第2話 二

 二週間ほど経った月曜日。この日も休みで、やっぱり約束もなかったので、新しく借りてきた美術書を楽しもうと決めていた。いつものようにコーヒーを淹れる。今日は二杯分淹れておこう。図書館用の布袋に入っている二冊を取り出して並べた。

 どっちから読もうかな。緑色の頑丈な装丁の画集は日本画で、もう一冊は日本現代アートの作品集。やっぱり現代アートかなと、カラフルな表紙に触れようとしたとき、

 あれ?日本画の分厚い画集のページの中ほどから、白いものがはみ出ているのに気付いた。引き抜いてみると、その小さな紙きれには見覚えがあった。とっさに、カウンターの雑誌の山を探る。

 あった――。あの店のレシートだ。

〈おでん・大根一二○円 たまご一二○円 牛すじ一八○円 缶ビール二九○円〉会計は、やはりモバイル決済。他人のレシートなど、どうでもいいけど、こんなふうに偶然が重なると、さすがに気になってくる。支払い日時を見てみると、先日見つけたレシートが三月六日十八時四十五分、今日のが二月七日十八時五十二分。両日とも金曜日となっている。

 私の頭の中に、ひとつの人物像が浮かんだ。芸術趣味の独身サラリーマン。金曜日の仕事帰りに、ちょっと寄って、おでんをアテにビールを飲む。独身なら、いっそのこと、うどんや丼ものを食べるか――。

 ふっ。軽く笑って、今度こそゴミ箱にニ枚のレシートを捨てた。

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