第一章 9 生き残り
その男子は『悠月』という名で、苗字はないという。よっぽど腹が減っていたのか、揚げたてのゴマ団子を皿に盛って出してやると、喉に詰めそうな勢いで頬張っていた。
「ああっ、私のゴマ団子だぞ。少しは遠慮しろ!」
玉蘭は瞬く間に皿から消えていくゴマ団子に焦ったのか、急いで口に押し込んでいる。二人とも競うように食べるものだから、揚げるほうが追いつかない。この様子では、自分が食べる分は残っていなさそうだなと、菜箸でゴマ団子をクルクルと回しながらため息を吐く。
ようやく食べ終えると、二人ともすっかり満腹になったのか満足そうな顔をしている。残っているのはたった二つほどだった。それでも残っているだけまだましというものだろう。雲秀はやれやれと、椅子に腰を下ろした。すると、悠月が「お、お茶をいれます!」とすぐに立ち上がった。急須を取ると、少し温くなってしまっているお茶を慣れない手つきでいれてくれる。身なりこそ貧しそうだが、礼儀正しい。躾が行き届いているのだろう。
「ああ、ありがとう」
お礼を言って湯飲みを受け取ると、悠月は緊張したように背筋をピンッと伸ばして椅子に腰を戻した。
「お、美味しかったです……あの、すみません。いっぱい食べてしまって……」
恥ずかしそうにうつむいて言う彼に、「いいさ」と笑顔で返す。それに、半分以上食べたのは横でお腹をさすっている玉蘭のほうだろう。「食べ過ぎた、苦しい」と、唸っている。それも、自業自得だ。
「君はどうしてこの村に?」
お茶をすすりながらさりげなく尋ねてみると、悠月は膝においた手に視線を落として、唇を一文字に結ぶ。言いだし難いことでもあるのか、口を閉ざしてしまう。
「面倒くさいやつだな。さっさと話してしまった方が身のためだぞ」
そう言ったのは、玉蘭だ。小皿に盛った落花生をつまんで口に運んでいる。
「……僕は……この村に住んでいたんです……」
「村の子か……けれど、村の人たちは……」
「そうです……みんな……死んでしまいました……おじいさんも……みんな……」
悠月は真っ青になって俯くと、「誰も助けられなかった……」と震える声で呟いた。半年間、ため込んでいた感情が堰を切ったようにあふれ出したのか、ボロボロと涙をこぼして泣き出す。雲秀は玉蘭と顔を見合わせる。これ以上、すぐには聞き出せそうになかった。
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