第91話 『北海道解放作戦③』

~side 獅子王戒~


 俺達は下位悪魔レッサーデーモンを仁達に任せ、建物の陰を利用しながら純悪魔デーモンへと近づいていく。


 上手いこと気づかれずに尊の弓の射程距離に入ることができた。槍使いの翡翠も、今回は弱点属性の光魔法で先制攻撃に加わってもらう。


強撃ちパワーショット!」

光の矢ライトアロー!」


 尊の必殺技と翡翠の魔法が同時に純悪魔デーモンへと襲いかかる。が、純悪魔デーモンは恐るべき反応で闇の盾ダークシールドを作りだし、両者の攻撃を同時に防いで見せた。


 だが、自ら視界を遮ったのは悪手だな。俺と翡翠は建物の陰から一気に飛び出し、純悪魔デーモンとの距離を詰める。

 闇の盾ダークシールドが消えたときには、俺達は純悪魔デーモンまで残り5mほどのところまで来ていた。


岩石衝突ロックインパクト!」


 俺達に気がついた純悪魔デーモンが上空へと逃げようとしたところで、時間差で放った時雨の大岩がヤツの頭上に落とされる。


「グゥゥゥゥ!」


 頭上から落ちてきた大岩を受け止める純悪魔デーモン。さすがは2級の魔物だが、果たしてその体勢で俺の剣を受けられるかな?


「ギャワァァァ!」


 大岩を前方に投げ、俺達の攻撃を防ごうとしたようだが甘い。俺は即座に左側に回り込み、純悪魔デーモンの脇腹を切り裂いた。


 今回も驚異的な反応で、致命傷は避けたようだがバックステップで逃げたのも悪手だったな。


「はっ!」


 鋭く息を吐きながら突きだした翡翠の槍が純悪魔デーモンの太ももに突き刺さる。


「グギギギギィィィ!」


 だが、まだ2級である翡翠の攻撃は純悪魔デーモンの脚を貫くには至らず、浅い傷をつけるに留まった。


 大きなダメージを与えることができなかったせいで、純悪魔デーモンはすぐに反撃に転じてくる。


「オノレ、ニンゲンドモメ!」


 純悪魔デーモンは闇魔法闇の鞭ダークウィップを唱える。途端に何本もの黒い鞭のようなものが現れ、まるで生きた蛇のように俺と翡翠に襲いかかってきた。


「きゃあ!」


 俺は迫り来る鞭を何とか剣で払いのけることができたが、翡翠は足を絡め取られ、放り投げられてしまった。


「双極斬!」


 俺は魔法を放って隙ができた純悪魔デーモンに、必殺技をお見舞いする。同時に二撃打ち込む剣技だ。


 ズシャ


 純悪魔デーモンの胸に×印の傷をつけるのに成功したが、これでもまだ致命傷には至らないらしい。怒りの形相で俺を睨みつけ、今度は闇の玉ダークボールを放ってきた。


 しかし、それは時雨の水の盾ウォーターシールドに防がれ俺には届かない。さらに、尊の矢が再び純悪魔デーモンに襲いかかり、今度は左肩に命中した。


「チョウシニノルナァァァァ!」


 度重なる攻撃に切れた純悪魔デーモンは、無差別に闇の矢ダークアローを放つ。狙いは定まっていないが、数十本の矢がこちらに向かって放たれ、逃げ遅れた時雨の右足を貫いた。


 しかし、ここで止まるわけにはいかない。すぐに助けに行きたい気持ちを押し殺し、純悪魔デーモンにとどめをさすべく距離を詰める。


「斬鉄剣!」


 鉄をも切り裂く必殺技で、ようやく純悪魔デーモンの首を切り落とすことに成功した。さすがの純悪魔デーモンも首を切り落とされては生きてはいられない。力なくその場に崩れ落ちた。


中回復ミドルキュア!」


 戦闘を終えたところで、隠れていたつむぎが時雨に近寄り回復魔法をかける。魔法によって貫かれた脚の傷が徐々に塞がり少しの跡を残して治療が完了した。

 いつみても紬の治癒魔法は規格外だ。彼女のおかげで多少の無理をしながらでも魔物を倒すことができる。


 その後、投げ飛ばされた翡翠の治療も終え、仁達が苦戦していた下位悪魔レッサーデーモンを切り裂き何とか魔物達を倒すことができた。


「お疲れのところすまないが、もう一団体お客様が来てるぞ。それもかなりの上客が……」


 ホッと一息ついたのもつかの間、斥候の尊が指さした先では純悪魔デーモンを二回り大きくしたような上位悪魔グレーターデーモンが、こちらを見て不適に笑っていた。


 ってか、2級の純悪魔デーモンですらあの強さってありえないだろう。誰だよあいつらを2級にしたのは。どう考えてもその辺の1級より強いだろ。その上の上位悪魔グレーターデーモンなんてS級に匹敵するんじゃねぇのか?


 そんな上位悪魔グレーターデーモンが、お供の純悪魔デーモンを1体連れてこっちに近づいてくる。くそ、余裕そうな顔しやがって。


 俺は翡翠に仁達のパーティーの加わるように指示を出し、代わりに火神をこっちに回してもらった。向こうには純悪魔デーモンを任せ、こっちは上位悪魔グレーターデーモンを何とかするしかない。

 それに、知能が高い相手だと、ヒーラーが最初に狙われる可能性がある。ヒーラー達には建物の陰に隠れるように、前衛には戦闘中はできるだけポーションで回復するように指示を出した。


「ヒサシブリノ人間ダナ。ココマデ来タコトハホメテヤロウ。ダガコノ先ニ何ノ用ガアルトイウノダ?」


 上位悪魔グレーターデーモンが割と流暢な日本語で話しかけてきた。それだけで、こいつの知能の高さがうかがえる。やっかいなんだよな。頭がいいやつは。


「それを聞いてどうする? ここで倒されるお前達には関係あるまい」


 こいつの性格を知るために、あえて煽ってみたのだが……


「フッ、デキモシナイコトヲ言ウモノダナ」


 特にいらだつこともなく、軽く躱されてしまった。あーやだね、この手の輩は。


 俺は上位悪魔グレーターデーモンの正面に立ち、純悪魔デーモンから引き離すように横へと移動する。上位悪魔グレーターデーモンはにやりと笑った後、俺の動きに合わせて移動し始めた。

 なるほど、あえて俺達の作戦に乗ってくれるという訳か。それほど自分達の強さに自信があるのか。だが、そう上手くはいくかな?


 向こうでは、翡翠と仁が純悪魔デーモンを引き離すように俺達とは反対の方へと移動していく。頼んだぞ。できれば早めに倒して手伝ってやりたいが、それはなかなか難しそうだ。


 十分距離が離れたところで、俺達は戦闘を開始した。


追尾撃ちコントロールショット!」


 開始の合図は尊の弓スキル追尾撃ちコントロールショットだ。おそらく強撃ちパワーショットも同時に使っての最強コンボだ。


「ムッ」


 一度は躱したはずの矢が弧を描いて戻ってきたことで、上位悪魔グレーターデーモンが僅かに驚く。だが、その矢も上位悪魔グレーターデーモンが持つ黒い槍に弾かれ砕け散った。


水球牢ウォータープリズン!」


 上位悪魔グレーターデーモンが矢に気を取られている間に、時雨の魔法が完成する。水魔法の水球牢ウォータープリズンだ。

 上位悪魔グレーターデーモンを包み込むように巨大な水球が完成し、中へと閉じ込める。並の魔物ならこのまま窒息してしまうほどの拘束力を持っているが……


 バァァァァン!


 黒い槍を横に一閃するだけで、水球がはじけ飛んだ。やはり、魔法には高い耐性を持っているようだ。であれば、接近戦で勝負するしかない。

 俺は地面を強く踏み込み、一足飛びで間合いを詰める。


「斬鉄斬!」


 俺は先ほど純悪魔デーモンの首を切り落とした必殺技を繰り出す。今回は出し惜しみなしだ。


 ブシュ


 俺の剣先が上位悪魔グレーターデーモンの腕を捉えたが、残念ながら腕の皮を僅かに傷つける程度に留まってしまった。まずいな。スキルを使ってこれしかダメージを与えられないとは。


 これはかなりの長期戦になりそうだ。その間、こちらはひとつのミスも許されない。なかなかしんどい戦いになるぞ。


 上位悪魔グレーターデーモンの攻撃は、俺以外が受けると一撃で致命傷になるレベルだ。全ての攻撃を俺が引き受ける気持ちでいかないとまずいだろう。魔法は……時雨に任せるか。


 俺は厳しい戦いになると予想しながらも、表情は変えずに攻撃を繋いでいく。チラッと目に入った向こうのパーティーは案の定苦戦しているようだった。だがもうしばらく耐えてくれ。こっちもギリギリの戦いなのだ。


 上位悪魔グレーターデーモンの攻撃を受けながら、俺は焦る気持ちを抑えるのに精一杯だった。

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