11.ゴーレムの生きた時代


「し、し、し、ししょ~!!!」


 突然のジュティアの登場に、エルリアは、心から安心感を覚え、ジュティアに縋りついた。


「おやおや、どうしたんだい?師匠が恋しかったか?そうかそうか。」


 ジュティアは満更でも無さそうにエルリアを撫でながら、部屋を見渡してあることに気がつく。


「あれ、エルリア。ついにあの古代遺物くん仕舞っちゃったの?一ヶ月前は変わらずそこにあったのに。……リビングに置いておくと、防犯対策にもなっていいと思うんだけどな~。」

「防犯対策なら師匠から頂いた魔道具で十分です!それより師匠!ど、どうしましょう……!」

「……なにかあったのかい?」


 エルリアはそっと振り返り、ケイを指差す。


「……あれが、先程師匠がおっしゃった、古代遺物くん、です。……一万年以上前に、生まれたそうです。」

「…………あらまぁ。」


 さすがのジュティアも、口をあんぐりと開け、驚いていた。





「いや~、それにしても違和感ないねぇ。動いてない状態でも、かなり人には近かったけど、動いてもそのまま人間にしか見えない。ねぇ君、その腕、どこまで曲がるの?人間より可動域広かったりする?」


 しかし、ジュティアは、その事実をあっさりと受け止め、ケイを質問攻めにする。すごく楽しそうだ。


「し、師匠……受け入れるの、早すぎでは?」

「いや~生きてればいろんなことがあるからねぇ。いちいちうろたえていたら、時間がもったいない。私は、私のしたいままに生きているのよ。」


 さすがジュティアだと感心するエルリア。


 普段、尊敬することなんて無い師匠だと思っていたが、こういった考えは、見習いたい。


「それで、色々と考えることはあるけど、まずは君の話を聞きたいな。……ケイくん、だったかな?君が生きていた時代は、どんな世界で、君は何をして生きてきたのか、そもそもゴーレムとは何か、教えてくれるかい?」

「かしこまりました。私は、人とゴーレムが共存……いえ、ゴーレムがいなければ人々は生きていけないような世界で生まれました。」


 そこから、ケイが話してくれた話は、想像を絶するものだった。






 ゴーレムとは、最初はただの動く人形、今で言うロボットのようなものだったらしい。


 ものを運ぶゴーレム。畑を耕すゴーレム。床掃除をするゴーレム。プログラムされた行動だけを行い、意思はない。ただの機械だった。


 世界が発展すると同時に、ゴーレムも発展していった。人の言葉を理解し、答えることが出来るようになる。自ら学習し、行動できるようになる。動きも見た目も、人間とほぼ変わらない。ケイのようなゴーレムが数多くいた。


 ただひとつ、人間と違うのは、ゴーレムには心がないこと。


 主が嬉しそうならば共に笑い、主が悲しそうなら共に泣くことはできる。しかし、ゴーレムが自ら笑い、悲しむようなことは一切無かった。


 もともと、人の生活を支えるために生み出されたゴーレムは、徐々に社会へ進出していった。店の店員がゴーレムになり、事務員がゴーレムになり、警備員がゴーレムになり、騎士団までもがゴーレムになった。


 そんな時代に、怠惰な王が生まれた。


 王は、政務を嫌がり、その仕事はゴーレムが担うようになった。ゴーレムは、国を発展させ、人々の生活はますます快適になった。怠惰な王は、歴史的に名を残すほどの賢王と言われた。


 人々は完全に働く必要がなくなった。ゴーレムが稼いだお金で、人々は生活する。ゴーレムが作った料理を食べ、ゴーレムが洗った服を着て、ゴーレムが整えたベッドで眠る。人々は、ただ生きているだけの存在になった。


 とある時代の王は、野心家だった。


 軍事用ゴーレムを大量に生産し、世界を侵略せよと、王代わりのゴーレムに指示を出した。


 その指示通り、数十万を超える軍事用ゴーレムが生み出された。まずは、小さな隣国を滅ぼした。その隣国には、軍事用ゴーレムがほとんどいなかったからだ。


 壊れても、新しく生み出せばいいだけのゴーレム。死んでしまったら、代わりはいない人間。戦力差は圧倒的だ。


 隣国の土地で、さらに多くの、そして、高性能な軍事用ゴーレムが生み出された。そしてまた、次の国を滅ぼし、更にゴーレムを生み出す。それの繰り返しで、世界はゴーレムによって征服された。


 自国以外の、ほぼ全ての人間は死に絶え、それと同じくらいのゴーレムが生み出された。


 ついにゴーレムの数が、人の数を大きく上回ってしまった。


 怠惰な生活に慣れきった人々は、自分で考えることをしない。この時、生きていた人間は全て、人々が働かなくなった後に生まれた。そもそも、考えるということを知らないのだ。


 人々がただひとつ続けてきたのは、ゴーレムに魔力を供給することだけだった。

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