6.師匠からの贈り物

 エルリアが選んだそれを馬車まで運んでもらい、帰路につく。


 


 ようやく到着したか、と馬車を降りたエルリアだったが、そこが見覚えのない場所だったことに、再び困惑する。


 森の近くにポツンと建っている一軒家。赤い屋根に白い木の壁で可愛らしい家のまわりには、花壇で囲われた広い庭がついている。少し遠いが、歩いていける距離には街もあるようだ。


「師匠、ここはどこですか?」

「エルリアの家だよ。」


 さらっとそう答えるジュティアに頭が痛くなる。


 エルリアはさっさと遺跡から持ってきたそれを担いで家の中に入っていくジュティアの後を仕方なく追う。


 家の中は、柔らかい色合いでまとめられた可愛い家具が揃っていて、すぐにでも生活できそうだ。


 ジュティアはリビングにあった二人掛けソファに荷物を降ろし、エルリアをダイニングに誘ってお茶を入れた。


「師匠、聞きたいことが山ほどあるのですが……。」

「まあまあ、これでも飲んで落ち着きなさい。説明はちゃんとするよ。」


 エルリアは一度深呼吸をして、ジュティアが入れたお茶を一口飲んだ。爽やかな香りと、温まった身体がエルリアを落ち着かせる。


エルリアの落ち着いた様子を見て、ジュティアは説明を始めた。


「まず、この家だけど、もとは使ってなかった私の家だ。修繕はちゃんとしたから、今日から問題無く住めるよ。実は、管理する時間が無くて手放そうか考えてたんだよね。でも、丁度良いタイミングで君が弟子を卒業することになったから、君にあげる。」

「あげるって……。そんな簡単に……。」

「私が良いって言ってるんだから、良いんだよ。……それとも、他に住む場所決めてたりする?」

「いえ、それはまだですが……。わかりました、受け取ります。ありがとうございます。」


 ジュティアの寂しそうな顔を見て、エルリアはありがたくこの家をもらうことに決めた。正直、弟子を卒業したばかりの、お金のないエルリアにはとてもありがたい贈り物だ。大切に使わせてもらおう。


「よかった!ここだったら、私の家からも気軽に来れる距離だしね。ちょこちょこ様子を見に来るよ。庭は薬草園にでもしたらいいし裏の森は、素材の宝庫だよ。しかも、危険な動物もモンスターもいない、安全な森だ。新米錬金術師のエルリアには最適でしょ?」


 ポーションで生計を立てている錬金術師なら誰もが望むような土地に、エルリアは心底驚く。こんなにいい土地を譲ってくれるなんて、何か裏があるんじゃないか?と怪しむエルリア。それに対してジュティアはカラカラと笑っている。


「ここは、私が新米のときに住んでいたんだ。私の名が広まるのが早かったのも、この土地とおかげと言える。だから、期待してるよエルリア。王都で君の名前を聞くのを楽しみにしている。」


 期待が重すぎて、顔がひきつるエルリアだったが、それならこの土地を充分に活用させてもらおうと、気合いが入った。





「で、エルリアが一番気になってるのはあれのことかな?」


 ジュティアの目線を追うと、そこには遺跡でもらってきた巨大なものがひとつ。まだ布に包まれたままで置かれている。


「あれはね、あの遺跡で見つかった古代遺物だ。三百年研究されてきたけど、ひとつも解明できていない、謎に包まれた古代遺物。」

「…………は!?なんでそんなものが!?」


 古代遺物なんて貴重なもの、どうして錬金術師であるジュティアが手に入れることができたのか。それも、私に譲り渡そうとしているのだ。


「実はね、とある貴族が『三百年も研究が進んでいないんだったら、一般のものにも研究してもらって、少しでも可能性を広げた法が良いんじゃないか』って高い支援金を出して公開されることになったんだよ。幸い、この形の古代遺物は数え切れないほど眠っていたからね。この国に登録されている錬金術師全てに一体ずつ渡しても、あまるくらいらしいよ。」

「それで、国に登録されている錬金術師の師匠のもとにも……?」

「そうだ。受け取った後は、研究するも、分解するも、放置するも、自由にしていいらしい。壊しても問題ないんだって。……人に譲るも、ね。ただし、一人ひとつしかもらえないらしいけど。」

「じゃあ、師匠が研究すればいいじゃないですか。なんで私に?」

「あいにく、私は古代遺物には興味がない。……でも、君は違うでしょ?古代語で書かれた本を持っていたじゃない。」


 そう。それはエルリアが錬金術師を目指すきっかけになった本。その本は、古代語で書かれていて、全てを解読することができなかったのだ。世界中の言葉を解読してきたエルリアが……。


「国家試験に合格すれば、もう一体手に入るよ。エルリアだったら、すぐにでも合格しそう。」


 さすがのエルリアも、古代遺物をふたつも手元に置いておく状況にはなりたくない。しかも、どういったものなのか全くわからないものを、だ。






「……まあ、そんなことは置いといて。エルリア、初対面といこうじゃないか。好きな子を選んでもいいって言ってるのに、さっさと決めてしまうんだもんね。どんな子なのか、楽しみだ。」


 エルリアも内心ドキドキしながら古代遺物の前に立ち、それを覆っている布に手をかける。

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