第3話 三

 四月十三日、今度の日曜日は二人の記念日だった。出会って初めてのデートをしたのが、この日。お互いの誕生日と、この日だけは、ちょっとだけ特別なことをする。と言っても、そのとき気になった店のコース料理を食べたり、見晴らしのいい美術館を訪ねたりするくらい。あまり芸術に造詣の深くないトオルと作品を鑑賞すると「スゴいね」「すばらしいね」しか言わないので恥ずかしくなる。

 今年の四月十三日は、私の働く美術館では大きな企画展の真っ最中で、休みが取れるような状況ではなかった。そこで、トオルが提案した。

「グランシェフ有川で、ディナーの予約したよ。ナミの仕事が終わるころ、車で迎えに行く」

 グランシェフ有川は、郊外にあるカジュアルフレンチレストラン。家庭的な雰囲気で、ソースの味も良く、二人のお気に入りだった。ドフィノワというじゃがいものグラタンを初めて食べたとき、顔を見合わせて「おいしいね」と微笑んだ。依頼、毎回オーダーする。

 おまかせコースにドフィノワを単品で――

 カレンダーに、ピンク色のマーカーで印を付けた。

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