第99話 vs ネームドモンスター①

 昨日はチーム『推し活』の6級昇格試験でやらかしてしまった。明日香に自慢したくて、闘争馬バトルホースを手懐けたのも結局追求されちまったし、何ならその考察スレッドとやらが乱立しているみたいだし……


 それに、ボスゴリラとの戦闘で土の壁アースウォールを使ったのもよくなかった。まあ、あの距離だと炎の壁ファイアーウォールなら不破さんにもダメージが入っちゃうから仕方なかったんだけど……


 あー、海斗のパーティーに入ったことでしばらく見なかった監視役が復活してたからな。配信とかも見られちゃってるかもしれない。うーむ、面倒くさい。やっぱり協会に呼ばれたりするのかな。何とかごまかせないかな……


 俺は『探索者・スキル・虚偽報告』と検索してみる。なるほど、場合によってはライセンスが剥奪される恐れがあるか。


 よし、なるようになるだろう。


 どのみち俺は魔物料理屋が順調だから、探索者シーカーにこだわる必要はない。妹のピンチだって、最早、明日香が探知に入ればピンポイントで転移できるようになってるし、ライセンスは必要ないだろう。


 俺は昨日のことは気にしないことにして、朝ご飯を作り始める。今日は普通にご飯と味噌汁に目玉焼きだ。おっと、目玉焼きの下にハムを敷いてやろう!


『明日香は今頃何をしてるかなぁ』なんてことを考えつつ、朝食をいただく。うん、魔物料理もいいけど、やっぱり食べ慣れた日本食は落ち着くね。


 朝食の後は地下迷宮ダンジョンを軽く回って食材を集めた後、レンタルキッチンで動画の撮影をした。


 今日はルーから作るクリームシチューと、みんな大好きカレーライスにしてみた。よく考えたら、今までのメニューって結構大人向けが多かったから、今度は子どももおいしく食べられるお手軽料理にしてみたってわけだ。


 そういえば、クリームシチューは小麦粉を結構使うんだよな。小麦粉の生産量1位と言えば北海道だ。確か十勝地方とかオホーツク地方に多いんだっけか。どっちもまだダンジョン化されてる地域だな。今度こっそり取りに行こうかな。ダンジョンマスターにさえ見つからなければ何とかなるでしょ。


 とりあえず今回は、福岡県の白糸の滝地下迷宮ダンジョンで採ってきた小麦を使うとしよう。あそこは水がきれいだからおいしい小麦が採れているはずだ。




 2時間ほどかけて満足できる動画を撮影できたので、いつでもアップできるように準備しておいた。もう、動画一本アップするだけで億を超える再生回数になるからね。この収入だけで十分やっていけちゃうのですよ。いや、十分どころか明日香の稼ぎと合わせると、ちょっと多すぎるかもしれないな。

 今度、寄付でもしてみるかな。


 配信用に作ったシチューとカレーを食べたので、お昼ご飯はいらないだろう。

 さてと、午後はどうしようかな。食後の運動がてら地下迷宮ダンジョンにでも行ってみるか。ついでにレア鉱石でも探してみようっと。


 俺は以前真白銀ミスリルを採りに行った石見銀山地下迷宮ダンジョンへと転移した。前回は24階層まで行ったから、今回は25階層のボスを倒してその先を目指してみるか。


 24階層まで直接転移して、すぐに階段を探す。ものの10分程度で見つけることができたので、すぐに25階層のボス部屋へ突撃した。


 中にいたのは紫色の金属でできた紫金剛彫像アダマンゴーレムだった。


(丁度いい。アダマンタイトの刀を創るとするか)


 俺は紫のゴーレムを念動力で固定し、ミスリルの刀に魔力を纏わせ腕、足を切り落とし、最後は頭を真っ二つにして討伐完了。ドロップしたアダマンタイトの塊をアイテムボックスへと収納した。

 確か紫金剛彫像アダマンゴーレムは1級の魔物だったかな? 特に苦戦もしないからランクはどうでもいいけど。


 それから25階層の転移水晶に魔力を登録して、26階層へと向かった。


「このくらいで十分かな?」


 あの後、数体の紫金剛彫像アダマンゴーレムを倒し、十分な量の紫金剛アダマンタイトを手に入れたので、早速、刀を打ってみた。


「うん、ミスリルよりも魔力の通りもいいし、斬れ味も抜群だ」


 できのいい刀に満足した俺は調子に乗って明日香用の刀も打ってみた。それと楓ちゃん用のロッドも。海斗は……今度でいいや。


 目的を果たした俺は自宅へと転移した。そのすぐ後のことだった。


(助けて! お兄ちゃん!)


 愛しい我が妹から、助けを求める念話が入ったのは。


 俺はすぐさま転移で函館へと飛び、探知を広げて明日香を探す。札幌の中心部辺りで見つけたので、すぐさま明日香の目の前へと転移した。


「誰だ! 俺の妹に手を出したヤツは!」


 明日香が跪いているのを見て、思わず大きな声を出してしまた。だが、よく見ると魔力切れで動けなくなってるだけで、外傷はないようだ。むしろ、目の前にいるふたりの人間の方がよっぽど重傷に見える。

 倒れているのは獅子王さんだな。その隣で血まみれになりながらも武器を構えているのは、獅子王さんの兄ちゃんか?


 どっちも瀕死の状態だな。特に倒れている弟の方がやばそうだ。確か、明日香に完全回復薬フルポーションを持たせていたな。あの赤目の悪魔っぽいヤツは俺が相手をするから、明日香にあの兄弟を任せるか。


「明日香、渡してあった魔力回復薬マナポーションを使うんだ。それから、あのふたりに完全回復薬フルポーションを飲ませてやってくれ」


 明日香は、俺の声にハッとしたように鞄から小瓶を取りだし中のポーションを飲み干す。そして、さらに2本の小瓶を出して獅子王兄弟の元に駆け寄る。


「私がそれを許すとでも? まずは小娘から……む? 身体が動かない」


 赤目の悪魔が邪魔しようとしたから、念動力で固定してやった。しかしこいつ、結構強いな。念動力もすぐに破られそうだ。


「お前は向こうにでも行ってろ」


 俺は念動力が効いているうちに、赤目の悪魔に跳び蹴りをかまし吹き飛ばしてやった。『ドン!』と鈍い音を残して吹き飛ぶ悪魔。これで明日香はゆっくりポーションを飲ませてやれるだろう。


 俺は明日香が獅子王兄弟の元にたどり着いたのを確認してから、吹き飛んでいった悪魔の後を追った。

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