第93話 チーム推し活④

 できるだけ戦闘に参加しないように、どうしても魔法を使うときは、カメラに映らないように気をつけている。それが功を奏したのか、配信の方でもあまり大騒ぎにはなっていないようだ。

 定期的に俺を映せというコメント入ってるようだが、そんなものは無視だ無視。目立って面倒を引き込むのはごめんなのですよ。


 11階層の途中から森林フィールドに変化し、視界が悪くなったところで陣形が変わる。斥候の綿貫さんが先頭に、その後ろを不破さんが、更にその後ろを海斗と漣さんが、俺は一番後ろからついていく形になった。

 少々縦長になるが、斥候の綿貫さんの索敵能力を存分に活かす陣形らしい。海斗も色々考えてるんだな。


 森林フィールドは視界が一気に悪くなるから危険も増すのだが、俺にとってはカメラに映らない死角が増えるので願ったり叶ったりだ。上手く木の陰に隠れながら、時折、米粒大のファイアーボールで投擲猿スローモンキーなんかを退治しながら進んで行く。


 っとその時だった。俺の探知に闘争馬バトルホースがかかったのだ。しかも、都合のいいことに斜め後方からこちらに向かってくる。俺は明日香が羨ましがる顔を思い浮かべながら、こっそり闘争馬バトルホースの前へと転移した。


「ブルルルルル!」


「あぁん?」


 闘争馬バトルホースが生意気にうなり声を上げてきたから、威圧を使って脅してやったら、情けない鳴き声を出してひっくり返りやがった。腹を見せて服従してきたので、俺を乗せたら許してやるといったら嬉しそうに飛び起きて、俺が乗りやすいように脚を折り曲げて姿勢を低くしてくれた。


 俺は闘争馬バトルホースの背に乗り、海斗の元まで転移で戻った。


「お前、何やってるんだ!?」


 闘争馬バトルホースのカッポ、カッポ歩く音で気がついたのか、海斗が振り返って俺を見た瞬間、驚いて大きな声を上げた。

 いいね、その表情! ドッキリが成功した時みたいだ。


「バトルホースの上に……ショウ君?」

「むむむ、俺も馬に乗りたい……」

「えっ!? バトルホース!?」


 海斗の声に反応して振り向いた漣さん、不破さん、綿貫さんが三者三様の反応を示す。海斗意外の3人も驚いてくれたみたいで、これまた気分がいい。


”はっ? 何? 何が起こってる?”

”えっ? バトルホースに乗ってる? いつの間に?”

”お馬さんに乗るショウ様……素敵です!”

”白馬の王子様!”

”どう見ても白くねぇだろ! バトルホースは!”

”そのまま私を迎えに来て!”

”いやいや、それどころじゃないだろ? 魔物っていうこと聞かないよね?”

”聞くわけないだろ! あんなにかわいいホーンラビットだって、人間を見たら即襲いかかってくるんだぞ!”

”じゃあ、俺達は今何を見てるんだ?”

”超然イケメンのショウ様が凜々しく馬に股がってるところでしょ。静かにしてくれます?”

”ごらぁぁぁ! また誤字ってるだろう貴様! 『股がる』じゃなくて『跨がる』だろ! わざとか? わざとなんだな!?”


 しまった……。驚かすのに夢中でカメラの存在忘れてた……


 タブレットの電源を入れて確認すると、案の定大騒ぎになっていた。いろんな意味で。しかし、知らなかった。魔物って調教できないと思われてるのか。ひょっとして、調教スキル持ちっていないのか?


 俺は思考加速で考えた末、静かに闘争馬バトルホースから降り、森に帰らせてから何事もなかったかのように歩き始める。


「さっ、何やってるんだみんな? さっさと先に進もうぜ」


「「「誰のせいでこうなってると思ってんだぁぁぁ!」」」


 くっ!? さすがにスルーしてくれなかったか。ってか、そんなにきれいにハモることないだろう。海斗が念話で指示出したのか? 全く、スキルの力を無駄に使いやがって。


 とりあえず、配信していることを理由に先に進むことを提案する。『馬がいたから乗ってみた以外の説明は思いつかないぞ』って言ってやったら、すごすごと引き下がってくれた。


(あとで説明してもらうからな)


 と思ったら念話で釘を刺されてしまった。全く、無駄にスキルの使い方が上手くなってやがる。他の3名も追求するのは諦めてくれたようで、再び陣形を整えて12階層への階段を探す。

 コメント欄は今だ大騒ぎ中で検証班がどうとかこうとか書いているのを見て、俺は再び電源をそっと落とした。


 その後は休憩を挟みつつ攻略を進め、14階層まで何事もなく到着した。


 14階層は再び草原フィールドに戻っており、俺はまたカメラ映りを気にしながら必要最低限のサポートだけ頑張っていたのだが……


「あー、一応伝えておくか。海斗、どうやら空からお客さんが来たみたいだぞ」


 俺は誰も気がついていなかったので、仕方なく空を指さしながら教えてやった。11階層から14階層までの間に一体だけ存在するレアモンスター、飛亜竜ワイバーンがこちらに向かってきていることを。


「!? レアモンスターか!? 5時の方向! 戦闘態勢!」


 海斗の一言で全員が素早く戦闘態勢に入る。飛亜竜ワイバーンはその間もどんどん近づいてきており、俺達の真上に到達したところで上空で旋回し始めた。


「綿貫さん、矢は届きますか?」


 飛亜竜ワイバーンから目を離さないように海斗が確認する。


「スキルを使えば届くかもしれないけど、当たりそうにないし、運良く当たったとしても傷ひとつつけられないだろうね」


 さすがにこの距離じゃ矢は無理だよね。そうなると、こちらの攻撃手段はひとつに絞られる。


「ショウ、ファイアーボールならどうだ?」


 はい、来ました。そうなりますよね。矢が届かなければ魔法に頼るしかない。それはいい。俺の魔法なら届くだろうし、何なら一撃で倒してしまうかもしれない。しかしだ、問題は飛亜竜ワイバーン闘狒々バトルコングよりもワンランク上の5級の魔物だということだ。

 6級の昇格試験を受けに来ている7級の俺が、5級の飛亜竜ワイバーンを一撃で倒してしまったら……言い訳できん。しかも、これ以上手加減できないから、飛亜竜ワイバーン君には米粒大のファイアーボールを耐えてもらうしかないのだ。

 とは言え、何もしないわけにもいかない。このままだと、飛亜竜ワイバーンが吐く炎で一方的に攻撃されるだけだからな。


「やってみる」


 それだけを告げて、俺は超超手加減した米粒大のファイアーボールを作り出し、飛亜竜ワイバーンへと向けて放った。手加減して尚、高速で向かって行くファイアーボール。だがここで、飛亜竜ワイバーン君が頑張ってくれました!

 予想以上の回避能力を見せ、直撃を避けたのだ! 片方の翼を吹き飛ばしたものの、生きた状態で地面に落下してくれた。よくやってくれた飛亜竜ワイバーン君!


「落ちたぞ! みんなでかかれ!」


 相当高いところから落ちたせいで、ふらついている飛亜竜ワイバーン。そこに、不破さんのメイスが、綿貫さんの矢が、漣さんの槍が、海斗の剣が襲いかかる。

 俺のファイアーボールのダメージに落下のダメージまで加わった飛亜竜ワイバーンは、彼らの攻撃をはねのける力はなくあっという間に地下迷宮ダンジョンの藻屑と消えていった。

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