第39話 火炎
一年の教室棟は三階にあり、その奥と手前に階段がある。奥の階段をのぼりきると僕と江崎さんがよく通っていた、屋上の階段室につながっている。そこにはまだ江崎さんの死体が残されているのだ。
教室棟をまっすぐ進めば、そこに香月が籠城しているのだろう。でも、トラップを張って銃を構えたヤツの所にみすみす入っていく気はない。
いぶし出すのだ、この火炎瓶で。
職員室のある本棟から教室棟の三階へと入っていき、なるべく遠くに向けて火炎瓶を投げた。瓶が割れ、火炎とガソリンがあたりに飛び散る。赤い舌が廊下を天井を壁を這いずり回る。ドン。床に爆弾が仕掛けられていたのだろう、大きな音とともに粉塵が上がった。
やがて火の手が上がった。非常ベルが耳をつんざくような音を立てて鳴り響くなか、赤い炎と黒い煙がもうもうと校舎を焼きはじめた。花火に火をつけたときに出るような臭いを、何百倍にも煮詰めたような悪臭が漂ってきた。スプリンクラーが作動して水を撒きはじめたが、火の勢いは抑えられない。
校舎が消失したら、バリアはどう作用するんだろう? 都合よく外に出られるようにはならないだろう。きっと校舎は焼け落ちてもバリアは残り続けるのだ。このゲームが終わるまでは。
双眼鏡をのぞいて火の手の動きがあるかを探る。しばらく待ってみたが、なんの反応もない。あるいは煙の向こうで見えなかっただけか。
『火炎瓶作戦はうまくいってる?』
とスマートフォンの向こうから草木。
「相手に動きはない。向こうに回る」
『気をつけなさいよ。はっきり言って捨て身の作戦なんだから。あんただってケガしかねないわよ』
「わかってる。ありがとう」
『……いいわ。無事に帰ってきて』
ほどなくして、向こう側に部屋から出てくる人間たちの姿が見えた。人間たち? そうだ、間違いない。そこには計三人の姿が見えた。ひとりは香月だが、ほかの二人は煙にまぎれてよく見えなかった。彼らは階段をのぼろうとしてあきらめ(おそらく上からくる煙がひどかったのだろう)、階下に降りて行った。
やつらは何者だ? 眉間にしわを寄せ考えるが、よくよく考えればおかしい話でもなかった。きっと香月が蘇生させた仲間たちなのだろう。
下の階から逃げる腹づもりなのかもしれない。いいだろう、迎え撃ってやる。僕も階段を下りた。
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