3.素材採取
エルリアがジュティアのもとに来て、二年がたった。エルリアは現在、十二歳だ。
「さあ、エルリア。今日はポーションの素材でも取りに行こうか。」
「師匠、急な予定変更は困ります。せめて前日に言っておいてください。」
今日は散らかり放題の部屋を掃除しようと思っていたエルリアは、眉を顰めてジュテティアを見上げる。そんなエルリアを見てジュティアはケラケラと笑っているのだ。
「まあまあ、いいじゃないか。エルリアもたまには予定なんて考えずに過ごしてみなよ。意外と良いものかもしれないよ?」
「……はぁ~。」
わざとらしく大きな溜息を吐いたエルリアは、しぶしぶ外へ出る準備をし始めるのだった。
王都を出てしばらく進んだ先にある森。その手前にある草原に、二人は立っていた。
「よし、エルリア。君は森に入り、ヤコウトカゲの尻尾を取ってきてくれ。私は薬草を摘んで、先に帰っているからね。」
エルリアは目を見開き、ジュティアを凝視している。今言われた言葉が信じられないのだ。
「……はっ?!師匠、知ってます?ヤコウトカゲって、新月の夜にしか出ないんですよ?正気ですか?!」
「安心してくれ、エルリア。今日は新月だ。」
「そういうことを言ってんじゃないんですよ!私にこのまま、夜まで待てと言うんですか?!まだ十二歳の私に?!」
「ああ、ごめんごめん。ちゃんとご飯は買ってあるよ。……はい。君の好きなタマゴサンドとフルーツサンドも入っているからね。」
何を言っても、ジュティアは聞く気が無いらしい。エルリアがこのまま、夜の森でヤコウトカゲを狩ることは決定事項のようだ。
ジュティアはそそくさと薬草を摘み、エルリアを置いて帰ってしまった。
のんびり薬草採取をしたり、あたりを散策しているうちに日が暮れてきた。今日は新月。辺りはじきに真っ暗になってしまう。
「【ライト】」
エルリアは、生活魔法の【ライト】で自分のまわりを照らした。
エルリアが使える魔法は生活魔法のみ。少しの水を出したり、小さな火をおこしたり、こうやって自分のまわりを照らすくらいしかできない。武器らしいものは、薬草採取のための小さなナイフのみ。
もし、獰猛な動物や、危険なモンスターに出会ってしまえば、エルリアは逃げるしか無い。……ジュティアは何を考えて、エルリアにこんなことをさせているのだろうか。
完全に日が暮れ、辺りが真っ暗になってきた頃、エルリアは動き出す。森に入り、目を凝らしてヤコウトカゲを探すのだ。
ヤコウトカゲはその名の通り、夜になると青く光るトカゲだ。背骨に沿うような縦線模様が、トカゲの背中で淡く光る。
ちなみに、黄色や白色に光るトカゲもいる。それらはハッコウトカゲといわれ、新月でなくとも夜になれば光り出す。
どちらも、夜にしか現れないと言われるが、それは実は間違いだ。
夜でなくても見つけることは出来るが、ヤコウトカゲとハッコウトカゲは光の色でしか判別できないのだ。
昼間の状態だけ見ると、全く同じ種類のトカゲ。しかし、これをポーションに使用するとなると、その効能は全く違ったものになる。
「黄色、黄色、白、黄色…………」
森の入口からでも多くの光を確認できるが、その殆どは黄色。たまに白い光が見えることもあるが、青色の光はひとつもない。どうやら、もう少し奥に入らなくてはいけないらしい。
五分ほど進んだところで、ようやく青色の光を発見した。逃げられないように足音を消してそっと近づく。
エルリアは、トカゲの視界に入らないように後ろからそっと手を伸ばした。そして勢いよく尻尾をつかむ。
「……よし!」
驚いたトカゲは、そのまま尻尾を切り離して逃げていった。切り離された尻尾は、光を増してエルリアの手の中で暴れまわっている。
尻尾の光が増したり、暴れまわったりしているのは、それが敵の注意を引いている間に、自分が逃げるためだ。それを初めて知った時エルリアは、なんて賢いんだと感心していた。
動きが落ち着いてきた尻尾を瓶の中に入れ、また青い光を探して歩き出す。あまり森の奥に入りすぎないように、今度は草原に向かって進んだ。同じ道であっても、違う角度から見てみたり、時間が経っていたりすると意外と違う生き物が見つかるものだ。
それから何往復かするうちに、エルリアは十匹のトカゲの尻尾を集めることができた。
「こんなものか……。」
幸い、危険な動物やモンスターに出会うこと無く、無事に帰路につく。
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