第8話 ドラゴン襲撃。

「作戦完了だ。」


 ボスが息を引き取ったのを確認し無事終わった事を確信する。

 

 その時だった。

 ハンター達の頭上を影が通る。

 緩めきった気を、再び戻す。

 上空に意識を集中し影の主を探す。


「何だ?」


 再び影がハンター達の頭上に現れる。

 影が空をおおった瞬間、グレンはボスの死体から飛び退く。

 その判断は正しく、影はボスの死体に飛びかかっていた。

 判断が遅れていたらグレンも巻き込まれていただろう。

 

「嘘だろ。」


 目の前に現れた存在に一同は驚愕する。

 そこにいたのは、全身が鱗に包まれ大きな翼を羽ばたかせるドラゴン。

 

「何でこんな所に。」


「異常、何て問題じゃすまないねぇ。」


 田舎に住む者達にとってドラゴンは物語で見るだけの存在。それが目の前に現れた事により一同は見いってしまう。

 ドラゴンはボスを睨み付ける。そして、ハンターに顔を向ける。


ぐおおおおぉぉぉぉっ。


 と、これは俺の物だとばかりに咆哮する。

 その声で、一同は現実に引き戻される。


「気を緩めるなよ。」


 グレンがあげた手を合図に皆ゆっくりと下がる

 ハンターを敵と認識したドラゴンは、口から炎を溢れさせる。


「きます!」


「よけろ!」


 ドラゴンが何かしようと気づいたのはハンターの勘によるものだった。

 とっさに横へと飛び込む。


「うおおおおぉぉっ。」


 飛び込む際、赤い何かが横を通りすぎるのを視界が捉える。

 直後、背後から爆音と熱風に襲われる。

 そちらを見ると広場を囲う樹の群れの一部が消えていた。

 視線をドラゴンに戻すと。


「そのまま左右に展開だ。」


 同じ方向に飛んでいたグレンとエリク、シルファとユーリアのチームに別れる。

 一同は、ドラゴンを左右から挟むように移動する。

 別れるハンターを交互に見るドラゴン。


「どうするリーダー。」


「どう仕掛けてくるか分からない以上、うかつには動けん。」

 

 ハンターとドラゴンお互いに牽制しあう。

 先に動いたのはドラゴンだ。

 グレンとエリクに襲いかかる。


「避けろ!」


「分かってらぁ!」


 寸前での回避に成功する。

 その間に、もう片方が攻撃をしかける。

 一見隙だらけだが。


「おっと!」


「危ない。」


 ドラゴンが振り向き様に噛みついてきた。

 なので、一旦引いて攻撃を止める。

 どう動くのかが分からないので様子を見ることしか出来ない。

 

「まいったねぇ、こりゃ。」


「近づけない。」


「といっても、ずっとこうしてる訳にはいかねぇだろ。」


 そうしてる間にも、ドラゴンが噛み砕こうと襲いかかって来る。

 考える暇すら与えてくれないようだ。

 ならば、こちらから仕掛けるだけだ。


「やるしかねぇ! 続け!」 


「合わせる。」


 ドラゴンの顔を滑り込む様に避ける二人。

 そのまま、目の前に来た前足を切りつける。

 しかし、弾かれてしまう。


「ナイフが通らねぇ。」

 

 ナイフで斬り込むが鱗は切れない。

 あまりにも硬い鱗に刃が通らないのだ。

 

「ならば俺が行こう。」


 グレンが大剣をドラゴンに当てるもびくともしない。

 そして、そのまま尻尾に吹き飛ばされる。

 どんな攻撃も、強硬な鱗に歯が立たない。

 

「まいったな。どうすればいいんだ。」


「けちって安い武器を買うからだろ。」


「そんな事言われてもな。攻撃が通らない奴と戦う事になるとは思わないだろ。」


 小さい町にあるような依頼の敵は、安い武器で戦える様な奴しかいない。

 実際の所、わざわざ高い武器を買う必要はないのだ。


「っと、来てるぜ!」


「分かっている!」


 ドラゴンの攻撃が激しくなる。

 その圧倒的な力に、避ける事すら出来ないのだ。

 防戦一方の戦いに勝機を見いだせない。


「このままだとじり貧なんよ。」


「つっても、効かなくてもやるしかねぇだろ。」


 ドラゴンに攻撃を与えるシルファとエリク。

 それでも攻撃が通らない。

 そこに、ユーリアが斬りかかる。

 

「続きます。」


 ドラゴンは、二人の攻撃の対処をしている。

 その隙に、胴体に斬りかかる。

 それにより、ドラゴンはユーリアに標的を替えた。


「させん!」


 ユーリアへの攻撃をグレンが大剣で防ぐ。

 その隙に、標的から外れた二人がもう一度斬りかかる。

 その後も、隙をついては斬るを繰り返すが鱗には傷一つ付くことは無い。


「効かないか。ならば、攻撃を一点に集中だ。」


「なるほど。なら、先手は貰うんよ。」


 グレンの指示に、シルファがドラゴンに突っ込む。

 そのまま、ナイフを構え懐に飛び込んだ。

 それに合わせ、エリクがドラゴンの顔にナイフを投げつけ引き付ける。

 

「今のうちだっ!」


「助かるんよっ!」


 ドラゴンがエリクに噛みつこうと迫る。

 その隙に、シルファが背中に飛び乗り首をナイフで斬る。

 すると、それを振り落とそうとドラゴンが首を振る。


「おっと。そんなに暴れんでも退いてやるんよ。」


 あえて振り落とされたシルファが、ドラゴンの前に降りる。

 注意を引き付ける為だ。

 シルファを噛みつこうとドラゴンが迫るが、横に飛んで避ける。

 その隙に、エリクとユーリアが迫る。


「行くぜ!」


「合わせる。」


 勢い良く飛び乗ると首に向かってナイフを振るう。

 そして、シルファが斬った場所に追撃を加えていく。

 

「その調子だ!」


 それに合わせて、グレンがドラゴンの顔に大剣を叩きつける。

 そのまま、首下に入り込んで一回転し勢いをつける。

 そして、あらわになった首に大剣を叩き込んだ。

 それにより、首から何かが砕ける音がする。


「首の破損確認。巧妙が見えたな。」


「よし、もう一度行くぜっ。」

 

 余裕が出てきたのか、再び駆け出す一同。

 だがドラゴンも、ただやられている訳ではない。

 翼をはばたき宙に浮く。


「飛びやがった!」


「くっ。距離を取れっ!」


 宙にいる相手には、攻撃が届かない。

 それにより、一同が一斉に下がる。

 何をされても避けれるようにする為だ。

 

「今度は何しようってんだ。」


 そんな一同を見下ろすドラゴンの口から炎が溢れる。

 先程見たのと同じ光景だ。


「ブレスだ! 各自回避っ!」


 それが分かれば避けるのは簡単だ。

 先程のように、一同は横に跳んだ。

 それで避けれるはずだった。


 次の瞬間、視界が真っ赤に染まった。


「なっ!」


 激しい爆音が辺りに広がる。

 そして、体が吹き飛び地面を転がる。

 直後、黒い煙が広場を染める。


「ぐあっ!」

 

 意識が最初に捉えたのは全身を駆ける激しい痛み。 

 そして、冷たい地面に熱を帯びた空気。


「くっ、ごほっ。」


 息を吸うと、喉の痛みに咳が出る。

 その痛みの直後、全身の痛みに襲われる。

 体を動かそうとづる度に体全体に響く。


「生きてるか?」


「何とか。」


「無事。だと言いたいんよ。まったく。」


「まさか、あんなかくしだまを持っていたとはな。さすがドラゴンだ。」


「感心してる場合じゃ無いんだけど。」


 爆炎が直撃する直前だった。

 グレンが前に出てみんなを庇ったが無慈悲にもハンター達を吹き飛ばす。

 命があっただけましだろうか。

 しかし、たった一瞬で戦況をひっくり返された。

 着地したドラゴンは、止めをさそうと口から炎を溢れさせる。


「寝てる暇は与えてくれないか。」


「無茶いってくれるねぇ。」


 しかしメンバーは諦めない。

 立ち上がり急接近し先程の爆炎を避ける。要は前に立たなければ良いわけだ。

 

「まだだ、まだ終わらん。」


 グレンは、後ろに回り尻尾を脇で押さえ引っ張る。

 ドラゴンは暴れるがしっかり固定しており尻尾は動かない。

 その隙に三人は、首にナイフを叩き込む。


「このまま鱗を剥がせれば良いんだけどな。」


「やっぱり固いですね。」


「俺達も武器がありゃあねぇ。ま、無い物ねだりしても仕方ないってもんよ。」


 先程の攻撃でダメージを受けた為攻撃に力が入らない。

 尻尾を支えていたグレンだが、とうとう耐えきれずに離してしまう。

 それに合わせて一同も離れる。


「きついな。」


「体に力が入らない。」


「距離を取り回復薬を飲め。タイミングは各自に任せる。」


 グレンはドラゴンに突っ込み誘導する。

 攻撃を大剣で防ぐその隙に他のメンバーはポーチから薬品を取り出し飲む。


「ほら、交替だぜ。」


 シルファは、すぐさま背中に乗り意識を向けさせる。その間に距離を取るグレン。

 他のメンバーも駆け付け標的を分散させる。


「これ以上は持たない。次で決めるぞ。」


 回復薬を飲んだグレンはもう一度大剣を構える。

 その声に答えるように一同は合わせて動く。

 ドラゴンは目の前に現れたシルファを襲おうとするも、尻尾に飛び乗ったユーリアに意識を持っていかれる。その横にエリクが攻撃を入れる。 

 もちろんそれに対処しようとするも、シルファが足を払い体勢を崩す。

 そして、とどめとばかりに攻撃を叩き込みついにドラゴンは倒れる。


「準備は良いぜ。」


 顔を踏みつけたシルファの合図にグレンは大剣を首に叩き込む。

 とうとう、鱗が砕ける。


「よし。」

 

 喜んだのもつかの間、ドラゴンが起き上がる。

 その際、グレンに頭突き。

 大剣で防ぐも、大剣が砕けもろにお腹にくらい吹き飛ぶ。


「しまった!」


 一同も尻尾で吹き飛ばされる。

 

「そりゃあ、鱗が砕けたぐらいじゃ終わんないよねぇ。」


「むしろ、ここからが対等の勝負。」


「対等ねぇ、こっちはもう動けねぇんだけど。」


 ハンター達はピクリとも体を動かせない。

 そんなハンター達に向かって、ドラゴンは突っ込んでくる。

 もう終わりかと思ったその時だった。

 ドラゴンは、ハンター達の横をすり抜け駆け出す。

 

「逃げるきか。」


「待ちやがれっ。」


 グレンが後ろを向いた時には、火球で開いた樹の間を抜け山から飛び出すところだった。

 そして羽ばたき飛んでいく。

 体が動かないメンバーは、その様子を見守るしかなかった。

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