第90話 『北海道解放作戦②』

 函館から札幌までは最短距離でおよそ200km。東京からなら福島県郡山市まで行ける距離だ。北海道っておっきいんだね。

 いくら探索者シーカーといえども、さすがに200kmを1日でとはいかない。11時間かけて100kmほど進んだところで、野営することになった。

 崩れた建物も多いけど原形をとどめている建物も少しある。そんな建物を拝借して、パーティー単位で一夜を過ごすみたい。

 まだここは安全圏内みたいだから、遅れて出発した私達も特に何事もなく到着することができた。


 食料を配って、私と楓ちゃんも適当な空き家を探して中に入る。明日はいよいよ札幌圏内に入るから、生き残った人達の救出作業もあるかもしれない。事前の作戦をもう一度確認して、装備やアイテムの点検をしてから寝袋へと潜り込んだ。



 次の日の朝、日課のストレッチと軽い運動をしてから朝食を食べて準備を始める。昨日、あらかじめ決めておいた集合場所に集まって、まずは第一陣が出発した。



~side 獅子王戒~


「よし、みんな準備ができたみたいだな。この先少し進んだところから札幌圏内に入る。昨日と違って魔物が現れるから油断しないように。では、出発!」


 北海道解放作戦2日目。昨日まではダンジョンマスターが不在の安全地帯だったので、魔物と遭遇することはなかったが今日からは違う。札幌圏に入れば否が応でも魔物と戦わなければならない。

 我々は真っ直ぐダンジョンマスターがいると思われるテレビ塔を目指すが、第二陣には生き残っている人がいないか捜索しながら進んでもらう。できるだけ戦闘を避けるように指示しているから、少し遅れるかもしれないな。


 もし生き残りが見つかったら、安全圏まで護衛するようにも伝えているから、動きは少し流動的になるだろう。ここに来る前は、第二陣の戦力に不安があったが昨日でそれも払拭された。あの女の子がいれば多分大丈夫。


 アスカと呼ばれていたあの子はとんでもない強さだった。今、本気で戦えば俺が勝つかもしれないが、この作戦で彼女のレベルが上がったらもう勝てないかもしれない。それほどまでに昨日の模擬戦は僅差だったのだ。あの子なら、ダンジョンマスターやその側近達以外に後れを取ることはあるまい。


 後方の憂いがなくなった俺達は、テレビ塔目指してどんどん進んで行く。そして、30分ほど歩いたところで最初の魔物と遭遇した。


「戒、よくない知らせだ。300m先に石鳥人ガーゴイルが3体いる。そのすぐ先には下位悪魔レッサーデーモンが2体。どうやらここのダンジョンマスターは悪魔系のようだ」


 チーム皇帝の斥候役、弓使いの天王寺 尊てんのうじ たけるからの報告に思わず舌打ちをしたくなった。どうやら札幌のダンジョンマスターは悪魔族のようだ。


 悪魔族は身体能力が高い上に、魔法が得意ときている。大体が飛べる上に魔法耐性も高い。相当厄介な相手なのだ。石鳥人ガーゴイルは鳥の頭と羽に人間の身体。全身が石でできており、土魔法を得意とする。

 下位悪魔レッサーデーモンは大きさこそ人間くらいだが、見た目は悪魔そのもの。赤黒い身体にヤギみたいな顔と赤いルビーのような目。コウモリのような翼が生えており、こちらも空を飛べる。


「3級の魔物とはいえ、複数だと油断できないな。我々が先陣を切るが、相手に反撃させる隙を与えるな。残りのメンバーもすぐ後に続いて、全員で一気に行くぞ」


 2級の仁のパーティーともうひとつの3級パーティーに指示を出し、俺達は石鳥人ガーゴイルに向かって攻撃を仕掛けた。


強撃ちパワーショット!」


 尊が放った矢が1体の石鳥人ガーゴイルの腕を破壊し、後ろの家の壁に刺さった。敵襲を受けた残りの2体が飛び上がろうとしたところに、今度は天地 時雨あまち しぐれ水の刃ウォーターエッジが迫る。1体はかろうじて回避したが、もう1体は翼を傷つけられ地上へと落ちた。


「せい!」


 腕を破壊された石鳥人ガーゴイルが起き上がるタイミングで、西園寺 翡翠さいおんじ ひすいが槍を胸に突き刺す。


「ナイスタイミング!」


 俺はその動きを賞賛しながら、地上に落ちた石鳥人ガーゴイルにとどめをさす。これで残りは空中に逃げ出した1体のみだ。その一体も、震雷の火神が放った炎魔法で地面に落とされ、仁がとどめをさしていた。


 こちらの戦闘に気がついた下位悪魔レッサーデーモン2体は、3級のパーティーが足止めに成功している。下位悪魔レッサーデーモン達が使う闇魔法を、上手く躱しながら深い追いせずに時間稼ぎに徹していた。

 そこに石鳥人ガーゴイルを倒した俺達が参戦し、一気に勝負を決める。


 最初の戦闘としてはまずまずの連携だったが、相手が3級だったから上手くいった面もある。この先上位種が現れたら苦戦は免れまい。とはいえ、ここで帰るわけにはいかない。少なくともダンジョンマスターの姿は確認しておきたいからな。


 俺達は魔物の死体を焼き払ってから、先へと進む。ここでは魔物の死体は吸収されないようだ。魔石は手に入らないが、素材がそのまま手に入る。

 今はそれどころじゃないが、上位の魔物の素材が手に入ると考えると、何とも言えない気持ちになる。


 その後も、石鳥人ガーゴイル下位悪魔レッサーデーモン地獄犬ヘルハウンドなどを蹴散らしながら進んで行くこと1時間。ついにヤツらの上位種が現れた。


「戒、純悪魔デーモンだ。純悪魔デーモン1体に下位悪魔レッサーデーモン3体。どうする?」


 尊の報告に眉をひそめる。純悪魔デーモンのランクは2級。闇魔法を中心に2属性を操る魔物だ。知能も高く、ピンチになれば逃げるし仲間だって呼ぶ。1体なら、俺達『皇帝』で倒しきれるが下位悪魔レッサーデーモンを3体引き連れてるのがやっかいだ。


 ここは下位悪魔レッサーデーモン3体を仁達に任せ、俺達は一気に純悪魔デーモンを倒すしかないだろう。俺は後ろのパーティーに指示を出し、今度は慎重に純悪魔デーモンへと近づいて行った。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る