ハンターチームの裏方仕事

鍋敷

村編

第1話 始まりの襲撃


 何もないただの道を走っていた。

 人の手によって整地された道に所どころ看板がたってあるだけでそれ以外に何もない。

 辺りは真っ暗で月の光でほんのわずかなものが認識出来るぐらいだ。太陽の光は、かなり前に沈むところを確認して以来見てない。あれから、かなりの時間がたっただろう。

 そんな夜をただひたすら走り続けている。



 ことの発端は、農作業に汗を終えて一段落つこうとした時だった。


「魔物だっ。」


 村の端で作業していた仕事仲間が声を上げる。

 その声に自分もふくめた周りの村人がそちらに目を向ける。

 そこには、複数の四足歩行の獣が村で飼っていた家畜にかぶりつく姿があった。

 村人達は、慌てて近くの建物に逃げ込む。


 自分の逃げ込んだ建物には、たまたま農作業の様子を見に来ていた村長も逃げ込んでいた。


「なぜこの時期に奴がいるんだ。」 


 毎年この時期になると、村へと降りてくる魔物をハンターに頼んで狩ってもらう。

 しかし、それはもう少しあとのこと。

 まさに、最近ギルドに出す書類を作っていた所だった。


「獣が増えてるぞ。」


「仲間を呼んだんだろう。村の家畜を食い荒らすつもりだ。」


「しかしどうする、ギルドの依頼はまだしていない。やつらが食い尽くすまで籠城するしかないぞ。」 


 解決策を出さないといけない現状、話は進まない。


「奴等増えてるぞっ。」


 小窓から覗いて見張っていた村人が言った。

 群れで来ているのだろうか家畜に群がり囲ってしまう。時々家畜の悲鳴が聞こえる。

 このままだと、いずれ村にも入り込まれる。


「俺が行く。」


 いきなりの発言に周りの視線が声の主に集まる。


「セシル、正気なのか?どうやってこの獣の群れを抜けるきだ?」


「まだ裏手にはいない、そこから村の外に抜けるつもりだ。今、ギルドがある町まで走れるのは足の速い俺だけ。そうするしか他に方法はない。」


 悩む村長。しばらくして決断をする。


「分かった、村を救ってくれ。」


 そう言って取り出した依頼書に事情を書き込んで完成させる。

 そして、その依頼書を受け取ったセシルは監視の合図で家を飛び出す。

 まだここまでは来ていないようだ。

 見つかってはいけないのですぐさま家の裏に隠れ村の外に向かう。


「待っててくれ皆。」


 獣が来ないことを確認しつつ町へと駆け出した。 


 そうして、セシルと言う少年は依頼書を片手に町へと向かう事になった。

 以前町に行ったときは、馬が引く乗り物に乗って行ったが今は走っている。獣にきずかれず取りに行く事は出来ないだろうしそもそも奴らに食われてるだろう。

 周辺はもう暗い、もうどれぐらい走ったか分からなくなった。

 暗闇の中、ただ目の前にある整頓された道を頼りにただ走る。

 息が荒くなる。セシルは近くの森に入って休憩する。

 喉が乾き、水が欲しくなる。

 しかし、村からは何も持ってきていない。

 すると、その先に川を見つけた。


(休もう。もう、限界だ。)


 体が重く足がおぼつかない。

 疲労はピークに来ている。

 これ以上走るのは、体力的に厳しいだろう。

 川に近づくと、頭を突っ込んだ。


(うまい。助かった。)


 頭を突っ込んだまま、川の水を飲んでいく。

 久し振りの水が喉を潤す。

 少しだが、体の疲れも取れたように感じる。

 癒されるか体に満足すると、顔から頭を上げる。


(よし、充分だ。行こう。)


 村にいる皆の事を考えると、じっとしてる訳にはいかない。

 セシルは、もう一度走り出す。

 その足取りは、先程よりも軽やかだ。

 しかし、それは一時の間だけだった。


(暑い。さっき飲んだばかりなのに。)


 喉はまだ大丈夫だ。

 しかし、ただ暑い。

 浴びた水も汗に変わっていく。


(まだなのか?)


 まだまだ町は先にある。

 これしきの事で届く距離ではない。


(まずい、目眩が。) 


 ついに疲労がピークに達したか。

 それでもしっかり踏ん張って走り続ける。

 しかし、長くは持たない。

 その場にこけて倒れこむ。

 立ち上がろうとするも力が入りにくい。


(風が冷たい。) 


 火照った体に冷たい風が染み渡る。

 セシルは、しばらくこのままでいた。

 そのまま、意識が途切れそうになるが。


ぐるるるる。


 肉食の獣が唸る声だ。

 それもそうだ、何も自分の村にだけ危険な獣がいるわけではない。

 セシルは、ばれないうちに急いで体を引きずるように森に戻る。


(匂いも隠さなくちゃ。)


 出来るだけの土をかき集め体に擦り付ける。

 意味は無いかもしれないが無いよりはましだろう。

 息を潜めそっと聞き耳を立てる。


(どこにいるんだ。)


 複数の足音が聞こえる。

 こちらには気づいていないようなのでばれてはいないようだが時間の問題だ。

 奴等は鼻が利くので近づかれれば匂いの誤魔化しも役に立たないのだ。 


(足音が大きくなってる。)


 ゆっくりとこちらに来ているようだ。

 じっくりとじわじわと足音が近くに来る度に、頭が真っ白になる。

 どれぐらいたっただろうか、早くいなくなってくれとセシルは願うがこの辺りをうろついているようだ。


(そろそろまずいか。) 


 セシルは、焦って立ち上がる。

 少しは、動けるようになっていた。

 樹の影から、樹の影へとゆっくりと移動し続ける。

 なるべく遠くに行かなくては、いずれやつらの鼻に見つかってしまうだろう。


(何かないか?)


 何かで気を逸らせないだろうか。

 そう思い、辺りを見渡す。

 すると、樹の上に眠っている鳥が見えた。


(いいところに。)


 セシルは、近くの石を掴んで放り投げる。

 その石は、放物線を描き鳥の近くに直撃する。

 当てることは出来なかった。

 しかし、鳥を起こすのは充分だった。


くえーーーーーっ。


 鳥が飛び起きて鳴き声を発する。

 すると、獣達がそちらへと集まっていく。

 獲物の声が聞こえればそうなるだろう。


(ごめんっ。)


 どうやら、獣の気は鳥に向かったようだ。

 セシルは、心の中で謝りつつも走り出す。

 最初は、音を立てないように。

 ある程度離れると、少ない気力を振り絞り全力で走り出す。 


(ここでやられるわけには行かないんだ。)


 自分がやられると、村の皆もやられてしまう。

 その気持ちが、セシルを突き動かす。

 しばらく走り続けると、立ち止まり座り込む。



(そろそろ撒けたか。この辺で、少し休もう。)


 セシル体は限界だ。

 目がかすみ頭も全く働かない。

 しかし、もう大丈夫だろうと油断しきった時だった。


 がうっ。ぐるるるる。


 目の前にいた獣がこちらに唸っている。

 後をつけられたのか、別の所にいたやつに見つかったのか。

 いや、今はそれ所ではない。

 セシルは急いで逃げようとするも前にこけてしまう。

 すると、獣はセシルの靴に噛みつく。


「離せっ!」


 恐怖のあまりに混乱してしまい、もう片方の足で何度も蹴りつけるが効果は無い。

 しばらくそうやりあっていると、靴が脱げてセシルは解放される。

 とっさに地面の土を掴むと獣に投げつけ逃げ出した。


 うぉおおおおおん。


 当たり前だが仲間を呼んだのだろう。

 しかし、何匹来ようがセシルには逃げるという選択以外はない。

 足音が迫ってくる。


「まずいっ!」


 セシルは、たくさんの樹と樹の間をジグザグに移動しながら逃げていく。

 しかし、命がけで走るセシルだが無慈悲にも迫る足音が増えていく。

 完全に、こちらを狙っている。


 ぴーひょろろろ。


 どうやら鳥も自分の命を狙っているようだ。

 でも死ぬわけには行かない。

 セシルは、とにかくがむしゃらに走り続けるが不幸はさらに続く。

 森の端についてしまったのだ。


(終わった。)


 森を抜ければ邪魔をしてくれる物は何もない。

 追い付かれて後は無慈悲にも食い殺されるだけだ。

 ドスンドスンと足音も聞こえるがそちらを意識する気力もない。

 死を覚悟したセシルは森から飛び出すと倒れてしまう。


「皆、ごめん。」


 全てを諦め動かなくなったセシルを襲うべく獣が森から抜ける。

 その瞬間。


「ナイスタイミング!」


 ズドンといういう音が聞こえたかと思いきや風を切るような音が獣を襲う。

 何かが直撃した獣は横に吹き飛ぶ。


「続けて来るよ!」


 セシルに追い付いて森を出た獣達も同様に吹き飛ぶ。


「弾が間に合わないっ!」


「なら拳をくれてやろう!」


 最後の一匹が森から飛び出ると、迫ってきた大きな影に吹き飛ばされてしまう。

 その一撃で、原型が無くなるほど顔をひしゃげながら樹に体を叩きつけられる。


「大丈夫か?」


 その大きな影が倒れているセシルに声をかけるが反応はない。

 セシルはそのまま気を失ってしまうのだった。

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