第92話 チーム推し活③

 明日香と楓ちゃんが北海道へと旅立っていった。少々心配ではあるが、後方支援って言ってたし、万が一のために念話付きの指輪も持たせたから大丈夫だろう。


 そして、この一ヶ月、明日香と楓ちゃんのレベル上げと合わせて、チーム『推し活』の方も精力的に活動していた。その結果、推し活のみんなは7級へとランクアップし、これから6級の昇格試験を受けるところまで来ている。この昇格の速さはなかなかのものらしく、協会からは期待の新人チームとして見られてるらしい。


 それから、魔物料理屋の方も順調だ。いや、順調どころか収益化が通ったことで、すごい大金が入ってくるようになった。一本料理動画を上げるだけで、再生回数が1億回を超えるようになってしまったのだ。

 登録者数も5000万人を超え、今もまだ増加中だ。最近は海外の登録者も増えてきているようで、英語のコメントなんかももらうようになってきている。


 それと同時に、魔物料理屋が何者なのかという話題も目にする回数が増えてきた。俺の素性を暴こうとするサイトやスレッドが乱立し、見当違いの推論を交わしている。協会でも密かにコンタクトを取ろうとしているようで、よく明日香に連絡が入ってるらしい。そう考えると、セキュリティが万全の家に引っ越しておいてよかった。


 そう言えば、今の話とは関係ないけど成金一家が逮捕されたって話を聞いたな。何でも、明日香の身内をかたって明日香ファンを騙したとか何とか。明日香に探索者シーカーの指導をしてもらえると言って金を取ってたみたいだ。

 当然、そんなことできるわけないから詐欺で捕まったとさ。協会から明日香に確認の電話が来たとき、明日香は『そんな人知りません』って答えたのだ。ざまあみろだね。これに懲りて、大人しくなればいいのに。


 さて、魔物料理屋の方は今以上に慎重に行動するとして、今日はチーム『推し活』の6級昇格試験だ。確か、6級の昇格試験はゴリラ退治だったよな。明日香が通った道をなぞってると思うと、なかなかに感慨深い。


「11階は草原フィールドだが、その先は森林フィールドになって14階からまた草原フィールドに戻る。草原フィールドは見渡しがいいが、それは相手も……」


 うんうん、海斗が攻略方法と気をつけるポイントを説明してるよ。さすがリーダーになる男は違うね! メンバーも俺以外みんな真剣に聞いている。やはりメンバーにも恵まれてるようだ。さすが、期待の新人チームと言われるだけある。


 そして一通り説明が終わった後に、海斗が何やら鞄から黒い物体を取り出した。えっ? あれはまさか!?


「よし、それじゃあみんな初配信を始めるよ! 準備はいいかい?」


 おいおいおいおい! ちょっと待ったぁぁぁぁ! 海斗が手に持ってるのはカメラ付きドローンじゃないか!? こいつ何勝手に配信しようとしてるんだよ。綿貫さんも、髪をとかしてる場合じゃないだろ! 不破さんも盾を磨き始めない! あっ、しかも盾が新しくなってるし。


「ちょっと待ってくれ海斗。初配信って何のことだ?」


 俺は努めて冷静を装って海斗に語りかけるように聞いた。


「何のことって、見りゃわかるだろ。このところの稼ぎでようやくお金が貯まったから、みんなで相談して金を出し合って買ったんだよ。上手くいけば知名度も上がるし、お金も入ってくるようになるかもしれないからな!」


 なんでこいつはさも当然のように話をしてるんだ。しかも、みんなで相談って俺は相談されてないぞ?


「俺は聞いてないぞ?」


「あー、ちょっとタイミングが合わなかったから伝えられなかったんだ。すまん!」


 こいつ何言ってるんだ?


「いや、お前『念話』持ってるんだから、タイミング関係ないだろ」


「いやぁ、俺の念話って結構魔力を食うからさ、まだ遠くまで届かないんだよ」


 こいつふざけてるんじゃないだろうな。


「昨日も、その前の日も、その前の前の日も、同じ教室に7時間以上一緒にいたのは俺の記憶違いか?」


 俺の突っ込みに海斗が固まる。余計な嘘をつくからそうなるんだ。と思ったらこいつ、とんでもない勘違いをしていた。


「すまない。正直に言うと、このドローンを買うのに結構な金を出し合ったから、お前にいわなかったんだ。お前の性格ならアスカちゃんに借りてまでも払うって言うだろうと思って。命の恩人のアスカちゃんに、そんな金を出させるわけにはいかないだろ?」


 ああ、そうか。そういうことか。確かに俺は結構な額の金を稼いでいることも、引っ越ししたこともこいつには言ってなかった。身バレを防ぐために、楓ちゃんにしか言ってないんだった。

 それで俺が貧乏のままだと思ってたのか。明日香が配信で稼いでいるのは知ってるから、俺が明日香から金を借りるんじゃないかと心配して……ってか、命なんて助けられてないだろ!

 しかし、俺のことを思ってと言うことがわかってしまって、思わず言葉に詰まってしまった。


「まあ、金のことは気にしないでくれ! ショウがこのパーティーに欠かせない存在なのは間違いないし、みんなも納得の上での決断だから!」


 くそ! 上手い言い訳が思いつかない! そのせいでどんどん話が進んでいってしまっている。もうこれは、配信するのは諦めるしかない。その上で俺の実力がバレないように振る舞わないとな。

 特に魔物料理を食べるのは厳禁だ。危ない危ない。魔物料理以外の食べ物も持ってきてよかった。気がつかなければ、そのまま食べるところだったよ俺は。


「それじゃあ、改めて配信を開始するぞ。……みなさん、おはようございます! チーム『推し活』のリーダーのカイトです。今日が初めての配信となります。見に来てくれたみなさんありがとうございます。緊張していますが、頑張ります。

 それで、今日の予定ですが……」


 海斗がカメラに向かって台本を読んでいるかのように話しかけている。棒読みっぽいけど、引っかからずに話せているところを見ると、結構練習したっぽいな。

 同接も、開始早々200人を超えている。おそらくどこかで宣伝してたんだろうな。俺に内緒で。ってか、まさか学校内で宣伝とかしてないだろうな。


 ちょっと心配になって、渡された腕時計型タブレットを確認する。


”待ってました! 最近、話題の新人パーティーの配信楽しみです!”

”おお、始まったか! SNSの宣伝見て来ました! 楽しませてくださいね!”

”やっほー! 教えてもらったから見に来たよ!”

”イケメン揃いって聞いてきちゃいました! うわさ通りカイトさんイケてますね!”

”宣伝から来ました! カッコイイところ見せてください!”


 俺はコメント欄を見て頭を抱える。明らかに知り合いが混ざってるだろこれ。


 それからカイトによるメンバーの紹介が始まった。不破さん、綿貫さん、漣さんと順番に紹介されていく。ってか、この人達も知り合いを中心に宣伝しやがったな。先輩がとか、友達がとか、上司がとか、部下がとか言われてるし。


 それにしても、この人達はなぜに本名で自己紹介するのだろうか。探索者シーカーが配信するときは、きちんと本名を言わないといけない決まりでもあるのだろうか?


 そしてついにカメラが俺の方を向き、海斗から自己紹介をするように促された。だが、上手い偽名も思いつかなかった俺は、ぺこりとお辞儀だけをした。とりあえず、偽名は後で考えるとしよう。


「おいおい、ショウ!? 何緊張してるんだよ! 名前くらいちゃんと自分の口から言えってよ!」


 バレた。速攻で名前がバレた。何してくれてんだカイトォォォォォォ!!


”……イケメン”

”えっ? 芸能人?”

”ショウさん、付き合ってください”

”あぁぁ? ブスは引っ込んでろ!”

”上のおかしなふたりは無視して、私だけを見て”

”チャットでてめぇの顔見れる分けねぇだろ! 黙って鏡でも見てろ!”

”一目でファンになりました。一生突いていきます”

”ごらぁぁぁ! 盛大に誤字ってるだろう! 突いていきますじゃねえよ! 突かれる方だろお前は!”


 俺はそっとダブレットの電源を切った。


 さて、自己紹介も済んだことだしさっさと先に進みましょうか。俺はできるだけカメラに映らない位置に陣取り先へと進む。


 11階層への階段を降りると、海斗の説明通り草原フィールドが広がっていた。


「じゃあ、作戦通りに進もうか」


 ここ草原フィールドは、こちらの視界もよいが裏を返せば魔物からもよく見えるということだ。この辺りで遠距離攻撃を持っている魔物はいないから、こちらは見つけ次第、綿貫さんの矢と俺の火魔法で先制攻撃する作戦だ。


 なので、斥候を綿貫さんだけに任せずみんなで四方を警戒している。とは言っても、俺が探知を使えば360度完璧にフォローできちゃうんだけどね。まあ、そこまでする必要はないけど、一応探知は広げている。自分の担当分しか教える気はないけど。


 ここの階層に出てくるのは 灰色狼グレイウルフ血塗熊ブラッドベアー闘争馬バトルホース何かもいるらしい。そう言えば、明日香は闘争馬バトルホースに乗れないか試してたな。結果的には乗れなかったみたいだけど、俺ならどうだろうか?

 上手く手なずけたら明日香が羨ましがるかもしれないな。よし、『調教』のスキルでもつけておくか。


 そんなことを考えながら、俺は極力戦闘には参加しないようについていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る