第二章 1 幽鬼
その日の夜、廟で寝ている雲秀の耳に、楽しそうな笑い声と太鼓や笛の音が聞こえてくる。
誰が浮かれ騒いでいるんだと、雲秀はくるまっていた上掛けを頭の上まで引っ張り上げる。祭りでもやっているのだろうか。せめてもう少し静かにしてくれと寝ぼけた頭でぼんやりと考えてから、急に目が冴えて飛び起きる。いったい誰かと言いかけた時、口を手で塞がれた。暗がりの中で、静かにしろと言うかわりに玉蘭が自分の唇に人差し指を当てていた。
扉に目をやると、フラフラと危なっかしい足取りで悠月が外に出て行くところだった。
雲秀は玉蘭と顔を見合わせ、急いで後を追いかけた。廟の外に出ると、思わず息を呑む。この村は無人のはずなのに、提灯を下げた人々が続々と廟の前を歩いて行く。太鼓や笛を奏でる人の姿もあった。まるで、みな祭りに出かけていくように笑っている。何を話しているのか、その声はボソボソとしていてはっきりとは聞こえなかった。
悠月も老人に手を引かれながら、どこかへと歩いて行く。
「悠月……っ!」
足を踏み出そうとした雲秀の腕を、玉蘭が「待てっ」と強くつかんだ。
「けど、どう見ても生きた人でないですよ!」
早く引き留めなければ、どこに連れていかれるかわからない。
「気にならないか? どこに向かうのか……」
「墓場とかじゃないんですか?」
「そうかもな……けれど、あれは昨夜は現れなかった。今夜現れた理由があるはずだ」
後をつけるぞ、と、玉蘭は行列が通り過ぎるのを待って身をかがめながら追いかける。どうやら玉蘭の好奇心を大いに刺激したらしく、瞳が爛々と輝いている。この状況で楽しめるその胆力が羨ましくもあった。雲秀は「まったく、ゆっくり寝かせてくれよ」といささかぼやきながら、放っておくわけにもいかずに後に続いた。
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