13.ケイとエルリア
ケイは、これからよろしく、と言った。
しかし、ケイが動けるようになったのならそのことを国に報告しなければならない。古代遺物であるケイがエルリアのもとにいるのは、もとはといえば研究を進めるためなのだから。
そうなれば、おそらくケイはさらなる研究のために連れて行かれるだろう。
でも、あの話を聞いた後じゃ……。
「ああよろしくね、ケイくん。エルリアのことをどうかよろしく頼むよ。」
「師匠……?」
「このことは報告しないよ。そもそも、この計画が上手くいくと思っているものなどいないだろう。それに、エルリアはケイくんの姿を誰にも見られずに連れてきたしね。言わなくてもバレないバレない。」
か、軽い……。確かに、ケイに管理タグのようなものがつけられている訳でもないし、ケイの姿を知っているのはエルリアとジュティアだけだ。
普通にしていれば、ただの人間と変わらない。ケイのことを、機械だと思うものなどいないだろう。
「い、いいんですか?」
「ああ、大丈夫だ。何かあった時の責任は私が取るよ。卒業したとは言え、君は私の一番弟子だからね。」
エルリアを優しく見つめるジュティアの目は、親が子を見守るような目と同じだった。
「さて、これからのことだが、ケイくんはこのままエルリアのもとにいるってことでいいんだよね?」
「はい。マスターがよろしければ、こちらにいさせていただきたいです。家事でもお仕事のお手伝いでも、何でもお任せください。自分で言うのもなんですが、私はかなり使えると思いますよ。」
「これは頼もしい助手ができたな、エルリア。お前の人見知りも、ケイくん相手だと問題ないようだし、ちょうどよかったじゃないか。」
ケイが優秀なことは、この短い時間で充分に理解している。私としては、ケイが家のことをしてくれるのはものすごく助かる。常々、お手伝いさんを雇いたいと思っていたから。(他人が家にいるのは落ち着かないから断念したけど。)
人見知りがケイに発動しなかったのは、ケイとは三ヶ月間毎日一緒に暮らしていたからだ。……まあ、動きも話しもしていなかったが、そこにいるのが当たり前になっていたため、今も普通にしていられる。
「あとは、そうだな。エルリアはケイくんにこの世界のことを教えてやれ。ここは、一万年前とはかなり違うだろうからな。」
「そして、ケイくんはこれから人間として生活すること。君の存在がバレてしまえば、きっと研究者共に連れて行かれてしまうだろうからな。ゴーレムだとバレないように気をつけてくれ。」
「ケイくんは、死にかけていたところをエルリアが保護した記憶喪失の男、ということにしようか。なにか怪しまれても記憶喪失だからだと言ってしまえば、相手が勝手に納得してくれるさ。行くあてもないので、恩返しのためにエルリアの家で助手をしているってことで。いいかな?」
「よし、エルリアの元気そうな顔も見られたことだし、私は帰るとするかな。ケイくん、くれぐれも、ゴーレムだとばれないようにね。じゃ、またくるよ。」
ジュティアは、これからのことを次々と決め、指示を出してさっさと帰ってしまった。
いつもならなんだかんだ言いながら一泊はしていくのに、少し様子がおかしかった。必死にいつも通りを装っていただけで、本当は動揺していたのだろうか?
エルリアは、不安そうな顔でジュティアの背中を見送った。
ケイはそんなエルリアを見守り、ジュティアの姿が見えなくなったところで家に入るように促した。おとなしく家に戻ったエルリアを見て、静かに玄関の扉を閉める。
「マスター。今日は、」
「あの!その前に、ちょっといいかな?」
エルリアに促され、ケイは再びソファに座った。
「さっきはごめんなさい。ちょっと驚いて取り乱してしまって、ひどい態度をとってしまって……。」
エルリアは、ケイを拒絶してしまったことを後悔していた。心は無いと言っていたけど、エルリアにはケイが傷ついているように見えたのだ。
ケイは、微笑んでこたえる。
「気にしないでください。マスターが取り乱すのは当然です。私のような得体の知れない者、ここに置いていただけるだけでありがたいのですから。」
「ありがとう……。私も、ケイが家事とか手伝ってくれるとすごく助かりますから、その、よろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。マスター。」
マスター……。ずっと言いたかったけど、他のことに気を取られて言えてなかったこと。エルリアは、ようやくここで、それを言ってしまおうと決めた。
「その、マスターっていうの、やめませんか?私はあなたの主人になったつもりはないし、なにより人に聞かれたら怪しまれます。普通に、エルリアってよんでください。」
少し傷ついたような顔をしたケイは、最後の言葉を聞いて驚き、ハッとして顔をあげる。
「い、いいんですか……?」
「良いも何も、名前で呼んでくれないと困ります。」
なんでケイがそんなに驚いているのか分からないエルリアは、本当に困った顔をしている。
ケイは緊張の面持ちで、ゆっくりと口を開いた。
「…………エルリア」
「そう。それでいいです。」
「人の名前を呼んだのは、はじめてです……。ありがとうございます、エルリア……。」
じんわりと内側からにじみ出るように微笑んだケイの顔を見て、エルリアはチクンと胸が痛んだ。
こんなに表情豊かなケイに心が無いなんて、やっぱり思えない……。
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