第96話 『北海道解放作戦④』

「戒、このままじゃまずいぞ?」


 上位悪魔グレーターデーモン相手に苦戦してる俺に尊の焦った声が届く。こちらの状況以上に、向こうのパーティーがピンチなのかもしれない。だが俺はこいつから目を離すわけにはいかない。


「尊、向こうのサポートに回ってくれ」


 かといって、仲間を見捨てることもできない。こうなれば、一か八か向こうに戦力を集中させて一気に倒してもらうしかない。俺の負担が増えるが、これが現状最善の策だろう。


「いいのか?」


 長年一緒に戦ってきた仲間だ。俺の覚悟が伝わったのだろう。苦しそうな声で確認してきた尊に、顔を向けることなく頷く。背後から尊が離れていく気配を感じながら、俺は上位悪魔グレーターデーモンへと斬りかかっていった。


 尊の援護がなくなり、状況は更に厳しくなった。震雷の火神はこちらに残ってもらっているが、彼の魔法では上位悪魔グレーターデーモン耐性を突破できない。せいぜい目くらましにしか使えない上に、ヤツと接近しているときは、俺にだけダメージが入ってしまうため援護も期待できない。


 ひょっとして、ここで全滅するのかもしれないと思ったその時、救世主が現れた。


「仁さん、こっちは私達が引き受けます。仁さんは戒さんの方にいってあげてください!」


 この声は柊明日香だな。我々がもたついている間に後方支援組が追いついてしまったようだ。

 俺達が戦闘中の時は近づかずに待機するように言っておいたはずだが、彼女たちは見るに見かねてサポートに来てくれたのだろう。

 規則違反ではあるが、正直ありがたい。


「2級の純悪魔デーモンだぞ? いけるのか?」


「大丈夫です! 任せてください!」


 ありがたいどころか、頼もしいな。


 4級の探索者シーカーが2級の純悪魔デーモンに挑むなんて、端から見たら無謀かもしれないが、実際に手合わせした俺ならわかる。彼女の実力は決して純悪魔デーモンに劣るものではないと。そうでなければ、怒鳴りつけて追い返すところだった。


「兄貴、待たせたな。ここから反撃の時間だ」


 俺の隣に弟が並び立つ。今でこそパーティーが分かれているが、幼い頃からともに切磋琢磨してきた仲だ。こいつとの連携なら、上位悪魔グレーターデーモンだろうが問題ない。


 その上位悪魔グレーターデーモンは、アスカとカエデの参戦を止めるそぶりもない。相変わらず自分に自信があるようだ。だが、その余裕の表情もいつまでもつかな?


 まずは手始めに火神に上位悪魔グレーターデーモンの前にファイアーウォールを展開するように合図を出す。こういうときに、念話が使えるヤツがいると楽ができるんだが。

 上位悪魔グレーターデーモンの視界を遮ったところで、両手で足場を作り仁を空中へと放り投げる。それと同時に炎の壁に突っ込んだところで、火神がファイアーウォールを消した。


 目の前には俺の動きを予想していたのであろう、上位悪魔グレーターデーモンのいやらしい笑みが浮かんでいた。が、すぐにヤツは仁がいないことに気がつく。慌てて左右に視線を走らせるがそこにはいない。


「ハァァァ!」


 完全に頭上の死角から拳を振り下ろす我が弟。硬化スキルと腕力強化スキルの併用で、その破壊力は何倍にも膨れ上がっている。


 ドゴン!


 仁の拳は上位悪魔グレーターデーモンの角をへし折り、そのままの勢いで頭部を殴りつけた。


「キ、キサマ、ヨクモ我ガ角ヲ!」


 片膝を着いた上位悪魔グレーターデーモンの表情が初めて怒りに歪む。だが、そんなことで怒ってる暇はないぞ。脚力強化で踏み出した俺は、すでに上位悪魔グレーターデーモンへの追撃態勢に入っている。

 自慢のミスリルの剣を腕力強化にものを言わせて縦横無尽に振り回した。


 ザシュ!


 そのうちの一撃が悪魔の腕を切り落とした。それでも俺の剣は止まらない。脚、腕、胴体と傷をつけていきあと一息のところまでやってきた。


「調子ニ乗ルナ!」


 片腕を失い、全身傷だらけになりながらも未だ戦意が衰えていない上位悪魔グレーターデーモン。闇魔法を詠唱し、漆黒の鞭を生み出すが――


「させるかよ!」


 素晴らしいタイミングで火神のファイアーアローが発動し、闇の鞭を蹴散らした。


「終わりだ。断鉄剣」


 俺はとどめにスキルを発動させ、ミスリルの剣を橫薙ぎに振り抜いた。胸から上が後ろにずり落ち、下半身が2,3歩あるいたところで膝から崩れ落ちた。


 ホッとしたのもつかの間、俺達はすぐにもうひとつのパーティーの加勢に向かう。だがしかし、彼らの戦いを見たオレ達はすぐに加勢するのを諦めた。なぜなら、たったひとりの少女が縦横無尽に動き回り、純悪魔デーモンを圧倒していたのだ。

 純悪魔デーモンも何とか反撃しようと試みるも、闇魔法は水魔法でかき消され、自慢の爪も空を切る。純悪魔デーモンはこちらの戦闘が終わっているのにも気づかずに、最後は刀で心臓を貫かれ絶命した。


「すごいな……」


 横に立つ仁が呟く。こいつがこれほど素直に強さを認めるなんて珍しいな。だが、その思わず漏れたであろうその感想に俺も同意せざるを得ない。確か彼女は中学生のはず。その若さであの強さとは……末恐ろしいな。


「ふう、あっ、そちらも終わったのですね! お待たせしてすいませんでした!」


「あ、ああ。いや、いいものを見させてもらった。それに助けに来てくれて感謝する。正直、危ないところだったが君たちのおかげで無事倒しきることができた」


 まじか。純悪魔デーモンをほぼ単独で撃破して、息も切らせずに『お待たせしました』か。この少女はすでに1級の実力を持ってるのかもしれないな。彼女の場違いな発言と、屈託のない笑顔に俺達は気が抜けてしまった。


 幸い、この辺りに魔物はもういないようだったので、ここで少し休憩を取ることにした。後方支援部隊から各種ポーションを補充し、昼食をとる。生きて再び飯が食べられることに感謝しながら、だがしかし俺はこの先の戦いに一抹の不安を感じるのだった。

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