第5話 奪還作戦。

 先導するコガラキ、そしてその後をついて行くハント組。


「このまま前進、森を抜けたら即作戦に移る。」


「そしたら、あっしが煙をまくんすよね。」


 コガラキがボウガンを確かめる。

 そうしながらも、木の間をかわしハント組を導く。

 そんな中、視界が明るくなる。

 森を抜けるまでもう少しだ。


「最終確認だ。左を俺とユーリア、右をシルファとエリク。」


「了解。分かれるんよ。」


 コガラキを中心に二手に別れる。

 ゆっくりかつ素早く進んでいく。

 次第に、村の景色も見えてくる。


「いるねぇ、うじゃうじゃと」


「聞いてた通り。」


 聞いてた通りの、ウルフの群れがそこにある。

 そこに向かって体勢を低くし前進するメンバー。

 そのまま、森の端までたどり着く。


「しくんじゃねぇぞ?」


「お互い様だ。」


 軽口を叩いて、お互いを励まし合う。 

 そして、最後の樹を抜ける時に視線を交わす。

 気持ちを合わせる為だ。

 一同のハンターのスイッチが入る。


「行くぞっ!」


 そう言うと同時に、グレンが手を軽く振る。

 すると、一斉に森を飛び出す。

 ウルフの群れは、まだこちらに気づいていない。

 

(コガラキの監視から動きはないようだな。ならば。)

 

 速度を上げるグレン。

 他のハント組も、それに合わせる。

 すると、それを見たコガラキがボウガンを空へ向ける。


(今っす!)


 ウルフに見つかる前にと、引き金を引く。

 ボウガンから飛び出すのは複数の白い球。

 数発打ち出された球は、そのまま畑に落下。

 畑や魔物を、真っ白な視界と薬品のような臭いで埋め尽くしてしまう。

 

(第一目標達成っ!)


 まだ、相手に気づかれてはいない。

 ここまでは順調だ。

 ナイフを抜いたハント組が煙に飛び込む。


(時間はかけられん。)

 

 煙で覆われる前の魔物の情報を頼りに接近し首元にナイフを突き刺していく。

 一方ウルフは、視界が急に白く染まった事に驚いて対処だ出来ずにいる。

 しかも、得意の匂いで探すことも出来ないのだ。

 何も出来ないまま、数を減らすウルフ達。


(四、五、六、よし。)


「六!」「五!」


 ウルフが見えなくなった所で、倒した数を叫ぶグレン。

 ユーリアもまた、同じく数を叫ぶ。

 倒したかどうかを確認するためだ。


(あわせて、十一。直前に確認した数も十一。殲滅完了。)


 自分達の相手は、無事に倒せたようだ。

 ならば、いつまでもいる訳にはいかない。

 そのまま直進して煙を抜ける。


(向こうはどうだ?)


 向こうのチームを見て確認する。

 すると、向こうからも人影が煙から飛び出すのが見えた。

 ほぼ同じタイミングだ。


「「第二目標達成!」」


「各自、正面とっぱっ!」

 

 もう、潜む必要はない。

 離れたメンバーにも声が届くように次の作戦を叫ぶ。

 躊躇いなく群れに突撃する一同。

 襲ってくる獣をかわしながら切っていく。

 

「当たらなければ問題ない。」 


「そもそも、攻撃される前に切ればいいんよ。」


 ウルフを狩りながら奥へと突っ込むユーリアとシルファ。

 そんな二人に左右からウルフが向かう。

 二人を囲むつもりのようだ。

 そんなウルフをエリクが斬る。


「あんまり突っ込むなよっ!」


「ははっ。全く頼りになる奴等だなあっ!」


 がははと笑ったグレンが、襲いかかってきたウルフの首を掴む。

 そして、ナイフで指して絶命させる。

 同じくエリクが、斬りながら村の奥を覗く。


「援護は来ねぇな。」


「まだ気付いてないのだろう。奇襲は成功したと言ってもいいな。」


 そう言って裏拳でウルフを吹き飛ばすグレン。

 それからすぐに、ナイフを突き刺す。

 各々が得意の戦い片でウルフの数を減らしていく。

 そのまま第三の群れも、瞬く間に全滅した。


「第三目標達成! 各自、村に入った獣を各個撃破! 」


 村に突入すると、各家を巡回する個体を発見する。

 もちろん、見かけた瞬間に切り裂いていく。

 獣を狩りながらも家の扉を確認する。


「シルファ、ユーリア。扉はどうだ?」


「問題ないんよ。」


「同じく。」


 もし空いた扉があれば侵入を許した証拠になる。

 しかし、幸いにも空いた扉はないようだ。

 それならば、戦う事に専念出来るというものだ。

 村を駆けるエリクとグレンが、数匹のウルフを挟撃する。


「ボスはいねぇな。」


「そもそもいるのか確定ではないがな。」


 二人でウルフを囲むと、一瞬で詰めて狩る。

 とっさの事で、相手は対処出来ないようだ。

 そのまま別れた二人は、ウルフの捜索を続ける。


「こいつらで終わりなら苦労はしないんだけどねぇ。」


 家の屋根に上がると、高い所から探すシルファ。

 ウルフを見つける度に、飛び降りての強襲を仕掛ける。

 他のウルフにも対応される前に斬りかかる。


「最後まで油断せずに。」


 見つけたウルフを素早く確実に狩るユーリア。

 一匹も逃すものかと、ハント組が村の中を駆ける。

 そのお陰か、村の中のウルフは段々と減っていく。


ぴーひょろろろろ。


 コガラキの鳥の鳴き声だ。

 殲滅完了を表す合図だろう。

 そして、村をウルフの群れから解放した合図でもあった。

 

「作戦完了!」


 メンバーに向かって高らかに宣言するグレン。

 すると探索をやめたメンバー達はゆっくりとナイフを鞘に納める。

 無事、村を取り返す事が出来たのだ。


 そして、裏方組もその鳥の声を聞いた。

 セシルの元にも情報が伝わる。


「作戦完了の合図よ。やったわねみんな。」


 作業をしていた裏方組も鳥の声を聞くと竜車に乗り込む。

 村へと拠点を移すべく竜車を動かす。


「セシル、良かったね。無事終わったよ。」


「はい、皆に会いたいです。」


「早く村の皆に顔を見せないとね。」

 

 村が無事救われたと知ったセシルは、ほっと一息ついた瞬間体が重くなるのを感じる。

 心に余裕が出来たせいで、気が抜けて脱力したからだろう。

 今までの疲れが一気に来たのだ。


「どもっす。」


 森を抜けると、先回りをしていたコガラキと合流する。

 走る竜車に追い付くと、飛び込む様に入ってきた。

 手に持っていたボウガンを壁に立て掛けて入り口に座る。

 

「良かったっすねぇ、みんなと会えるっすよ。」


「はい。でも、安心したら気が抜けちゃいました。」


「ずっと、気を張り詰めてたっすもんね。仕方ないっす。」


 疲れが一気にきたせいもあって眠気もくる。

 嬉しさよりも、安心が勝ったのだろう。

 しかし、もうすぐで村のみんなに合えるのだ。

 情けない姿は見せられない。


「彼がやったことを考えればね。それに、まだ終わりじゃないわ。向こうについたら早速検分よ。」

 

 畑を抜けると、見慣れた村が見えてくる。

 そして、その中央に人が集まっている。

 この村の人達だろうか。


「村の皆だ!」


「どうやら無事のようっすね。」


「はい!」


 見知った人達の無事を見て喜ぶセシル。

 無事に乗り越える事が出来たようだ。

 眠気を取るために、ほっぺを軽く叩いて意識を覚ます。


「おーい!」


 グレンが話を通してくれていたのだろうか。

 竜車に向かって手を振ってきた。

 皆の下に竜車が到着すると、セシルが飛び出した。

 駆け寄るセシルを、二人の男女が迎える。


「父さん、母さん。無事で良かった。」


「それはこっちの台詞だ。」


「本当に心配したんだから。」


 どうやら、セシルの両親のようだ。

 セシルの頭をくしゃっと撫でる。

 すると、そこに他の村人が寄ってくる。


「セシル。大丈夫か?」


「よくやったな。お前。」


 セシルと仲がいいのだろうか。

 親しく話し合っている。

 そうして、村人達との再会を喜び合うセシルであった。


「嬉しそうだな、セシル。」


 そんな様子を、グレン達が微笑みながら見守っていた。

 折角の再開を邪魔をする必要はない。

 遠くから見守るだけにとどめる。


「依頼は無事完了だな。」


「犠牲者がいなくて良かった。」


「まぁね、最悪の結果を避けれたのは良かったんよ。」


 犠牲者は出なかった。

 それにより、ハンター達も安心して村の無事を祝えるというものだ。

 そんなハンター達に一人の老人が近づく。


「皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。」


「村長、お礼ならさっきも聞いた。それに、まだ終わりじゃない。」


「終わりじゃないとは?」 


 聞き返すのも当然だろう。

 しかしグレンは、返事の代わりにアリアを見る。

 視線の先で、馬小屋を見ている。


「リーダー。こっちに来て。」


 呼ばれたグレンは、真剣な眼差しに変わる。

 呼んだという事は、何か見つけたという事だ。

 グレンがアリアの所に向かう。


「何があった?」


「残念ながら悪い知らせよ。」


「・・・。報告を。」


「中を見て。」


 アリアに促され中を見るグレン。

 そこでは、全ての家畜が横たわっていた。

 ウルフにやられたのだろう。


「悪い予感が的中ね。予想通りいるわ。ボス。」


「ボス? まさか、群れの長がいるんですかい?」


 それを聞いた村長が驚く。

 それほど珍しい事なのだ。

 アリアが説明をする。


「確実にいるわね。殺されないで放置されているのがいる。間違いなく後で来るボスへの献上品よ。」


 死んでから時間がたてば、せっかく取った獲物は食べられない。

 そうならないよう、殺さずに新鮮さを保っていたのだ。

 一難去ってまた一難、せっかく助かったと思いきやまた新たな脅威が村を襲う。


「そんなっ! 我々は一体どうすればいいんでしょうか。ボスの討伐を頼むお金はありませぬ。」


 ボス級の討伐ともなると依頼量は跳ね上がる。

 ただの田舎村に、そんなお金があるはずもない。

 これ以上の依頼はタダ働きになるだろう。

 命の危険の代わりにお金という対価をもらうのがハンター。

 ただの慈善事業なんかではない。

 しかし、彼らは違うのだ。


「頭を上げてくれ。ボスの討伐、受けるつもりだ。我々もせっかく取り戻した平穏に水を指される事は気にくわない。」


 グレンは村長の肩に手を置く。

 他のメンバーからの異論はない。

 彼がそう言う事は分かっていだろうし、メンバーも同じ気持ちなのだ。


「ボスの討伐は慣れている。任せてくれ。」


 そう言って、村長を励ますグレン。

 しかし、言っている事は嘘じゃない。

 自信あるとばかりに、自らの胸を叩く。

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