第116話 『摩周湖ダンジョン』

 一つ目の街でお弁当を食べた私達は、ちょっと休憩した後、摩周湖目指して出発した。バフが乗ってるので歩くスピードが速い速い。このままだと、次の街まで1時間ほどで着いちゃうね。


 次の街でも生存者は発見できず、まだ時間があるということでさらに先に進むことにした。この先はしばらく街がないので、一気に摩周湖まで行きたい。さりげなく誘導しながら、霧の摩周湖を目指す3人組。すっかり辺りが暗くなった頃、私達は摩周湖に着いた。


「……これ、ダンジョンだよな?」


 暗がりではあるが、目の前にはぽっかりと空いた地下迷宮ダンジョンの入り口がはっきりと見えている。お兄ちゃんの言った通り、摩周湖に地下迷宮ダンジョンができていた。


 確かダンジョンマスターがすごく強いから、決して戦わないようにって言ってたよね。とりあえず、ここに地下迷宮ダンジョンができていることを戒さんに伝えれたからオッケー。後は釧路港を目指すだけ、と思っていたのだけど――


「よし、今日はここで休憩して明日、このダンジョンを探索しよう」


 戒さんがとんでもないことを言い出した。いやいや、みんなと待ち合わせしてるのに地下迷宮ダンジョンに入ってる暇はないでしょ!?


「えっと、ここでそんなに時間取って大丈夫ですか?」


 ほら、楓ちゃんだって心配しているでしょ。


「それは大丈夫。さっき連絡を取ったら我々はだいぶ早く進んでるらしいから」


 ああ、そうでした。ここは電話が通じるから連絡を取り合ってるんでした。うーん、お兄ちゃんはこの地下迷宮ダンジョンは98階層まであるって言ってたから、さすがにダンジョンマスターのところまでたどり着くことはないでしょう。


 特に否定する言い訳も見つからなかったので、とりあえずおいしい夕食をいただいて、念のため三人で見張りを交代しながら一夜を明かした。




「じゃあ、入るぞ」


 次の日の朝、戒さんを先頭に摩周湖地下迷宮ダンジョンへと入って行く。摩周湖の特性なのか、洞窟型の地下迷宮ダンジョンの中は霧が充満していた。そのせいで視界が悪く、魔物の気配も感じづらい。


 1階層にそれほど強い魔物がいるとは思えないけど、そもそもここに地下迷宮ダンジョンがあること自体が異常なので、慎重にならざるを得ない。


「戒さん、います。前方におそらく3体ほど。闘争鬼オーガに見えますが、少し小さい気がします」


「ふむ、この霧の中でよく気がついたな。1階層だからそれほど強い魔物はいないと思うが、慎重に行こう」


 私の情報に歩みを更に遅くして、ゆっくりと魔物に近づく戒さん。ようやくその姿が確認できるところまで近づいた時に呟きが聞こえた。


「鬼か」


 霧の向こうに現れたのは、三体の赤鬼。異世界の闘争鬼オーガではなく日本の鬼。しっかり金棒まで持っている。やっぱりここはお兄ちゃんが言ってた地下迷宮ダンジョンに間違いないね。


 こちらが向こうを確認したのと同じように、向こうも私達を認識したみたい。生意気にも声をかけあいながら、こちらへと向かってきた。何を言ってるかはわからないけど。


「一体任せる」


 そういうが早いか、戒さんは一番近い赤鬼に切り掛かっていく。戒さんの勢いのある振り下ろしをかろうじて金棒で受け止めるが、力負けして膝をつく鬼。

 その先頭の鬼をフォローしようと、後ろから来た鬼が戒さんに殴りかかっていった。


 パシ!


 金棒を素手で受け止める日本No.1探索者シーカー。さらにはその金棒を鬼ごと持ち上げて見せた。


 ブウン!


 持ち上げた鬼を振り回し、膝をつく鬼に叩きつけた。


 ドゴン!


 鈍い音を残し倒れ込む二体の赤鬼。すかさず戒さんはトドメをさした。残りの一体は私達に任されたから、責任を持って倒さなきゃ。でも、この赤鬼の強さはそれほどでもなさそう。楓ちゃんが一人でも倒せるレベルだと思う。


 私は楓ちゃんに目配せをしてから、赤鬼の前に立つ。仲間があっという間に倒されたからか、がむしゃらに突っ込んでくる赤鬼。それらの攻撃を全ていなしながら、赤鬼の体勢が崩れたところで距離を取る。


 シュ


 小気味よい音がして赤鬼の首が落ちた。さすが楓ちゃん。目を見ただけで私が何を考えているのかわかってくれる。


「4級にしてはありえない威力だな。それにそのロッド……ひょっとして真白銀ミスリル製か?」


 楓ちゃんの魔法に戒さんも感心しているみたい。そういえば楓ちゃんはちゃんと後方支援に徹してたから、戒さんが見てる前で魔法を放つのは初めてだったかな?


「はい! 今回の北海道解放作戦に参加が決まったときに、とある方にもらったんです!」


 くうぅ、楓ちゃんの頬がほんのり赤くなってる。確かにお兄ちゃんにアレもらったとき、すっごい嬉しそうだったもんね。


「えっと、それってもしかしてアスカ君の刀と同じ人が……」


 ああ、その話に戻ってしまいましたか。


「あっ、えっと、その……はい」


 楓ちゃん、上手い言い訳思いつかなくて諦めたね!? って、私が最初にタダで作ってもらったって言ったのが悪かったのか!?


「何というか、詮索したみたいで申し訳ない。ただ、本当に真白銀ミスリルを加工できる者がいるなら……ぜひ紹介してほしい」


 何か戒さんが申し訳なさそうに、そして切実に訴えかけてきた。これは、なかなか断りづらい。


「一応、聞いてみますね」


 私はそれだけ言うのが精一杯でした。


 それから2階層、3階層と降りていったんだけど、戒さん曰く低階層の割に魔物のレベルが高いみたい。もっというなら、低レベルと高レベルが入り交じってるって。こんな地下迷宮ダンジョン初めてだって言ってた。

 まるで作りかけの地下迷宮ダンジョンみたい。


 そして、5階層に到達した私達の目の前には、まるで日本のお屋敷にあるような、立派な門が現れた。


「5階層とはいえ、このダンジョンは何かがおかしい。油断するなよ」


 戒さんはこの地下迷宮ダンジョンが普通と違う感じているようだ。私と楓ちゃんはその緊張感を肌で感じ、身体をこわばらせる。


 戒さんが門を開け、みんなで中に入るとそこには……


「おや? もう人間がここに来たのか? まだボスの配置が済んでないんだがな。まあ仕方がない。オレが相手をしてやるか」


 身長二メートルを超え、赤を基調とした袴のような服をだらしなく着崩している赤い肌の鬼がいて、流暢な日本語で話しかけてきた。


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