「私の作る道具に不可能はないっ。良いよ、乗ってあげる。」
「安心しなさい。あんた達をちゃんと導いてあげるわ。」
自信満々に答える二人。
コガラキはいないが彼も同意してくれるだろう。
一同の意見が一致する。
答えは決まった。
「おーい、みんな。準備が出来たよ。」
診療所の中から、セシルと何人かの村人達が出てくる。
村長の指示で待機してくれていたようだ。
「そのまえに、一休みと行きますかねぇ。」
「疲れを取った後は、早速作戦会議だ。」
村人の肩を借りて診療所の中に入るハント組。
裏方組は、それを見届けると作業に移る。
ハント組を最高の舞台に連れていくために。
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