第114話 『いざ釧路方面へ』

 翌朝、獅子王さんの元に集まった探索者シーカーは、口々に釧路方面の調査に参加すると伝えていた。もちろん、私と楓ちゃんも一緒に行くつもりだ。結局、誰一人欠けることなく調査を続行することになった。


「では、出発しよう」


 いつも通りの冷静なかけ声に聞こえるけど、その顔はちょっと嬉しそうに見えた。何だかんだで、ピンチを乗り越えることで一体感が出てきた気がする。まあ、そのピンチを乗り越えることができたのは、ここにはいないお兄ちゃんのおかげだけど。


 釧路までは全員で固まって移動するみたい。私達が立派な戦力なるという判断だって! ちょっと嬉しいね!


 昨日休憩した場所は境界線ぎりぎりだったから、すぐに札幌圏内に入る。だけど、今回は中心部から離れるように移動しているから、上位悪魔グレーターデーモンのような上位個体は現れないはず。


 案の定、出てくる魔物は5級の小悪魔インプ悪魔狼デビルウルフといった下位の魔物ばかりだ。これには3級パーティーも大喜びで、率先して戦闘を買って出ていた。

 うん、今まで荷物運びばっかりだったからストレスが溜まっていたのかもね。


 札幌圏の南側を横断するように移動し、釧路方面を目指す。でも、これって釧路湿原を目指してるんだよね。そこにはもうダンジョンマスターはいない。むしろ、摩周湖にいるんだけどな。


 釧路方面はダンジョンマスターが地下迷宮ダンジョンに戻ったことで、魔物もほとんどが戻ってるみたいだけど、言うことを聞かない魔物がいるかもしれないって、お兄ちゃんが言ってたな。

 だから、安全地帯ではないんだけど……どこまで話せばいいのか。


 上手い言い訳を思いつかないまま、まる1日歩き続け戒さんに情報を伝えられないまま釧路圏内へと入った。釧路圏内は電波が通じるので、戒さんは足を止めすぐに電話をかける。30分ほど話した後、戒さんはみんなを集めて説明を始めた。


「今、政府の方から入った情報なんだが、釧路港を目指していた生存者のある一団が、魔物に襲われたそうだ。被害者もいたと聞いている。もしダンジョンマスターが消失したとしても、函館とは状況が違うようだ。むしろ、ダンジョンマスターが倒されていない可能性も考えなければならない」


 ちなみにだけど、襲ってきた魔物は鬼だったみたい。9級に位置する邪鬼じゃきと呼ばれる鬼の一種で、探索者シーカーにとってはたいしたことない相手だけど、一般人にとってはクマよりも脅威であることは間違いないね。


 確か政府の発表だと、釧路方面にいる魔物は毒蛙ポイズントード死の鰐デスアリゲーター蜥蜴人間リザードマンだったはず。いつの間にか鬼に代わってたらしい。

 

 原因はわかってないんだけど、ダンジョンマスターが替わったというのが有力な説のようだ。うん、お兄ちゃんもそう言ってたね。さて、どうしようかな。キー坊の名前を出せば説得力があるけど、あまり出し過ぎるとお兄ちゃんだと疑う人が出てくる可能性が高くなると思う。


 うーん、それとなく誘導とかできるかな……それとも成り行きに任せてもいいのかな? 強い魔物はいないみたいだし。


「さて、それを踏まえて考えてほしいことがある。このまま全員で釧路湿原を目指すか、手分けをして生存者を探すかだ。今の段階の情報だが、上位ランクの魔物は現れていないらしい。下位ランクの魔物なら、ここにいる探索者シーカーなら問題ないだろう。ただ、上位ランクの魔物が本当にいないかどうかはわからない。みんな、よく考えてくれ」


 おおっと!? これは願ってもない展開なのではないでしょうか! 私と楓ちゃんで摩周湖方面を担当すれば、自然に地下迷宮ダンジョンを見つけることができそう!


 ただ、ここにいるみんなは上位ランクの魔物がいないという確信はないだろうから、別れて捜索するかどうかは微妙なところだよね。まっ、成り行きに任せますか。


「よし、それじゃあ手分けをして探すことにする。だが、上位ランクがいないと決まったわけではない。釧路方面の中心部にはまだ向かわないように。それとパーティーは3つに分ける。

 俺を除く『皇帝』と速水達のパーティー。それから、仁のパーティー。最後に俺とアスカとカエデのパーティーだ」


 何と言うことでしょう。手分けするのはありがたいのですが、まさか戒さんと一緒とは。


「兄貴、まさか……」

「いや!? 違う!? 違うぞ弟よ!?」


 分かれたメンバーを見て、仁さんがぼそりと一言。みんなも何かを察したのか、今までの尊敬の目が軽蔑の目に変わっていた。もちろん、みんな『私達二人だけにするわけにはいかないからこうなった』ってわかっていたけど、あたふたする戒さんは何だかかわいく見えました。


「そ、それじゃあ、今日はもう遅いから、明日の朝から生存者を探しに行こう。ここは電波が通じるから、携帯電話で連絡を取り合いながら釧路港を目指そう」


 動揺した戒さんは早口でそれだけ捲し立てると、さっさとテントを張りに行ってしまいました。他のメンバーはその様子を微笑ましい顔で見守っている。札幌では死にかけたけど、却って団結力が増したみたい。すごくいい雰囲気だ。

 そう考えると、誰一人欠けることなくここまでこれたのは間違いなくお兄ちゃんのおかげ。感謝、感謝だね!


 私達は、慌ててテントを張りに行った戒さんの代わりに見張りの輪番を決めて、それぞれ野営の準備を始めた。

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