第24話 闘争part2(香月)

「見事なお手並みだね。一発でしとめるなんて」


 僕は銃口で、彼が殺した女子生徒の死体をつついた。


「御堂開さんか。殺しておくべきだったかな? 彼はもう一人前の殺人鬼だ」


 人を殺すのにためらいというものがひとかけらもなくなっている。こうなったら殺人者としてレベルが上がったと言わざるをえない。初心者は虫も殺せないが、上級者は虫同然に殺す。


 空腹を感じた。そろそろに戻らなくてはいけない。弾薬も切れつつある。それから睡眠も必要だ。数時間のロスがこのゲームでは致命的なダメージを意味するが、生理現象ならば仕方ない。


 僕は腰にぶら下げていたトランシーバーを手に取った。


「こちら香月です。オーバー」


『こちら〈死体処理班〉。オーバー』


「二階職員棟女子トイレで死体が発生しました。すぐに処理をお願いします」


「いま行きます」


 このゲームでは奇特な連中が現れた。彼らは〈死体処理班〉と呼ばれている。


 大量の死体が発生する本ゲームだが、生徒の一部にはその死体を回収して、同じ部屋に収納し処理(何重にもビニールのゴミ袋で巻きつけるというお粗末なものだが)して、お経を読むという葬儀の真似事をしている。どうやらお寺の息子が主導しているらしい。ご苦労なことだ。


 凶器が飛び交うなかで、死体を引きずって回収する彼らの存在は殺人者としては絶好のターゲットであり、逃しておく手はないように思われる。


 とはいえ、積極的な参加者としては死体が散らばる廊下で一戦を交えるというのも不快なものだ。それらはゆくゆくは腐敗して悪臭を放つわけだし、なるべくばらまいて置きたくない。だから、参加者たちは紳士協定として彼らを襲わないようにしていた。


 僕は彼らの信用を取りつけ、彼らが利用しているトランシーバーをひとつもらう算段をつけた。このトランシーバーは闘争の起こった初期に生徒会が〈死体処理班〉に貸与したものだ。僕はこれを利用して、死体の場所を把握し、誰がどこで死んだかを把握していたのである。


「そろそろ狩りどきだね」


 誰に言うでもなくつぶやいた。


 いま生存している人間は〈死体処理班〉を含めて二十人にも満たない。転がしておいても問題ないだ。今や彼らは用済みだ。このゲームでは最初に紳士協定を破ったものが利を得る。


 彼らはその数五人。五人分の財産が手に入れば、もっといい武器を新調できるだろう。寺の息子なら金もどっさり持っているかもしれない。


 さて、と頭をひねる。


〈死体処理班〉が駆けつけてきた時、効率的に誰ひとり逃すことなく全員を殺すには死体をどういう配置にしておくのがいいだろう?


 僕は頭をひねる。こういう考え事をしているときが一番楽しいんだ。

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