第6話 新たな脅威に向けて
戦うと決まると裏方が動き出す。
戦うハント組を支える。
それが裏方の仕事だからだ。
「私たちも動くね。」
「あっしは、周りを見てくるっす。」
「それなら、山の方角を見てきて。」
「分かったっすよ。」
そう言って散らばると、作業に取りかかる。
戦う準備は任せて良いだろう。
それを確認したグレンは、村長に訪ねる。
「村長、地図はあるか? 情報をまとめたい。」
「えぇ。私の家にあるはずじゃよ。」
「そうか。早速で悪いが取りに行こう。」
そう言うと、村長と共に地図を取りに行く。
一方、竜車ではカリネが作業を始めていた。
そこにセシルが声をかける。
「何か手伝える事ってありますか。」
「無いよ。あってもリーダーが許可しないかもね。ボスは危険だから。まぁ、ハントはプロに任せときなさいな。」
やんわりと断っている風に見えるが、戦力外通告だ。
実際、一同から感じる今までとは違う真面目な空気に入り込めない。
なので、大人しく休む事にする。
「皆動いているのに、自分だけ良いのかな。」
少し離れたところに腰を降ろすセシルは、眠気と戦いながらも慌ただしくなった村を見ている。
村人達が村中から食べ物を集めている。
刻一刻と時間が過ぎていく中、何も出来ずにいる事が気になるようだ。
すると、頬に何かを押し付けられる。
「ちょっ、何?」
「ふふっ、パンだよ。召し上がれ。」
「つっても、時間がたってパサついてるけどな。」
気づけば、二人の幼馴染みが来ていたようだ。
昔からの知り合いだ。
よく、森の中を駆け回った仲だ。
「そんで、何をそんなにしょげてんだ?」
「そんなにしょげてた?」
「そうそう。遠くから見ても分かるぐらいにはね。」
いつの間にか、落ち込んでいたようだ。
セシル本人には自覚が無かった。
しかし、いつも一緒にいた幼馴染みにがお見通しのようだ。
「ううん、大丈夫。疲れただけだよ。それに、村の安全を確認するまで寝れないよ。」
「全く無茶をするよなお前。連絡を聞いたときひっくり返るかと思ったよ。」
「私もよ、本当に無理はしないでね。」
長い間、一緒にいただけあって心配してくれている。
お互いがお互い同じ気持ちで無事を祈り合っていたのだ。
だからこそ、セシルは頑張れたのだ。
「心配ごと。あんだな?」
「ふぅ、お見通しか。実は、こんな所でじっとしていいのかなって。」
「なんだ、そんな事か。この村の為に頑張ったんだろ? なら、休んだぐらいじゃ誰も何も言わねぇよ。」
「そうよ。後は、私たちに任せなさい。」
セシルが頑張った事は、皆が知っている。
そんなセシルが休んだ所で、怒るものは誰もいない。
むしろ、休めと言うだろう。
「じゃあ、私達やることがあるから行くわね。」
セシルは手を振って、そのまま去っていく幼馴染み達を見送る。
すると、村のほうから香ばしくいい匂いがする。
どうやら肉を焼いているようだ。
討伐したウルフを村にあげた物だ。
「肉おまち。取れ立てだぜ!」
「そりゃそうなんよ。」
「倒したてだし。」
「分かってるって。のりだ、のり。」
ハント組が肉を切って手伝っている。
それを見ながらパンをかじるセシル。
すると、グレンと村長が戻ってきた。
「アリア、地図を持って来たぞ。」
「分かったわ。台に広げて。」
竜車から降ろした台に地図を広げるグレン。
そこにアリアが近づく。
そして、早速地図を確かめる。
「山が多いわね。」
「先祖が工芸品を作るにあたって、樹の多いこの場所を選んだそうじゃ。」
元々クレハ村は、工芸品を作る拠点だ。
ならば、樹の多い山の麓を選ぶのは当然の事だろう。
それゆえ、この辺りには山が多いのだ。
しばらく確認していると、コガラキが帰ってくる。
「リーダー。戻ったっすよ。」
「報告してくれ。」
「この先に、奴らの足跡を見つけたっす。山から来てたっすね。」
「なるほどね。」
コガラキの返事にアリアは同意する。
元々、ウルフの生息地は山だ。
普通に考えればそこに潜んでいると考えるべきだろう。
「なるほどのぅ。あの山には平地になってるエリアや洞窟もある。獣どもにはうってつけの場所じゃな。」
「そうか。ならば、調べるのは山に絞った方が良さそうだな。コガラキ、頼む。」
「了解っす。」
コガラキは空へ笛を吹き、辺りを飛んでいた鳥に命令変更の合図を出し山へと駆け出す。
その姿を見届けたアリアとグレンは、作戦の確認に取りかかる。
そしてカリネが、その話を元に道具を確認する。
「はぁ。」
それを見ていたセシルがため息をつく。
準備は順調に進んでいるようだ。
ふと、目の前の畑に視線を移す。
本当なら今頃、冬の野菜を収穫している頃だろう。
しかし、荒らすだけ荒らして放置という無惨な姿がそこにある。
「頑張って植えたのにな。」
育った植物もまた荒れている。
掘り返されかじられた物もある。
頑張って植えた物が、一晩にして駄目になったのだ。
唯一回収した物も、パンに挟んで配られていく。
「この村の飯はうまいな。」
久しぶりに食べる食事に心と腹を満たしていた時、セシルの背後から声がかかる。
グレンだ。会議を中断し休憩に入ったのだろう。
自分と同じくパンをかじっている。
「腹が減っては動けないからな。村人がくれたからありがたく頂戴したよ。」
「…。」「…。」
二人の間を静寂が包む。
「実は、何か手伝えるかって聞いたらいらないって言われたんです。」
「だろうな。俺もそう言う。」
「グレンさん達っていつもこんな経験してるですか?」
「命かけてこそのハンターだしな。まぁ、死んでやるつもりは全くないがな。」
グレンは、はっきりと自信に満ちた口調で断言した。
がははと笑いながらセシルの隣に座りパンをかじる。
二人は村の景色を見ている。
「怖くないんですか?」
「怖いさ。」
「自分なら、足がすくんで何も出来なさそうです。」
それが普通の感情なはずなのだ。
それなのに、どうして戦うことが出きるのだろうか。
グレンは、空いている方の自分の手を見つめる。
「慣れだな。危険が迫ると命の危機よりその瞬間どう動くべきかの判断に頭が回ってしまうんだ。」
「よくわかんないです。」
「世の中、知らなくていい事はたくさんあるさ。」
ハンターだけが知るハンターの世界。
セシルの知らない世界がそこにあるんだろう。
「ハンターって何なんですかね。」
率直な疑問をぶつける。
「この村のように、モンスターの脅威にさらされている人達はたくさんいる。それを救うのがハンターだ。」
そんな会話をしていると、拠点を置いた広場に人影が飛び込んでいる。
探索をするために村を飛び出していたコガラキだ。
目的を発見したのだろうか急いでいる。
「リーダー! 見つけたっす!」
「早いな、さすがだ。」
コガラキは拠点の地図に印を付けていく。
グレンは、残りのパンを口に放り込むとメンバーに合流する。
村長も、協力するべく混ざるため向かう。
全員が揃い机を囲むと、作戦会議が始まった。
「ここから見える入り口に入りしばらく上に行くと樹に囲まれた平地があるっす。その奥に二十の群れとその中にデカぶつがいるっす。」
「群れの数と配置を詳しく頼む。」
「ほう、この場所はいくつかの道の合流点。何処からでも上れますのぅ。」
村長が、ボスの印をつけられた場所に指を指す。
複数の道が合流している場所だ。
しかし、ルートが沢山ある分他の問題も生まれててしまう。
「そうなると、迷いそうだな。」
「そっすね。確認したルートに線も引いとくっす。」
コガラキによって、追加で地図に印を書き足されていく。
それを見たグレンは地図の完成を確認するとうなずく。
満足な情報が集まったようだ。
「では、この地図を頼りに作戦を組み立てていく。じいさん、コガラキ、何かあれば言ってくれ。」
二人は頷く。
こうして会議が再開し、戦いの準備が出来上がっていく。
そうして、作戦が出来上がる。
「以上だ。各自装備を身に付けよ。」
人の大きさ程の剣を背負うグレン。
そして、腰にハンターの必須道具であるアイテムポーチを身につける。
大事な道具を持ち歩く為の物だ。
「連戦になるなんて思わなかったんよ。」
「不安か?らしくねぇ。」
「そんなまさか。まだまだやれちゃうんよ。」
シルファの軽口にエリクが乗っかる。
実際、そう思っている訳ではない。
そこにユーリアも混ざる。
「では腰でも痛めた?」
「あらまぁひどい、好き勝手言ってくれるんよ。」
「ジョーク。」
「ユーリアって、表情変えないからジョークか分からんのよ。」
ボス戦を前に軽口を言い合うハント組。
その口ぶりには余裕が感じられる。
実際に、不安が感じられないのは経験によるものだろうか。
「気楽だねぇ。」
「ふふっ、それが彼らの良いところよ。」
「自分も見習いたいっす。」
裏方組はその様子を眺めている。
呆れ混じりなのもハント組が嘘をついていないと知っているからだ。
雑談を交えながらも着々と準備は進んでいく。
「さて、軽口も良いが準備もしろよ?」
「準備なら完了なんよ。」
「あぁ、いつでも行けるぜ。」
「同じく。」
「そうか。なら、始めよう。」
準備を終えた一同は、山に向かう村の出口に集まる。
全員が顔を引き締め覚悟を決める。
グレンは、何時でも作戦を始められる事を確認すると口を開く
「今回は異例中の異例、だがいつも通りでいい。」
「雑魚は任せな。」
「引き付ける。」
「なるようにしかならないからねぇ。とっとと倒して村の皆を救ってやるんよ。」
それぞれが決意を表明する。
待ったはなし。
いつも通りやるだけだ。
「さぁ、行こう。コガラキ、先導を頼む。」
こうして、とうとう作戦が始まる。
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