第32話 作戦

 テーブルの上にはアフタヌーンティーセット。紅茶を淹れたポットがあり、チョコチップのクッキーがあり、スコーンがあり、マフィンがあり、カップケーキがあった。


 テーブルの上に敷かれたギンガムチェックのテーブルクロス。ガラス窓から午後の日差しが差しこむ食堂は、ちょっとしたお茶会の席となった。


「えー、クッキーおいしい! 御堂くんってばこんなおいしいものを食べてるの? ねえ、やっぱり結婚してよ。美礼の二号とかでいいからさ。考えておいて」


「お前にはプライドってものがないのかよ」


 これまでの世界でなら交わることのなかったであろう連中と共に会食をしている。草木はパクパクと食べ、東村は黙々と食べていた。


「草木さん、こちらのマフィンも美味しいですよ」


「本当? あ、おいしい! やわらかい! 最高じゃん! 金持ちのアフタヌーンティー最高!」


 僕は紅茶をすすった。確かにティーパックのとは違う、深く香り高い味わいがある。喉越しも丸みがあって心地よい。金の力は美味を堪能できるというところに美点があるような気がした。


「それで、作戦とはどのようなものですか?」


 東村はお茶のカップに口をつけた。


「もう四人を復活させる。それから君たち二人を含んだ六人に、これから倒すべき六人の家についてもらう。そこで様子を見て、変化があれば携帯電話で報告してもらう」


「なるほど。プレイヤーが死んだりすれば、バリアが消失して家は荒廃する。そうなったらあなたに連絡すると」


「そうだ。誰が死んで誰が生きているかリアルタイムに分かるだろう――ってなんだこれウマッ」


 何の気なしに口に運んだバナナのカップケーキがとんでもなく美味かった。自然な果実の甘み、香ばしいバターの風味。あっという間に丸々ひとつ食べ切ってしまった。


「えっ。じゃあなになに、私たちにずっと突っ立ってろっていうの? 戦いが本当にいつ終わるか分からないのに? ていうか戦況はアルバムを見れば分かるんでしょ。それでいいじゃない。あたしたちが出る必要ってある?」


「それを見るには一度扉のある外側まで戻らなくてはいけない。その点人海戦術でリアルタイムに戦況を知ることができれば大きなアドバンテージになる」


「でも一日中突っ立ってるのは嫌よ」


「でもね」


 東村は草木の手を取り、手の甲をやさしく撫でた。


「お金と命がかかったゲームなんですもの。何十時間かそこら頑張ることがあってもいいんじゃない?」


「いや、もう少し人を解放しよう。二人の知っている範囲で協力的な人間をピックアップしてくれないか? 協力者は多いほどいい」


「その分財産が減っちゃうけどいいの?」


「勝利には変えられない」


「それってつまりシフト制にするってこと? 一日二交代? ちょっとブラックすぎない? これはボーナス弾んでくれないと!」


「なかなかキビシイ労働者だな」


 僕は自身の眉尻が垂れこめていくのを感じた。

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