第98話 『北海道解放作戦⑥』

 私達が前線組に追いついたときに、戒さん達は2体の魔物と戦っていた。何だか人間の身体に馬の顔とねじれた角をつけた、いわゆる悪魔と呼ばれるような魔物だった。

 戒さん達が戦っている方が身体が大きく強そうで、仁さん達が戦っている方の上位種族だと思われた。


 私が見た感じ明らかに両方とも押されていたから、すぐにサポートに入るためにかけだした。後ろから楓ちゃんがついてきてくれたのが心強い。


「仁さん、こっちは私達が引き受けます。仁さんは戒さんの方にいってあげてください!」


 仁さん達が戦っている方が弱そうだったので、私がそっちを引き受けて仁さんに戒さんのサポートに入ってもらうのが一番と判断して、悪魔の前に躍り出た。仁さんは一瞬迷った素振り見せたけど、向こうの状況も危険と判断して私に任せてくれた。


 おそらくこの悪魔は2級あたりか。属性竜エレメントドラゴンと同じ位かやや強いくらいだろう。であれば、私でもいける!


 こちらで仁さんと一緒に戦っていた天王寺尊さんが、この魔物は純悪魔デーモンといって、闇魔法を使ってくると教えてくれた。

 私は迎撃魔法を準備しつつ、お兄ちゃんが用意してくれたミスリルの刀を抜いて、純悪魔デーモンへと斬りかかっていった。


 確かに皮膚は硬いし魔法耐性も持ってるみたいだけど、魔力を纏わせたミスリルの刀はいとも簡単に切り裂いてくれた。警戒していた闇魔法も発動は遅いし、私の水魔法で簡単にかき消すことができる。

 動きも私の方が速く、最早負ける要素は見当たらなかった。


 私は素早い動きで翻弄し、手傷を負わせたところで心臓を一気に貫いてやった。


 こちらが戦闘を終えたときには、戒さん達も大きな悪魔を倒し終えていて、私の判断が間違っていなかったと証明してくれた。ちらっと見てたけど、やっぱり兄弟の連携ってひと味違うね。私もお兄ちゃんとの連携だったら、もっと上手く動ける自信があるよ。あっ、でもお兄ちゃんならこの程度の魔物なら一撃だね。私の出番なんてないわ。


 後方支援の私が前線の戦闘に参加するのは規則違反だったと思うけど、今のはかなりピンチだったらしく逆にお礼を言われてしまいました。戒さんも、私と手合わせをして実力を知っていたから任せられたって言ってくれた。うん、あの手合わせも無駄じゃなかったんだね。


 私達が到着する前に傷を負った人達もいたみたいで、少し休憩することになった。各種ポーションを手渡してお昼ご飯を食べる。つかの間の休息に皆さん少しホッとしてるみたいでした。




 十分な休憩を取った後、前線パーティーはさらに札幌の中心部に向かって出発した。私達は2時間の待機だ。先ほどレベルの魔物がいるとなるとうかつには動けない。ここからは生存者の捜索は諦めて、完全に補給メインで動くことになる。


 私達は待っている時間を利用して、ポーションや食料の残量を確認して再度均等に割り振る。それから魔物が出てきたときの対処についてや、移動時の役割分担を再確認した後、きっちり2時間に後を追うように休憩場所を後にした。


 道中は先発隊が魔物を倒してくれていたおかげで、私達が襲われることはなかった。時折倒れている魔物の死体から魔石を抜き出ししまっておく。これも私達の仕事だ。


 そんな調子で歩くこと1時間半。前方からかなりの速度で近づいてくる集団を発見した。私はパーティーメンバーにそれを伝え、先頭に立って警戒する。そして、私の強化された視力が捉えたのは何かから逃げるように走ってくる前線組の姿だった。


「何があったんですか?」


 前線組が戻ってくるなんておかしい。しかも、獅子王さん兄弟の姿が見えない。最悪の展開が頭をよぎる。


「はぁ、はぁ、悪魔だ。上位悪魔グレーターデーモンより遙かに格上のネームドモンスターが現れた。戒と仁は俺達を逃がすためにその場に残った。お前達も一緒に戻るぞ」


 悪い予感が当たっちゃいました。獅子王さん兄弟が魔物に殺されてしまう……


 私が行ってどうなるものでもないかもしれないけど、あのふたりを絶対に死なせたくない。


 私は気がつけば、止めようとするみんなを振り切って走り出していた。




 全速力で走ることおよそ15分。前方に土煙が上がっているのが見えた。よかったまだ戦闘中みたい。でも急がないと。ふたりが魔法で一方的に攻撃されているように見えたから。


「戒さん! 仁さん!」

「来るな! ゴホォ、俺も長く持たない。今すぐ……戻るんだ」


 私が到着した時にはふたりは血まみれで、仁さんの方はすでに倒れて動いていなかった。戒さんも大声を出したせいか、大量の血を吐いている。


「おお、人間は仲間を助けるために死地へも飛び込むと聞いていましたが、まさかこの目で見られるとは! 今日は何という幸運な日でしょう。お礼にそこのお嬢さんもしっかり殺して差し上げますね!」


 戒さんと仁さんをこんな目に遭わせたのは、この赤目の悪魔に違いない。一目でわかる格の違い。たぶん私じゃ勝てない。だから……


(助けて! お兄ちゃん!)


 指輪に魔力を込めて、心の中で叫んだ。


 念話スキルにほとんどの魔力をもっていかれ、思わず片膝をついてしまう。これほどの相手を目の前に致命的な隙を晒すことになっちゃったけど、大丈夫。なぜなら……


「誰だ! 俺の妹に手を出したヤツは!」


 私の目の前に大好きなお兄ちゃんの背中があったから


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