第4話 裏方のお仕事

 竜車は森の横を添うように作られた道に入る。


「もうそろそろか、竜車の速度を緩め鳥を飛ばす。コガラキ。」


「了解っす。」


 待っていましたとばかりに胸元から笛を取り出し鳴らす。

 鳥の鳴き声の様な音が笛からなる。

 笛の音を聴いた鳥は竜車から飛び出した。

 森に入る以上、村の状況を知ることは困難になるので上空から調べる必要があるのだ。


「村を確認したら鳴き声で知らせてくれるっす。」


「セシル、目視でも確認してくれるか?」


「はい。分かりました。」

 

 セシルは言われた通り竜車の前に乗り出す。


(そろそろ台車を運ぶのに通る道。離れた場所から木を運ぶのに役に立ってたな。)


 見馴れた景色がある場所を竜車が走っている事をグレンに知らせる。

 森で作業する時に見る場所なので疑う必要はない。

 つまり、村までもう少しだと言うことを示している。


「地図に書かれた範囲に入ったか。アリア、計画道りに森の中の道に進路をかえろ。」


「了解。」


 道の先に現れた分かれ道、村の先祖達が切り倒した木を乗せる台車を運ぶために作られたと言われる道。ただそれだけの道が今回村を助けるために使われるのだ。

 胸の内でそっと先祖に感謝する。


 ぴーひょろろろろ。


 空からコガラキの鳥の声が聞こえる。無事に村を見つけることが出来たようだ。

 この鳴き声は、獣に襲われている時に聞いた声だ。

 狙われていた訳では無かったんだなとセシルは認識を改める。


「ヒット! 方角竜車のちょうど真横、距離五百メートル。予定どうり、村の周囲を走れてるっす。」


「よし、そのまま速度を落とせ。」

 

 グレンの指示で竜車の速度が段々遅くなる。

 整備された道を少し走った先に少し開けた場所に出る。

 切り倒した木をまとめる作業場だ。


「竜車停止。カリネ、拠点の準備。コガラキ、偵察を頼む。」


「「了解!」」


 竜車の階段が降ろされ各々作業に取りかかる。

 コガラキは村の方へと向かう。鳥が飛んでいるのを確認し手に持った笛を吹き合図を送る。

 笛の音は、鳥の鳴き声を再現したものな為、人がいることを認識することはないだろう。

 鳥に指示を出した後、木を登り双眼鏡を覗きこむ。


(わんさかいるっすね。後から合流した感じっすかね。リーダーの言う通り陣が出来あがってるっす。)


 そう言ってウルフの配置を覚えていく。

 ウルフはいくかの固まりに別れていて村を見張っている。

 単独行動している個体は見当たらない。


(別々に固まりができてるっすね。違う群れのはずっすけど、やけに統率されてるっす。)


 ウルフの群れの固まりは三つに別れており、手前の村の畑に二つ村の中近くに一つとなっている。

 何処から襲われても対処できるように上手く配置されている。

 どうやら、思ったよりも賢く行動しているようだ。


 ぴーひょろろろろ。


 鳥の鳴き声がコガラキに届く。

 鳥はコガラキの指示で村の中を敵の探索をしていた。

 ウルフがいれば鳴いて合図をするようにしてある。


(村の中にも入り込んでいるっすね。村人が無事ならいいっすけど。)


 もう一度笛で合図を送る。

 今度は、村の安全確認をするよう伝える。

 するとすぐに返事が来た。

 

(皆、無事っすか。早くセシルに知らせたいっすね。)


 コガラキは双眼鏡を覗くとウルフは警戒をしていた。

 何度も周辺で鳴く鳥が気になってるのだろう。

 思ったより警戒心は高いようだ。


(これ以上は危険っすね。戻るっす。)


 コガラキは、最後に鳥に笛で合図を出し拠点に戻る。

 拠点では、アリアとユーリアが小竜に水をあげここまで走ってきた小竜をいたわっている。

 セシルも水を運んで手伝いをし、ぶもーーーと感謝されている。

 小竜は知能が高く人の言葉が解るようしつけられている。


「ただいま戻ったっす。」


 鳥と共に村を監視に向かっていたコガラキは、戻ってそうそう台座の上に置かれたセシル特性の地図に印をつけていた。

 村の現状が地図の上に現れていく。

 グレンはその地図を見て確認する。


「やけに多いな。」


「群れを切り離した方がいいっすね。」


「どう切り離すかだが。」


 話を進めているとアリアが竜車に上がり込む。

 その際、ゴーグルから眼鏡に掛けかえる。

 そして、コガラキが書き込んでいる地図を見ると作戦会議に混ざる。

 

「コガラキ、群れごとの配置まで分かる?」


 コガラキは、確認したウルフを出来るだけ伝えていく。

 アリアとコガラキは、情報を共有していく。

 先程から話を聞いていたセシルは話が止まるのを確認すると村の様子をコガラキに尋ねる。


「コガラキさん。村のみんなは?」


 コガラキの邪魔になるかもとしれないと思ったものの、どうしても知りたかったから聞いてみたのだがコガラキはあっさりと答えてくれる。


「少なくとも人の死体はなかったすね。大丈夫っす。みんな無事っすよ。」


 グレンはがははと笑い、安堵する俺の肩を掴む。


「よかったなぁ、うん! 」


 もしかしたら俺よりも喜んでるかもしれない。

 というよりは、セシルが安堵したことに喜んでるのだろう。

 竜車でずっとセシルの心配をしていたのだ。

 

「まずはひと安心ね。良かったね。」

 

 傍らで、大きなナイフを機械で研いでいるカリネも同意する。

 カリネは、レンズのついたゴーグルでナイフの刃先を見た後、革製の鞘に納める。

 その後、ポーチを並べてアイテムを補充していく。

 

「準備できたよ。」


 その合図で、ハント組はナイフやポーチを装着していく。

 腰にはアイテムが入ったポーチをつけ、その上から腕と同じ長さ位のナイフをつける。

 装備の装着を済ませると地図の周りに集まる。


「アリア、説明を頼む。」


「分かったわ。」


「まずは、畑にいるグループを煙玉で隔離し、二手に別れその中のウルフを襲う。殲滅を確認したら、煙の外に出て合流し三つ目の群れを潰す。」


 アリアは地図に指を指して敵の位置を説明する。

 さらに、進むルートにペンで矢印を書き加えていく。

 最後に、煙玉が落ちる場所も記す事によって一通りの流れが決まった。


「煙は、あっしの出番っすね。」


 コガラキは、手に持った小さなボウガンを軽く叩く。

 ボウガンは、矢の代わりに玉を設置して打つようになっている。


「タイミングを合わせるのが大事だな。」


 今回の肝は、二つに別れたチームが同じタイミングで煙を出ること。

 そうすれば、残りの群れを左右から挟めるのだ。

 タイミングを誤る訳にはいかないが、ハント組は全く心配をしていない。


「いつもどうりでいいっしょ。で、どう分けるん?」


「指令の俺にユーリア、副指令のシルヴァにエリクをつけ、力バランスを取る。」


「後は村にいるウルフ達ね。」


「三つ目を潰した後、遊撃に向かう。」


「「「了解。」」」


 村に入り込んだウルフに作戦は必要ないだろう。

 グレンの意見にハント組が各々返事をする。

 その様子を見たグレンは頷く。


「作戦は以上だ。」


 作戦は決まり、後は実行に移るのみ。

 ハント組は竜者を降り配置につく。セシルはそれを緊張の面持ちで見ている。

 そばに降りたアリアが、大丈夫だと伝えるため彼の肩に手をおく。


「とうとうね。まだ心配?」


「いいえ、もう大丈夫ですよ。皆さんを信じます。」


 セシルの心からの言葉だ。

 少しの付き合いでハンター達の実力は分からない。

 だけど、それでもやってくれるだろうと信じている。

 

「セシル、彼は村を守るために、死に物狂いで我々をここに連れてきた。次は、我々が村を守る番だ。さぁ、結果をもって彼の頑張りに答えよう。」


 その言葉に、みんなそれぞれがうなずく。

 そして、目配せの合図を受けたコガラキが村への道を歩みだす。

 ハンター組もその後をついて行く。


「作戦開始だ。」

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