第2話 ギルドハウス

「痛っ。」


 意識を失っていたセシルは唐突な痛みに目を覚ます。

 上体を起こそうと床に手をつくと柔らかい感触が手のひらに伝わる。


「ここは?」


 周りを見渡すと、目の前に机がありその周りを囲うようにソファが置かれてある。

 自分はどうやら、側にあるソファの上で寝ていたようでそこから落っこちたようだ。


「ここは町のギルドハウスだよ。」


 声のする方を見ると白い服に身を包んだ男性がいた。

 セシルが寝ていたソファと向き合う様に置かれたソファに座っていた男性はセシルを見る。


「すまないね、落ちるのに気付かなかったよ。」


 何かを読んでいたらしく手に取っていた物を机の上に置くと立ち上がった。


「そうだ、今時間は。」


「朝だよ。君が運ばれてから二時間位たったかな。」


 その言葉に、セシルは顔を青ざめる。

 何せ急いでる身なので、時間が立っていることに焦っているのだ。

 立ち上がろうとするも、痛みに襲われ体を動かせない。


「無理をしてはいけないよ。」


「すみません。でも急いでるんです。」


「分かっているとも。」


 そう言うと、男性が少し待ってろと部屋を出る。

 その間に、セシルは倒れる前の出来事を思い出す。

 自分が死にそうになった事、そして誰かが助けてくれた事。

 そのおかげで、セシルは助かったのだ。

 ソファにもたれかけ体を休めていると、先程の男性が部屋に戻ってくる。


「お前さんがクレハ村の使いだな。俺は、このギルドハウスを取り仕切る者だ。ここでは、ギルドマスターと呼ばれている。よろしくな。」


 向かい合うソファに座った男性は、とある資料を取り出してから見る。

 それは、グシャグシャにしわの付いた一枚の紙。

 セシルが、昨日村から持ってきていた物だ。

 セシルも体を無理に起こして、男性と向き合う。


「これは君が持っていた依頼書だ。勝手に読ませて貰ったよ。それで、もし書いてある通りで間違いないなら事は急を要する事になる。そうだな?」


「は、はい。」


「それにしても、時期外れのウルフか。厄介な事になったもんだ。」


 ギルドでも、手に追えないような代物のようだ。

 男性は頭をかきながら、依頼書とは別の書類をセシルに差し出す。

 その書類には、契約書とかかれている。


「問題なかったらサインしてくれ。」


「あの、依頼を受けてくれるんですよね?」


「大丈夫だ。そのための書類だよ。」


 書類を見ると、緊急と書かれた判子が押してある。

 セシルが寝ている間にも、準備はしてあったようだ。

 早速、自身の名前を資料に記す。


「書けましたよ。」


「よし。これで契約は完了だな。」


 ギルドマスターがその資料を確認する。

 その直後、部屋の扉が勢いよく開かれる。

 その扉からは、体格ががっしりとした肉体の男が現れた。


「目を覚ましたか少年。体調も良さそうだな。」


「グレン、準備は出来たか?」


「当然だ。ちょうど依頼書を受け取りに来たところだ。」


「丁度、名前を書いて貰った所だ。ほれ。」


 ギルドマスターは、セシルがサインした紙をグレンと呼ぶ男に渡す。

 グレンは、その契約書を受け取るとさっと内容を確かめる。

 契約の内容を確認しているようだ。

 ひとしきり見ると、満足そうに頷いた。


「緊急の依頼だな、確かに了承した。」


 書類から目を離したグレンは机のペンを取る。

 そして、契約書に名前を書くとギルドマスターに渡す。

 それから、しゃがんでセシルに目線を合わせる。


「君が村から来た人か。安心してくれ、俺達が依頼を受ける。」


 そう言って、グレンがセシルの肩を掴む。

 どうやら、この人が依頼を受けてくれるようだ。


「よろしくお願いします。」


 セシルがグレンに頭を下げる。

 グレンは、がははと笑い立ち上がる。

 すると、セシルがこの声に聞き覚えがある事に気付く。


「もしかして、昨日助けてくれた方ですか?」


「そうだ、運が良かったな君。我々が通りがからないと死んでいたぞ。」


 予想通り、セシルを助けた人物のようだ。

 そうでなければ、今頃は獣の腹の中だ。

 ついでに、町まで運んでくれたらしい。

 

「ありがとうございます。助けてくれた上に、ここまでつれてきてくれるなんて。」


「うむ。身元を調べようと手に持っていた物を調べたら、目的地が一緒のようだったからな。おかげで事情もある程度知っている。詳しい事はまだだがな。」


「あの。村が襲われてて、急いで村に戻りたいんです。」


「大丈夫だ、すぐにつれてってやる。しかし今は情報だ。村が心配なんだろう? なら今は何が起きているのかを知るのが先決だ。情報があればあるほど優位に依頼をこなせる。」


「わ、分かりました。」


 俺は村で何が起きたか、村を離れる際の光景を知る限り伝える。

 群れが現れ、家畜を襲っていること。

 村人達は、建物に立て籠っている事。

 その危険を伝えるべく一人村を飛び出した事。


「以上が俺の知っている情報です。とはいっても、半日前の事なのでどうなってるかは分かりませんが。」


「村の近くに、村を見渡せる高台があるか?」


「いいえ、森があるだけです。山もありますが、獣が巣くってるはずです。」


 そうセシルが言うと、鎧の男は腕を組み黙ってしまう。

 情報から、作戦を考えているのだろうか。

 しばらくしてからセシルを見る。


「クレハ村と言えば、木を加工する商品が有名だな。森には木を取りに行くための道があるはずだよな?」


「はい、そうです。でないと、樹を運べませんから。」


「ならば、森に拠点を置くべきだろうな。森から村の距離は?」


「大体五百ぐらいです。」


 鎧の男の問いに、セシルは答えていく。

 その度に、グレンが黙って考える。

 その時、扉から一人の男が入ってくる。


「リーダー、竜車持ってきたぜ。」


 どうやら、グレンの仲間のようだ。

 扉から入ってきた男の声に、グレンは顔を上げる。

 

「後の話は竜車で聞こう。本当は危険な場所につれていきたくはないんだが、今はもっと情報がほしい。それに、君も早く村の様子を知りたいだろう。」


 もちろん、早く仲間の無事を知りたいのは当然の事だ。

 迷惑になるかもしれないが、セシルはどうしても行きたい。

 すると、グレンが手を差し出す。


「そう言えば名前がまだだったな。俺の名前はグレンフォート。グレンと読んでくれ。」


「じ、自分の名前はセシルです。」


 セシルが立ち上がると、グレンの手を握り握手をする。

 お互い自己紹介した済ませたグレンとセシルは、先程の男と共にギルドハウスから出る。

 扉を開け外に踏み出すと、路地に何か大きな物が停まっていた。


(竜車だ。)


 ギルドハウスの玄関前の広場を囲う道路にそれがあった。

 四足歩行の子竜が二体とその子竜に繋がれた乗り物だ。

 確か四足歩行の子竜は、草食で穏便の上人になつくため飼われる事がある。

 その為、スタミナも速度もすごいため遠くを移動する商人が好んで使う。

 という話を以前付き添いに来た時に、村長が高いテンションで話していた。

 その後に、卵は高額で取引きされており村では手に入らないと寂しそうにしていたのも覚えている。

 

「こっちだ。」


 グレンと男は、竜車と呼ばれるものに後ろから近づく。

 そして、そこにある階段から竜車に入り込む。

 すると、グレンがセシルに向かって手を伸ばす。


「さ、セシルも登ってくれ。」

 

 言われた通り、グレンの手を掴んで上がり込む。

 竜者の中は、すごい設備や装備やアイテムらしき物が入った籠がある。

 そして、装備をまとった人達や作業着を着た人達。


「これで全員だね? 階段を上げるよ。」


「頼む。」


 入り口にいた作業着の女性が、グレンに確認。

 そして、階段を引き上げ竜車に収納する。

 

「緊急クエストだ。目的地はクレハ村。クエスト内容は向かう途中に言う。各自報告を。」


 竜車の奥に立ったグレンが、メンバーに合図を出す。


「アイテムの補給完了。」


「サポートエンジンの燃料満タン。」


「ハント組も、準備完璧だぜ。」


 竜車に乗る人達から声が上がる。

 すると、グレンが指示席の女性に声をかける


「時間が無い、さっそく出発だ。」


「了解。出すわね。」


 タイヤに備え付けてある機械から音が出る。

 そして、竜車の指示席の女性が小竜に合図を送る。

 その合図により、竜車が動き出す。


(みんな、無事でいてくれ。)


 とうとう村に戻れる。

 一時はどうなることかと思ったセシルだが、無事役目をこなすことが出来た。

 助けてくれるハンターも見つかったので、後は村に行って皆を助けるだけ。

 必ず助けるという決意を胸に、拳を強く握る。

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